バレンタインのチョコをもってクラスA執務室になだれ込んだ集団をランディとリックが仕切っていた。
「はいはい、一列に並んで〜〜、プレゼントしたい人を呼ぶからね〜」
「姫に渡したい奴は一度検閲するぞ、いいな!!」
 王女警護隊長を自負しているリックが睨みつけているので、嫌でも全員うなずかざるをえなかった。その後ろでクラウドはエドワードからコーヒーを受け取りながらまだぶつぶつつぶやいていた。
「せっかく仕返しできると思ったんだけどなぁ。」
「相手が悪い、あのキングだ。」
「ねぇ〜〜エディ、なんとかしてやめさせたいんだけど、どうすればいいかな?」
「俺に聞くな、本人に言え。」
「俺としてはキングがあそこまでおふざけを楽しむ人だとは思っていなかったな。」
「ううう、いつか絶対仕返ししてやる!!」
 ぐっと拳骨を握り締めているクラウドにクラスAソルジャー達がげらげら笑う。不思議そうにクラウドはみんなを見回した。
「どうしてみんな笑うのさ。」
「百戦錬磨の英雄に仕返ししようなんて1,000年早い。」
「お前が逆にやり返されて終わりだと思ってた。」
「今ごろクラスSでキングが高笑いしてるんじゃないの?」
「ぐぐぐぐぐ…ぐやじい!!」
 リックがクラウドの方をちらちらと見ながら含み笑いをしていた。ザックスがクラウドの頭を撫でながら豪快に笑ってる。
 そんな中をクラウドに告白込みでチョコをもってきた兵士達や事務の御姉さん達がチョコをテーブルに置いて、想い人に声をかけようとして、リックに思いっきり睨まれてすごすごと執務室を出て行った。
 クラウドがふと顔を上げて持ってきたカバンからチョコを取り出し、みんなに配りはじめた。
「ザックス、ハッピーバレンタイン。エアリスと一緒に食べてね。リック、いつもお世話になってるね。ブライアン、ザックスの面倒を見てくれていてありがとう。エディ、いつも庇ってくれてありがとう。」
「何だよ、俺だけ半分かよ?!」
「ううう、生きててよかった。」
「教育費用にしてはちょっと安いが…まあ、いいか。」
「俺なんて凍らされる代償にしては安すぎだぜ。でも姫からもらえるだけいいか。」
 クラウドがチョコを手渡している所にクラスSソルジャーがなだれ込んできた。エドワードがクラウドからチョコをもらっているのを上官であるパーシヴァルが見付ける。
「エドワード!姫から何をもらっている?!」
「チョコですよ、いくら上官の隊長とはいえさし上げませんよ。」
「姫、どうか私めの隣りに立って下さい!」
「トリスタン。貴様、抜けがけは許さんぞ!!姫是非自分の隣りに…」
 そう言いながらクラスSが一斉にクラウドに対しチョコを差し出した。
 クラウドが困ったような顔をして立っているとリックが立ちはだかるように庇う。
「姫はお渡ししません!大体姫が隊長の隣にしか立ちたくないと言っているのにそれを知っているクラスSの皆さんが起こす行動には思えません。」
 まるで氷の英雄張りの怒気を発しながら、リックがクラスSの前に立っている。そこにクラスS執務室から絶対零度の怒気をはらみながらセフィロスが現れた。
「貴様達!!私の副官に何を考えておる!!全く最近たるんでいるぞ、全員武闘場へ来い!たたき直してやる!!クラウド、お前は私の手伝いだ!!」
 セフィロスの言葉に顔を青くしたクラスSが半ばしょげ返るように武闘場へと歩いて行くのをクラウドは青い目をクリッとさせて見つめていた。
 そしてセフィロスに耳打ちする。
「セフィ、あと一時間ほどで事務所に行かないと例のイベントに間に合わないんだけど…」
「30分有れば十分だ。」
 そう言うとリノリウム張りの廊下を靴音を立てて歩き去って行った。あわてて追いかけて行ったクラウドが武闘場へ入るとすぐにセフィロスのとなりに立つと同時にクラスSが一気に掛ってきた。
 クラスAソルジャー達が心配になってのぞきにきた時には、もう既に半数のクラスSソルジャーをノックアウトして後半数を二手に別れて片づけていた所だった。
「すげぇ、あいつまた腕を上げたのか?」
「隊長、笑ってるよ。」
「そりゃ…笑うよ。間違えなくクラウドは強くなっている。規定さえなければすぐにでもクラスSに持っていかれるな。」
「規定通りならあと一年か…、その時までクラスSがおとなしく我慢しているとも思えないんだが?」
「王女警護隊長の座は譲りたくないんだけどなぁ…」
 半ばあきらめたようなため息をつきながらうつむいてリックがつぶやくと視線を戻す。そこにはクラスSソルジャーをあっという間に叩きのめしていたセフィロスとクラウドがいきなり対峙を始めていた。
 激しく打ち合う正宗とアルテマウェポン。
 火花が散るほどの戦いをクラスA仲間やクラスSソルジャー達が呆れたような顔で見つめていると、いきなり二人の姿が何処かへ消えた。
「デジョンか?」
「ええ、時空のひずみを感じました。」
「何処へ行かれたのでしょう?」
「おい、リック!!キングの行き先を知らぬか?!」
 クラスSソルジャーに名指しで呼ばれたリックが首を横に振った時、悠然とランスロットが入ってきた。
「どうした?お前達」
「ランス、キングと姫がデジョンでどこかへ飛んで行ってしまわれたのだ。」
「ああ、そろそろ時間だと思って呼びに来たのだが…では、もう行かれたのだな。」
 一人納得したような顔をしてランスロットが武闘場から去って行った。

カンパニーの駐車場までデジョンの魔法で飛んできたセフィロスとクラウドはそのままそれぞれの愛車へと飛び乗ると8番街のクラウディアの事務所までそれぞれ走って行く。
 クラウドが裏階段から、セフィロスが表から入ると、中にはクラウディアスタッフが待機していた。
 ミッシェルが青のワンピースとメイクボックスをもってにこにこしている。
「はい、クラウディアの衣装。サーはスーツでいいかしら?」
「いや、着たい服を着させてもらう。」
「場所柄ジャケットだけは羽織って下さい。」
「了解した。」
 クラウドが素早く青のワンピースに着替えて出てくると、すかさずミッシェルがヘアメイクと軽く化粧を施す。黒の5cmヒールのパンプスに足を通すと、何処からどう見てもとびっきりの美少女にしか見えない。ミッシェルが白いコートを手渡すとコートに袖を通しジャケットスーツ姿のセフィロスに向かってにこりと微笑んだ。
「では、行きましょう。」
 ティモシーに先導されてセフィロスと腕を組みながらエレベーターに乗り込み1Fまで降りるとビルの前に停めてあった車へと乗り込んだ。
 ティモシーが車をもってきてセフィロスの車の前に停めるとクラウディアスタッフが乗り込んむ。ティモシーがゆっくりと車を走らせるとセフィロスが後に従った。
 そのままミッドガルデパートへと車を走らせる。
 ゆっくりと地下駐車場へと車を停めると時間を確認する、イベント20分前。担当者との打ち合わせの時間ぴったりであった。
 エレベーターの前でイベント担当者の人が待っていた。
 ティモシーが一礼すると後ろからセフィロスとクラウドが悠然と歩いてきた。
「サー・セフィロスとクラウディアです。」
「本日はようこそ、いらしていただきましてありがとうございます。」
 丁寧な挨拶にセフィロスが片手を上げて静止する。クラウドが小首を傾げて担当者に問いかけた。
「イベントとお聞きしましたが、一体何をすればよいのですか?」
「バレンタインにまつわるお話しとかをお聞きしますから、それにお答え下さればいいだけです。」
「どういたしましょう?」
「任務に関らなければ話してもかまわない。」
「だ、そうですわ。」
「ありがとうございます。」
 担当者が一礼するとイベント会場の裏手にある控え室へと招き入れる。控え室からティモシーがのぞきみると、すでに女性客を中心にかなりの人数が集まっていて、設置してある椅子に座っていたりフロアを見渡せる場所に鈴なりに並んでいた。
「既にかなり集まっているようですが、安全性は大丈夫ですか?」
「はい、二度とあのようなことがないように身分のしっかりした警備員をかなりの人数を配置してあります。」
「さすがミッドガルデパート、抜かりは無いようですね。」
「ありがとうございます。」
 丁寧な態度で担当者が会場へと出て行った。クラウドがため息をつきながらティモシー達を見つめる。
「女の子の発言しないとだめなんだよね?」
「普段通りでいいんじゃない?十分女の子みたいだから。」
「酷いなぁ。これでもソルジャーの端くれなんだけど。」
「私生活ではそうは思えないよ。でも”俺”発言だけはやめてくださいね。」
 ティモシーの話が終わったとき、表から割れんばかりの拍手が起こった。担当の人がクラウドを手招きしている。
 それを見ていつものように背筋をピンとしてステージへと歩いて行った。

 イベントが始まった

 インタビュアーがマイクを持ってクラウディアに話しかけた。
「クラウディアさんはチョコレートをいくつほどご用意されましたか?」
「そうですね…お仕事でお世話になっているスタッフやお友達の分を含めると40個以上は作りましたけど?」
「作ったというと…手作りなのですか?」
「ええ、勿論素材はこちらのデパートで購入させていただきましたわ。」
「それは大変でしたでしょうね。では婚約者のサー・セフィロスにも?」
「あの方は甘い物があまりお好きではないんです。ですからあまり大きくないチョコレートケーキを一つ作りましたわ。」
「チョコのほかに特別に何かお作りになった物はありますか?」
「それは内緒です。」
「ではそのサーに直接お聞きしましょう。」
 再度拍手が巻き起こる中、羽織っていたジャケットを脱いで片手に持ちながらセフィロスがクラウドの隣りへと歩いて行った。
 セフィロスの着ていた服に見覚えのあるミッシェルがおもわず笑顔を漏らした。
「まったく、見せつけてくれるわね。」
「どうしたんだ?ミッシェル。」
「サーの着ていらっしゃるセーター。クラウド君が必死になって編んでいたあれよ。」
「おやおや…着たい服を着るというのはそう言う事でしたか。」
 会場に入ってきたセフィロスの着ている服にクラウドが気がついて真っ赤になる。インタビュアーがそれに気がついた。
「おや。クラウディア。お顔が真っ赤ですが何かありましたか?」
「いえ…サーがあまりにも素的でしたので…」
「それはお前のおかげであろう?」
「サー・セフィロス、素敵なセーターをお召しになっていらっしゃいますね。」
「ああ、世界に一つしかないセーターだ。気に入っている。」
「拝見した所手編みのようですが?」
「当然だ、クラウディアがくれたのだ。」
 会場からやっかみ半分、冷やかし半分の声が聞こえる。更に真っ赤になるクラウドにセフィロスは目を細めていた。