エアリスの家に行く前にクラウドは、『ダイアナ』のオーナーでデザイナーのデヴィッドに電話を入れた。
「あ、デヴィッドさんですか?クラウドです。実はお願いがありまして…デヴィッドさんってセフィのスーツ作ってますよね?サイズを詳しく教えてほしいのですけど。」
「サーのサイズなら一緒にいるんだから測らせてもらえばいいじゃないかい?」
「あ…あの。ちょっとここで詳しく話せないのでそちらに行っていいですか?」
「今から?どっちで?」
「クラウドとして…ですよ。裏からお邪魔します。」
そう言うと携帯をたたんでバイクにまたがりアクセルをふかす、1300ccのモンスターバイクが一気に車の流れに入って行った。
8番街の『ダイアナ』の裏口に到着すると、クラウドは扉をノックする。
中からデヴィッドが現れてクラウドを招きいれた。
プライベートルームでコーヒーを入れるとデヴィッドがクラウドに話しかけた。
「それで、クラウド君。どうしてサーのサイズを知りたいの?」
「う…ん。馬鹿にしないで聞いてくれる?セフィ、甘いものあまり好きじゃないんだ。でも、来月にはバレンタインがあるでしょ?それで…いまから頑張ればセーターぐらい編めないかなーって…」
「君がいくら器用でもいきなりセーターねぇ…。難しいんだよ。」
「うっ…じゃあベスト。」
「袖が無い分楽だとは思うけど、編む時間が有るのかい?」
「手袋は愛用品があるから必要ないし…うう〜〜デヴィッドさんなんて嫌いだーー!昨日エアリスと一緒に糸買っちゃったじゃないか!!」
「ごめんごめん。でも君って本当に男の子かい?バレンタインに手編みのセーターって、女の子の考えることだよ。」
「エアリスに一緒にやらないかって言われたんだよ。チョコよりもいいかもしれないって思ったんだ。」
「なるほど。君にならあの方のデーターは教えてあげられるけど…、まあ、とりあえず頑張って見れば?恋人としては嬉しいプレゼントだよ。」
デヴィッドがパソコンのデータベースから目的のものを探し出すと、プリントアウトする。プリンターから吐き出されたA4の紙をクラウドに手渡した。
「サーの身体はかなり大きいから途中でくじけないようにね。それと、あまり熱中して旦那さんをおろそかにしてはいけないぞ。」
「……もう!!」
真っ赤になりながらクラウドがデヴィッドを睨みつけるが、そんな可愛らしい彼に睨みつけられてもなんにも恐くない。 それどころかソルジャーとしての彼を見知ってしまった今ではデヴィッドには可愛らしい女の子にしかみえなくなっている。
「まったく、君って人は本当に可愛いんだな。」
半ば睨みつけるような瞳で一礼してクラウドが去って行くのを見届けると、デヴィッドは念の為にクラウディア・スタッフに連絡を入れておくべく電話を取った。3コール目で出た相手はスタイリストのミッシェルだった。
「あ、ミッシェル?デヴィッドです。いまクラウド君がウチに来たんだけど、彼、しばらく仕事をしたがらないかもしれないよ。」
「え〜〜?!もう春向けの撮影が沢山入っているのに!!」
「そういえば君って編み物できるよね?クラウド君に電話してごらん、きっと喜ぶよ。」
「まぁ、コレでもスタイリストの端くれですから、服飾のことなら一通りの事はならって来ていますけど…って、まさか彼今度のバレンタインで!!」
「あったり〜〜!!可愛いでしょ?」
「うわぁ…本当に男に思えない!!」
思いっきり叫んだあと電話を切りながらミッシェルが後ろでクラウド相手にメールでスケジュールを相談しながら調整していたティモシーに話しかけた。
「ティモシー。クラウド君バレンタインまで暇が無さそうよ。」
「うん、さっきから断られまくりでこっちも困っているんだ。で、その電話、誰?」
「デヴィッドさん。さっきクラウド君が相談に行ったんだって。」
「何の?」
「サーのボディサイズを聞いたみたいよ。バレンタインにセーターでも編むつもりなんじゃないの?」
「はぁ?!まったく泣く子も黙るソルジャーだと言うのに…」
呆れたように叫ぶティモシーに撮影依頼の申し込みを見ながらグラッグが話しかけた。
「あ、でもずいぶん撮影依頼が溜まってますよ。」
「そうだな、最後の手段だ拘束するか。衣装の準備は?」
「いつでも、OK!」
ティモシーはクラウドのスケジュールを確認するべく治安部統括のランスロットに連絡を入れた。
一方、エアリスの家でクラウド君は毛糸と格闘していたのであった。
「あら、クラウド君。その毛糸あの子に似合いそうね。」
「ええ、でもセフィ大きいから…コレだけで何が出来るかな?」
「20玉ね。、それだけあれば普通の男の人ならセーターぐらいできるだろうけど…。とにかくゲージ取らないと何とも言えないわね、10cm四方の平網を作ってみて。」
イファルナが言われた通りにエアリスが四角く平編みを作って行った、クラウドはその手際の良さにボーと見とれているとイファルナに話しかけられる。
「ダメじゃない。クラウド君も作るんでしょ?」
「え?あ、うん。」
見よう見まねでクラウドが網棒を動かすが巧く出来ない。その様子をエアリスがびっくりしたような顔で見ていた。
「クラウド君って、もっと器用だと思っていた。」
「お料理が上手だからって器用とはいえないわよ。でも、ヤッパリ男の子ね。安心したわ。」
「どういう意味ですか?」
「ん?あんなにお料理が上手で。何処からどう見ても女の子にしかみえなかったけど、クラウド君がちょっと不器用で安心したって事よ。」
「俺、ヤッパリ料理にしようかな?」
「その毛糸勿体ないよ。」
「そういえば…どこかに編み機がなかったかしら?」
イファルナがそう言って一旦どこか他の部屋へと何かを探しに行った。30分ぐらいして何かを小脇に抱えるようにして戻ってきたイファルナが、脇に抱えてきた機械を机の上に乗せながら懐かしそうな顔をした。
「うふふ…よくこの編み機で私のセーターから、エアリスのセーターを作った物だわ。」
そう言ってイファルナがクラウドに使い方を説明する。クラウドもこちらなら何とかなると思ったのか一通り使い方を覚えると、毛糸をセットして動かしはじめた。
あっという間に段が増えて行くのをエアリスが羨ましげな顔で見ている。
「いいなー、そっちの方が早いじゃない。」
「クラウド君は仕事を二つも持っているのよ。あなたは店番をしながらでも出来るでしょ?」
イファルナとエアリスが何か言いあっている間も、クラウドはせっせと編み機を動かしていたので、あっという間に10cmほど編み上がっていた。
そこへティモシーとミッシェルがやってきた。
店からいきなり奥に入ってきた二人組にイファルナがびっくりしていると、ティモシーが名刺をさしだした。
「こんにちわ、はじめまして。私はクラウディアのマネージャで、ティモシーと申します。クラウド君居ますか?」
「ええ、あなたがティモシーさん?お名前は良く聞いてます。」
ティモシーの声が聞こえてきたのでクラウドがびっくりした。
「え?あ、ティモシーにミッシェル?!」
「あーやってるやってる!!」
嬉々とした顔で部屋をのぞくミッシェルにエアリスが気がついて声をかける。
「あ、ミッシェルさんにティモシーさん。もしかしてお仕事?」
「ええ、お久しぶりですエアリスさん。なにしろクラウド君の暇なうちに仕事をこなしておかないといつミッションに行かれるかわからないから確保しに来ました。」
「うげぇ〜〜。俺、こっちで忙しいんだけど。」
クラウドが目の前の編み機を指さして困った顔をしているのでミッシェルが思わず笑顔になる。
「編み機使うんだったら撮影場所でも出来る。で〜も安心した、君って何でも出来る訳じゃないんだ。」
「俺だって苦手な事ぐらいあるよ。」
ミッシェルに編み機を取り上げられて、ティモシーに引きずられるようにエアリスの家を後にしたクラウドは時計を見てあわてて携帯で連絡を入れる。もちろん、相手は愛しのダーリンである。
「あ、セフィロス?俺です。今ティモシーとミッシェルに捕まって…うん、終ったら電話するよ。でもお食事作って無くてごめんね。」
ミッシェルに引きずられるように止めてあった車に乗り込むと、ティモシーがスタジオに向けてハンドルを取った。
■ ■ ■
スタジオに入ると支度室に入り撮影の衣装に着替えてメイクを施す。鏡の前に天使の笑みを持つモデルのクラウディアが現れた。
支度室から出ると、クラウディアの追いかけをやっているレポーターが寄ってくる。彼らはクリスマスパーティーで仕入れた情報の事を聞き出そうとしていた。
「Lady Cloudea。クリスマスパーティーでチェスタトン家のお嬢様に何か言われていたようですが?」
「チェスタトン家のお嬢様?誰の事ですか?」
首を傾げるクラウドにティモシーが答えた。
「あ、クラウディア知らずに仲良くなっていたんだね?Dr・ライザだよ。彼女は政財界の重鎮ですら一目置く名家の一人娘なんだ。」
「え?あ、ライザさんが?それならば、たしか今度のお誕生会までに何か”芸”を作っておきなさいって…」
「芸?隠し芸ですか?」
「ええ、よくわからないのですが、彼女は私にピアノを弾いてみてはとおっしゃいました。ストレス解消にもなるし私にあっていると…」
「そうですね。クラウディアのお誕生会で披露されるとなると、かなり練習しないと大変そうですが大丈夫ですか?」
「まだドレミも弾けないと言うのに、それにピアノを弾くと決めたわけでもない…」
「カメラ、スタンバイOKです!」
クラウドが困り果てている所にグラッグが声をかけた。助かったとばかりにカメラの前に逃げ出したクラウドに、ティモシーがクスリと笑顔を浮かべた。
撮影は順調に進んで、やがて最後の仕事になった時にスタジオにセフィロスが入ってきた。
一気にクラウドの顔が眩しい笑顔になるのをみてミッシェルが呆れる。
「やってられないわね、まったく。」
「一番いいクジを引いたのは誰かな?」
「あの衣装はマダムセシルよ。小躍りして喜びそうね。」
グラッグがカメラのシャッターを切り終り、撮影が終了すると衣装のままクラウドはセフィロスに駆け寄った。
「セ…セフィ。」
「終ったようだな。一緒に帰ろうか。」
「え、ええ。」
頬を赤らめてとびっきりの笑顔でうなずくクラウドは、何処からどう見ても女の子にしか見えなかった。
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