絶対零度の怒気をまといながら執務をしているセフィロスに近寄れる男などクラスSの中には誰も居なかった。
そこへ扉をノックしてクラウドが入ってきた。
「クラウド・ストライフ、入ります。」
クラスSソルジャーが入ってきたクラウドをすがるような目で見ていた。
この状態を解除出来るであろう唯一の人物、それが彼であることをこの部屋の住人達も知っているのであった。
クラウドがセフィロスの前に立って敬礼すると、いつもとは違う冷たい瞳が少年を見あげていた。
「呼んだ覚えは無い。」
「私的な用事です。」
そう言うとクラウドは自分の唇に人差し指をちょんと付けてから、その指をセフィロスの唇に宛てた。
「おまじないです。この部屋かなり冷えているから風邪ひかないで下さいね。」
クラウドの行為の意味がわからないままでも、その行為にセフィロスがにやりと笑う。瞬間クラスS執務室を覆っていた冷気が一瞬にして消え去ったのでクラスS仲間が安堵の息をついた。
ふわりと微笑んで帰ろうとするクラウドの腕をセフィロスがつかまえると、ぐいっと引き寄せてまろやかな頬を捕らえる。軽くひねって自分を向かせ唇を掠め取った。
びっくりしたのはその場にいたクラスSソルジャーに用事があったためにその場に居合わせた下級ソルジャー達だった。 目を丸めてその光景をびっくりして見ている部下を、どう言いくるめようかクラスSソルジャーが頭を抱えた。
いきなり引き寄せられて無抵抗のままキスされたクラウドは一瞬にして真っ赤になるとセフィロスに怒鳴りつけた。
「た、隊長殿!セクハラはおやめ下さい!!」
「なんだ、このぐらいスキンシップだとクラウディアは言っておるぞ。」
「クラウディア様と自分とは違います!こんな事、男にしないように!!」
「そう言う物なのか?」
「そう言う物なんです!!だいたい隊長殿はなぜ自分にだけこういうイタズラをするのですか!?」
「かわいげの無いクラスSや特務隊の連中になどする気にならんな。その点お前はクラウディアに似ているだけあって可愛い。」
「自分はそのかわいげのない特務隊の隊長補佐です。クラウディア様ではありません。」
「そうだな。だが、そうやって苛められて真っ赤になる当たりは、まだまだ修行が足りないようだな。」
「はい、精進いたします。」
クラウドが敬礼して退出するとクラスS執務室に居た下級ソルジャー達が笑顔で敬礼して見送っていた。
そして各自の執務室に戻ると仲間に見てきた事を話しはじめていた。
「サー・セフィロスってサー・クラウドだけにはイタズラをするんだなぁ。」
自分たちの隊長と隊長補佐の名前が出たので、カイルとジョニーがが口を挟んだ。
「あん?隊長殿が姫に?俺達見慣れちゃってるから何とも思わなくなったな。」
「ああ。だって姫、苛めると真っ赤になって可愛いだろ?」
「それは言えてる。」
「だからついつい苛めちゃうんだよな−。」
「あの可愛い顔が見られるのはいいけど後が恐いんだ。」
「へ?どうして?」
「お前ねー。姫の腕を知ってるだろ?まだ入隊当初ならなんとかなったけど、実力付いちゃったから、今では姫が手加減してくれないと一撃だぜ。」
「隊長ぐらいなもんじゃないの?姫の逆襲を全く考えないでおふざけの出来る男なんてさ。」
「今では俺もリックも姫の起きぬけのボーっとした時とか、戦闘が終わってほっとした時しかいたずらなんて仕掛けられねえぜ。」
「そりゃ…羨ましいような、そうでないような…。」
同じクラスにいる仲間たちが手を挙げて自分たちの執務室に去っていくのを見送る。なんとかこの男は言いくるめることができ、カイルとジョニーが顔を見合わせて溜め息をついた。
クラスS執務室で起こったことはあっというまに治安部全体に知れ渡った。
それは英雄セフィロスに憧れて治安部に入隊した多くの兵士と、クラウドに密かに恋心を抱いていたソルジャーや兵士達をびっくりさせた。
”氷の英雄”と呼ばれている男がいたずらで男にキスする事が、ほとんどの兵士達には信じられない事であった。
しかしセフィロスはやはり”英雄”であった。
そのカリスマ性、実力は他のソルジャー達の追従を許さず、確固とした地位を既に築いていた。
だからこそ、そのとなりに立つ事を許されているクラウドの実力は、彼らにとって揺るぎない事であり憧れの対象なのであった。
クラスBがミッドガルの警らからかえってくると、必然的にその騒動の顛末が入ってくる。
クラスBソルジャー達とてセフィロスに憧れてソルジャーになった男たちだ。しかし、自分達とて闘う時以外までも神経を張り詰めていたら精神的におかしくなる、それはセフィロスやクラウドとて同じであろうと、ある程度の”おふざけ”や騒動は笑顔で見守っていた。
部下たちから報告を受けながら自分たちの知っていることをさりげなく話している。
「そういえば去年の今ごろも凄かったよな。サー・クラウドのお手製なんちゃってチョコでバトル大会だもんな。」
「おー、そういえばあったあった。その後知ってるか?クラスSの三銃士とリックとカイルがサー・クラウドの奪い合いをやったって話だぜ。」
「おお、聞いた聞いた。サー・セフィロスが諌めたという話だがお気に入りの士官を奪われまいと奪い返したって事だろ?」
「今年もそう言う騒動があるのかな?」
「あるんじゃないの?俺も腕を磨いて参加しにいくかな?サー・クラウドの隣りなら一度でいいから立ってみたいよ。」
「ああ、見てみたいよな。実戦で幻の召喚獣達がどういう攻撃をするのか、さ。」
神羅カンパニーはまだまだ平和であった
■ ■ ■
その頃、クラスA執務室ではザックスがカレンダーをのぞきこみながらつぶやいていた。
「あ、明日ミッドガルの警らの日か。」
「ああ、お前はそこでも俺とペア。」
「うげー!!おまじめブライアンとずーっとくっついてるのか、どうするよ?!俺が真面目になったら!」
「そりゃ、ミッドガルに血の雨が降るな。」
「天変地異が起こるんじゃないの?」
「ザックスが真面目になれる訳がない!!」
「ひっでー!!信用されてねーー!!」
「それはお前が信用されないような態度ばかり取るからだな。」
「ガスト博士に言っちゃおうかな?ザックスが不真面目だって。」
「や、クラウド君、それはマジで止めてくれ!」
「おーお、彼女の親父さんには弱いんだ。」
クラウド相手に拝み倒すようにザックスが手を合わせている横でエドワードがブライアンに問いかけた。
「そういえば、明日の配置はまだだったな。」
「ああ、今からくじ引きだ。」
そう言ってブライアンがクジを持ち出した。
3チームに別れているためまず第一チームから引き始める。
ペアを組む片割れがクジを引くとその番号を相方に教えるのが決まりだった。
「お!7番街!!やた!ティファちゃんに会えるかも!!」
「ああ、5番街か。貧乏クジを引いた。」
「ああ?!ゴードン、お前くじ運悪すぎ!この間もレッドゾーンの6番街だったじゃないか!」
「何を言うか!あれはアランが引いたんだろう!?」
「ゴードン、アラン、いい加減にしろ。まったく、お互い様だろうに。と…8番街か。」
「ええ?!嫌だなー、エディ変なクジ引かないでよ。」
「あん?姫何言ってるんだよ、8番街なんてメチャクチャラッキーじゃん。」
「あっちの事務所があって、あっちでの仕事先が並んでいて、友達の家もあるんだけど…」
「そりゃ済まないな、捕まったら最低の警ら先だ。」
「もっとも俺が白のロング着ている時に声をかけてはこないはずだけど…だいじょうぶかな?」
クジを引いて警ら先を決めた結果をブライアンがボードに書き込んで行く。
安全なブルーゾーンにあたった者、残念ながら要注意地域のレッドゾーンに当たった者も、不平を言いつつもあえて交代を言わないのがルールであったので、全員が納得してボードを眺めていた。
ザックスが不意にクラウドに聞いた。
「そういえばお前エアリスとなにやってんだよ毎晩。」
「言えるかよ!」
「ザックスにも言えないような事なんだ。」
「おい、エディ。お前知ってる?」
「マーチン、何で俺に聞くんだよ!!」
「クラスA随一の知能派だから。」
「ははは…ところでザックス、この間姫達は何を買ってたんだ?」
「ん?よくわかんねえよ。なんだか丸くて小さくて10個以上あったけど軽かったな。」
「たしか出会ったのはミッドガル・デパートの11Fだったな。」
「え?あそこって何があったっけ?」
「女が行きそうな所の事は女に聞く!」
「お!!俺行ってくる!!」
「あ、ちょっと!!ランディ!!」
クラウドが止める暇なくランディが総務部へと走っていった。そして5分後に戻ってくると、いきなり不思議そうな顔をしていた。
「総務のお姉ちゃん達に聞いたんだけど、ミッドガル・デパートの11Fは洋裁や手芸のコーナーがあるぐらいで後は本屋だとさ。」
「洋裁?!手芸?!」
「姫…そんなところで物を買って何をやる気なんだ?」
「絶対言わない!だって、絶対馬鹿にされるもん。」
「俺達に馬鹿にされるような事なんだ。」
「はーん、なんとなくわかってきたぞ。俺達が知ったらばかにして、それでもあえてお前がやりたがる事。そのコーナーに有る物であの方の為に何か作っているんだな。」
エドワードの答えにクラウドが瞬間的に真っ赤になった。
その顔を見てクラスAソルジャー達はそれが正解なんだと納得した。
「まったく、だからエアリスと一緒にやってるんだ。」
「うん、俺にだってそんな事、本を読んだだけで出来る訳ないし、料理は得意でも…それが出来なくてエアリスのお母さんに笑われたけど…」
「何を作ってるか知らんが、お前が料理も出来て洋裁や手芸も得意だなんて考えたくもないぜ。」
「そうかなー、可愛い奥さんになるならそっちのほうがいいかもよ?」
クラウドがザックスの一言にカチンときて回し蹴りを放った。
「俺は男だーー!!!」
ザックスが派手に壁までぶっ飛ばされると、その音にクラスAソルジャー達が顔をしかめた。
ブライアンが冷たい目でザックスを見下ろす。
「まったく、何度姫の地雷を踏めば気がすむんだ?」
「学習能力がないのか?こいつ。」
「あ、知らなかった?こいつの脳味噌筋肉で出来てるんだけど。」
「お、おまえらーー!俺はただ単に事実を言っただけじゃないか!!セフィロスにとってこいつは目に入れてもなんぼのもんじゃいってほど可愛い嫁なんだぜ!」
「クラスA1危険な男がねぇ…」
「可愛い嫁だなんて間違っても考えられないな。」
クラスA仲間が首をかしげた時、リックの顔が一瞬ゆがんだ。あわてて廊下へ駆けだしていったリックを全員で顔を見合わせながらニヤニヤして見ていた。
「ありゃ…やっぱ女だな。」
「ってことは…」
「は〜ん、一回でふられなかった訳ね。」
「あのリックがねぇ…あとでカイルに話してやろう。」
「ううう…ミッシェルの奴。あの事話したら仕事ドタキャンしてやるから!」
「あ、姫、それ無理。王女警護隊長が女に丸め込まれるのがおちだ。」
「リックはああみえて結構男気のある奴なんだぜ、女に頼られたら何をさて置いても守るタイプだ。」
「へぇ〜、クラウド一筋はそれを誤魔化す為か?」
「ああ、リックはそう言う奴だ。」
クラウドはこの時ブライアンの言った言葉があまりにも自分の知っているリックとかけ離れていたので信じられなかった。
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