エアリスとクラウドの持っていた紙袋の中身が知りたくて、ザックスが中をのぞき込んだ。
「え?何これ?」
「あ、やっぱりわからないんだ。」
「だって、ザックスだもん。」
クスッと笑ったクラウドにエアリスはちょっと酷いかもしれないが当たっているだけに何も言えなかった。
ザックスがちょっと渋い顔をして二人を眺めている。
「クラウドの奴の中身もこれなのか?」
「うん。エアリスと色ちがい。」
「これが、何かになるんだろうな。でも、何だろ??」
首をかしげているザックスに目を細めながら、エアリスがクラウドにおねだりをする。
「あの…さ。クラウド君。うちにする?クラウド君達のお部屋にする?」
「エアリスの家のほうがいいよ。だって、セフィならすぐにわかっちゃうもん。」
「そうだよね。うん、そうだよ。じゃあ、電話してね。」
クラウドから紙袋をあずかってエアリスが手を振る。
クラウドは片手を上げてバイクにまたがると、愛しい人と過ごす部屋へと帰って行った
部屋に帰るといつものようにエプロンを着けてキッチンへと行くと、夕食の支度を鼻歌交じりではじめます。
次第にでき上がっていく料理がテーブルに並びはじめると、地下の駐車場にセフィロスの車が止まったのを知らせる音がなる。
いつものようにきちんとテーブルのセットを終えると、玄関を開けてセフィロスが入ってくるのを迎える…はずだったのだが、今日はいきなりセフィロスが入ってきた。
「あ、ごめん。お迎えに遅れちゃった。」
「いや、いい。それよりもクラウド、今日またあの花売り娘と一緒に居たのか?」
「うん。ちょっと欲しいものがあってエアリスもそれが欲しいっていうんだ。だから一緒に買いに行ったんだけど…」
「ブライアンとエドワードに聞いたが、何処の奴とも知れない女がお前に迫っていたというが本当か?」
「うん、エアリスの学生時代の友達らしいよ。付き合ってくれって言われたけど、俺には同棲中の恋人が居るって断ったよ。エディもブライアンも”女にももてるんだな”って笑ってたけど…”も”ってなんだよ、”も”って!」
ブーブー怒るクラウドとは逆に、イマイチすっきりしないのかセフィロスが暗い顔をしている。
しかしクラウドが気にせず笑って料理を並べているのを見ると、少々のわだかまりぐらい吹き飛んで行くセフィロスであった。
いつものように美味しい料理を堪能しリビングでくつろいでいるとコーヒーをもってきたクラウドがいつものようにとなりに座るとぽつりぽつりと話しかけた。
「あのさ、俺しばらくエアリスと一緒にやる事があるから、また何か言われるかもしれないけど、俺には貴方しかいないんだから変な噂を聞いたら鼻で笑ってよね。」
「あの花売り娘と一体何をやるのだ?」
「内緒。教えたいけど、教えてあげない。でも楽しみにしてていいよ。」
「そうか、それは私のためということなのだな?」
「え?あ、あの…。その…エ、エヘヘヘヘ。」
クラウドが動揺を誤魔化す為に笑顔を作るがセフィロスにはバレバレである。その証拠に彼は口元をにやりとゆがめて薄ら笑いをしています。しかし愛妻のやる事を見守る事も自分の勤めとばかりに、素知らぬふりを決め込むことにした。
クラウドは冷や汗をたっぷりとかいているが、セフィロスがそれ以上聞いてこないので、自由にやらせてくれるとわかった。
ちょっと嬉しかったから思わずセフィロスのほっぺにチュっと唇を寄せた。
「ありがとう、セフィ。」
「ん?何の事だ?」
「あ、そうだ。いい加減エアリスの事”花売り娘”って呼ぶのやめようよ。」
「何故だ?」
「セフィにだって”セフィロス”という名前が有るのに、”英雄”とか呼ばれるの嫌でしょ?」
「さあな。私は名前で呼ばれた方が少ないのでわからんが?」
「でも、エアリスは名前でしか呼ばれていなかったのに…ちゃんと両親の付けた名前が有るのに”花売り娘”だなんて酷いよ。」
「そう言う物なのか?」
「そう言う物なの。俺の母さんと一緒に暮らしてくれるようになったらきちんと”母さん”って呼んでくれよな。」
「その場合お前の母親ならナタリーになるのではないか?」
「だーかーらぁ!!ナタリーという名前だけでなく、セフィのお母さんという意味なの!」
「私には母が二人もいるのか?」
「エアリスのお母さんが”母親代わり”って言ってたから3人かな?どう?沢山お母さんが居るって?」
「さあ。私はお前さえ居ればそれでいい。」
セフィロスが真顔で耳元で囁く、それだけでクラウドは腰が抜けるような感覚に陥る。一瞬で顔が真っ赤になると思わずクラウドはうつむいてしまった。
「セフィの馬鹿ァ…」
蕩け切ったような顔でしなだれかかってくるクラウドの肩を抱き寄せながら、セフィロスは思わずほくそ笑んでいた。
■ ■ ■
翌日から時間に余裕のある時はエアリスの家に行く事にしていたクラウドは、クラスAソルジャー仲間に捕まるとこっそりと聞かれた。
「姫、旦那の許可を取ったか?」
「え?あ、ああ。」
「それはよかった。お前に何かあると何処かの旦那はカンパニーを冷凍庫にしかねん人だからな。」
「何々?姫浮気してるの?」
「ランディ、これ以上寒波に襲われたいのか?」
「いや…でも面白いからやめられない」
ランディの答えに笑ったザックスがポンと肩を叩きながら突っ込みを入れた。
「まー、それは言えてるけど。ランディじゃ命がいくつあってもたりねーぜ。」
「ちぇ!ザックス、おまえ最近強くなったからって大きく出るじゃねえの?」
「ここは実力主義なので仕方がないな。」
パーシーの答えにクラウドが目を丸くする。
「じゃあ、俺なんてへこへこしていなければダメじゃん。」
「この〜〜!!お前がそう言う事を言うか!!」
「カンパニー1強い男を背中に庇うのはお前ぐらいだぞ。」
「俺は〜〜!?」
「リックか、お前はコレで一発。」
そう言うとブライアンがポケットからモルボルの触手を取り出した。彼の手の中で今だに緑色の触手がうごめいているのを見ると、リックが一発で青ざめる。
「んなもん持ってるんじゃねーよ!!」
「お前を自白させる為に持ってるんだ、例の電話の女とはどうなったか定期的に報告しないと…」
にやりと笑ってブライアンがモルボルの触手をゆらゆらと揺らしながら青い顔をしているリックに近づけた。
「やめれーーー!!!」
リックの悲鳴にクラスAソルジャー達から笑いが漏れると、エドワードがクラウドを振り返る。
「お前に何かあると、隣りの部屋が冷凍庫になるから、部下達が近寄れないんだよ。何をやる気か知らないが女と何かやるなら妖精になっているんだな。」
「そっちはそっちで別の意味で心配なんだろう?」
「地獄の天使の心配を誰がするんだよ。」
「それは…あの方だろ?」
「クラウディアになればなったで、クリスマスパーティーみたいな事がある。セフィロスが過保護になるのもわかるが、ちょっとなぁ…」
「ああ、中身はカンパニーでも1、2を争うような男だからな。」
「仕方がないんじゃないの?見た目か弱そうな美人モデルだからな、おまけに言われているんだろ?クラウディアの格好をしている時は…って。」
「言われているだろうね。蹴りなんて入れてはイケマセン!ってな。」
「ああ、スタッフもクラスSも…知っている人は全員言うよ。ピンヒールで蹴り入れると効きそうなんだけどなぁ。」
「聞き飽きた、確かにそうだけど…はぁ〜〜〜〜〜〜」
「出来れば、やってほしくないな。」
壮大なため息をついているクラスA仲間にザックスが突っ込みを入れる。
「そうか〜〜?フレアスカートなんかだったらどんな賊だってイチコロだぜ。」
「そりゃな。可愛い子ちゃんがフレアスカートで蹴り入れて来れば、どんな賊だってノックアウトだろうけど。」
「俺は男だーーーーーー!!!!」
げしっ!!!
クラウドの回し蹴りを浴びてザックスが壁までぶっ飛んだ。しかし、派手な音を立てて倒れ込んだザックスを誰一人助けようとしない。
「あれ〜〜〜〜冷たいのねん。」
「姫の地雷を何度踏んだら気がすむんだろうね。」
「ザックスだから蹴りで済んでるんだぜ。」
「うちの連隊長が同じことをやったおかげで、俺達アイシクリエリアに2週間も余分にいたんだからな。」
パーシーの上官は第7師団隊長のガーレスである。彼は以前神話にたとえてクラウドを絶世の美女と言いたかったのだが、
女顔と言われたくなかったクラウドに思いっきり睨まれたあげく、生贄にされた美女にたとえる事など許せない超絶俺様主義のセフィロスに睨まれて、失意の揚げ句アイシクルエリアのモンスター相手に憂さを晴らしたのであった。
それはクラスSとAだけの有名な出来事ではなく、王様のお気に入りの姫君に惚れたあげく失恋した騎士物語として、下級ソルジャーまで行き渡っているのであった。
「それにしても、姫に関する噂ってあっという間に広まるくせにキングとの事はなぜ広がらないんだ?」
「広がっていると思うが表立って言わないだけだと思うぜ。」
「だろうな。なにしろ相手があのにーさんだもんな。」
「万が一その怒りにふれたら愛刀でバッサリやられかねない!」
「俺の所はソルジャーしかいないから一般兵がどう思っているかなんて、全く入ってこないんだが…そのへんはどうなんだ?」
「姫の強さを知っている連中はまず疑わない」
「それは言えてるな。俺の所の連中も一緒に戦っているから、間違っても姫のように強い男が…って思っている。」
「俺の部下なんて目の前でいちゃついていても誰も不思議に思っていないぜ。キングがどうどうとセクハラできるのが羨ましいって言うぐらいだ」
自分と入れ替わりに輸送部隊の副隊長になったアランにエドワードが笑い飛ばす。
「第4師団は姫のファンが多いからな、おまけにあの行動はミッションの前後の軽いおふざけでとおっている。」
「それだろうな。姫がキングの隣にしか立ちたくないって公言しているだろ?キングだって姫以外をとなりに立たせたがらないじゃないか、仕事上のパートナーだからある程度のおふざけとして見られてるのかな?」
「昔の隊長を知らない連中の考えそうな事だな。」
氷の英雄と呼ばれ他を寄せつけない雰囲気を持っていたセフィロス。
そのセフィロスの感情をあっというまに氷解させ表に引き出したクラウド。
近づきがたかった英雄が今では身近に感じられる事が、一般兵達にも感じられるのか、恐怖感をもって見つめられていたセフィロスだったが畏怖の目を持たれることは無くなりつつあった。
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