クラウドの美味しい手料理を満足行くまで味わったと言うのに、まだ心のどこかにもやもやとした物がこびりついていたセフィロスは、リビングのソファーに座りいつものように最近の科学文献を眺めながらも何も頭にはいっていなかった。
クラウドがいつものようにコーヒーカップを2つ持ってやって来て、いつものようにセフィロスの前にブラックコーヒーをコトリと置いたとたんに力強い腕が華奢な体をぐいっと懐に引っ張り込んだ。
クラウドの持っているコーヒーがこぼれそうになったが、とっさに掴んでテーブルに置いた。
「セ、セフィロス。一体どうしたって言うんだよ?」
「さあな。私にもわからないが…今夜はお前を離したくない。」
「もう。」
セフィロスに引き寄せられるのとほぼ同時に、クラウドも広くてたくましい目の前の胸にしなだれかかる。
クラウドとて男に抱かれる事に抵抗が無いという事はない。
しかし彼はセフィロスの腕の中に居られるだけで幸せなのであった。自分の愛している人が自分を欲して居てくれるのを感じられる、そして自分がどれだけこの人を欲しているのかわかる時なのである。たとえ女みたいに喘がされて逝かされても、自分が求められている幸せを感じていられる。今夜もそういった目くるめく夜がまもなくやってくる…
と、言う時にクラウドの携帯が鳴り響いた。あわてて携帯に出ると相手はエアリスだった。
「エアリス。一体、どうしたんだい?」
「あのね、クラウド君。今度いつデート出来そう?」
「デー…デートって、エアリス。君の恋人はザックスだろ?」
「だーかーらぁ!来月のプレゼント、今からじゃないと間に合わないって言ってたじゃない。」
「らいげ…ああ!そうだよ、うん。次の早出は3日後だから、その日ならあっちの仕事も無いし、5時には店に行けると思う。」
「ん、わかった。待ってるからー」
クラウドが携帯を切ると目の前にセフィロスが肩を震わせていた。
「セ、セフィ。どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…あの花売り娘め!私からお前を取り上げるつもりか?!」
「ちょっと、違うって!セフィロス!」
「何が違うと言うのだ?!大体エアリスとてザックスと言う男が居るのに、何かあるとお前を引きずり出す。まさか、お前に気があるのではないのか?」
「それは無いと思うけど…でも…うふっ!嬉しい。」
クラウドがセフィロスに再びしなだれかかる。
「ありがとう、やきもち焼いてくれて。」
潤んだような青い瞳、つんと尖った唇がどう見てもキスを誘っている。誘われるままクラウドの唇に口を重ねると先程中断させられた分を取り戻すべく、たっぷりとキスを味わうセフィロスであった
■ ■ ■
3日後の午後5時、8番街のフラワーショップ「Ange」に白のロングを着たクラウドが愛車のバイクを店のそばに停めて入って行く。中にいたエアリスがにこりと微笑むと、一緒に店にいた母親のイファルナに買い物に行く事を告げた。
エアリスにヘルメットを渡すとクラウドは再びバイクにまたがった。エンジンに火を入れると5番街のデパートへと走っていった。
5番街にあるデパートの地下駐車場にバイクを入れると、エアリスをエスコートしてデパートへと入り、エレベーターに乗り込んだ。
降りたフロアをエアリスが右に左にとクラウドを誘いながら歩くと、ある1コーナーにたどりついた。目的の場所であるそのコーナーで二人は並んで色々と物色しはじめた。
「あー、その色いいなー!」
「え?そうかな?どっちかと言うとこっちのほうがいいんじゃない?」
「ザックスはこっちよ、それはあの人のでしょ?」
「あ、えへへへ…」
同じ棚に一緒に並んでいる本を取りながら必要な物を揃えてキャッシャーに行く。カードで支払いをすませると手を繋いでデパートを出ようとエレベーターへと歩き出した。
その時、誰かがエアリスを呼んでいる声が聞こえた。
「え?あ、キャッシー!きゃぁ〜〜!!ひさしぶり!!」
「本当、卒業以来だよね?ところで、彼氏?」
「う〜ん、彼じゃないけど…」
「え?違うの?そんなに仲がよさそうなのに。」
「私の彼はこう言う所に付き会ってくれないのよ。だから彼の親友であるクラウド君に付き合ってもらってるの。」
「エアリスの彼ってどんな人なのよ?」
「えへへ…写真見る?」
携帯のメモリーから取り出した写真画像にはザックスとエアリスが並んで映っていた。黒髪の男をエアリスは頬を染めながら指差す。
「え?この人?」
「うん。凄く優しいの。」
「うーーん、たしかに爽やかそうだけど、こっちの彼の方がハンサムじゃない。」
「そうかなー?」
(エアリス…ザックスのこと大好きなんだ、よかった。)
クラウドはエアリスの言葉に笑顔を浮かべていた。
そこへ白のロングを来たエドワードとブライアン、ザックスが偶然通りがかった。
「お?姫。女の子に囲まれて、羨ましいな。」
「エディ、姫をナンパすると後が恐いぜ。」
「あれ〜〜、エアリスじゃんか。ま〜たクラウド連れまわしてたのかよ。」
3人の声に気が付き、クラウドが逆に問いかけた。
「エディ、ブライアン、ザックスどうしたんだよ?」
「ん?相方のお前がいないと俺も仕事が無いんだけど。」
「そんな理由で、女の子をナンパしにきた。」
「え〜〜?!まさかザックスも?!ひっど〜〜い!!」
「お、俺は無実だ!!だいいち俺には君っていうメチャクチャ可愛いフィアンセがいるじゃないか!」
「どうせ男3人暇を持て余して映画でも見に行こうかって事なんでしょ?」
「さすが姫。よくわかってるよ。」
気さくに笑いあう仲間達に驚きながらも、キャッシーは同じ服を着た4人の男を見比べていた。
ミッドガルに住む以上その服が意味する事を知っていた彼女は、目を丸くさせて隣りのエアリスに尋ねた。
「え?何、エアリスの彼って、クラスAソルジャーなの?凄い!」
「え?ええ、そうよ。」
「じゃあ…こっちのイケメンな彼もそうなの?」
「うん、クラウド君はこの4人の中で一番強いわよ。」
「俺が?一番??強い?」
「お、エアリスわかってるじゃねーの。そりゃクラウド強いって、神羅の英雄を押さえつけられる唯一の男だもんな。」
「ザックス、あとで正宗向けられるぞ。」
「俺、慣れてるし、事実しか言っていないもーん!」
「お前ぐらいなもんだな、キングに正宗向けられても平気な奴は!」
ソルジャー達の会話をよそにキャッシーは目の前の金髪碧眼の美少年に釘付けだった。思わず声を大きく上げてしまう。
「ね、エアリス!!この彼に私を紹介して!!」
「え?いきなりどうしたの?」
「だって、こんなにハンサムでかっこよくて、しかも強い男の人なんて、何処を探してもいないわ!!ね、君。誰か好きな人はいるの?!」
いきなり女の子に迫られてクラウドが後ずさりした。その後ろでブライアンとエドワードがげらげら笑っている。
「姫って、一応女にももてるんだな。」
「俺、姫が男以外に迫られるのを始めて見たぜ。」
「エディ、ブライアン。わ、笑っていないで助けてくれよー!!」
「ほれ、旦那。出番だぜ。」
「俺が?!冗談!!俺は至ってノーマルだ!!」
「エアリス、彼女にまだ話してないのかよ?」
「あ、うん。まださっき会ったばかりだもん。あのね、キャッシー。クラウド君にはねべたべたのラブラブの恋人がいて、その人ともう一緒に住んでるんだけど。」
「べたべたのラブラブって…そんなに酷くないよ。」
「いーや、ベタベタのラブラブだ。」
「一緒に暮らしはじめて、もう一年以上経っているんだろ?だけど今だにラブラブなんだから間違いではないな。」
「それでもカンパニーのソルジャー連中とかにも迫られてるけどな。」
ブライアンの言葉にちょっと拗ねて唇をとがらせるクラウドをいつもの癖でエドワードが頭を撫でるように髪をすく。すると自然とクラウドがにっこりと笑うのでエアリスがけらけら笑った。
「クラウド君。そんな事だからいつも女の子に見られるんだよ。」
「えーえ。どうせ俺は女にしかみえませんよ!」
「ま、いいさ。ところでエアリス、クラウドと一緒にいったい何してたの?」
「だから、クラウド君とデート!」
「そ、エアリスとデート!」
「まったく、お前が俺の弟分じゃなかったらぶん殴っているぞ。」
ザックスに首をガシッとホールドされて、クラウドがけらけらと笑っている。それを見てブライアンとエドワードが片手を上げて去って行った。
ザックスがさり気なくエアリスの紙袋を持つ。エアリスがにっこりとザックスに笑い掛けるのをみるとクラウドがふわりと微笑んだ。
キャッシーが目を丸くしてクラウドの笑顔を見ていた。
「うわ…綺麗ーーー!」
しかし、綺麗ではあるがどこかで見たような覚えがあると思い首をかしげていた。そんな彼女に気がついたのかエアリスがハッとしてクラウドのわき腹をつまむ。
「いててて…」
「あ、クラウド君どうしたの?お腹でも痛いの?」
そう言いながらエアリスがクラウドを庇うように地下の駐車場へと行くべくエレベーターに行くと、あわててザックスが後ろから紙袋2つ持って追いかけてきた。
エレベーターの呼び出しボタンを押してから、エアリスがキャッシーを振り返ってウィンクをした。
「ごめんね、キャッシー。またそのうち!」
明るい笑顔でエレベーターに乗り込み去って行ったエアリスたちをキャッシーはぽつんと一人で見つめていた。
そしてふとあることに気がつく。
「あ、他のソルジャーさん達にも紹介してもらうんだったーー!!」
と、いなくなった二人が聞いたら喜ぶような事を思いっきり叫んでいた。
一方、地下駐車場にエレベーターが到着すると、ザックスがエアリスを誘い愛車のデイトナで、クラウドは一人でバイクにまたがると8番街にあるエアリスの家へと向かった。
エアリスの家に着くとデイトナの小さなトランクに押し込んだ紙袋を取り出し、彼女に尋ねた。
「なぁ、エアリス。やたら軽いんだけど、この中身なんだよ?」
「内緒!教えてあげなーい!!」
「お?!もしかして、俺へのプレゼント??」
「ふっふっふ…どうかしら?ねークラウド君」
「うーーん、見せてもザックスならわからないんじゃないかな?」
「あ、そうかもね。見る?」
「みるみる!!」
ザックスが紙袋の中をのぞき込んだ。
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