自分の編んだセーターを誇らしげな顔で着ているセフィロスに、クラウドは思わず顔を赤くしていた。
 インタビュアーがセーターの事を聞こうと口をはさむ。
「クラウディアさんはお料理だけでなく手芸もお上手なんですね。」
「あ、いえ。これは機械編みでして…友達のお母さんに、編み機を貸してもらって編みました。仕事もあったし、棒編みはちょっと不器用だったので出来なかったのです。」
「そうだったのですか、でもサーによくお似合いの素敵な配色ですね。」
「こんな所に着てこなくてもいいのに…」
「なんだ?着てほしくなかったのか?」
「お部屋で着ていただくのに作ったのに、恥ずかしい。」
「お前が私の為に作った物なのだろう?これ以上素敵な服は持ってはおらぬからな。」
「もう…セフィの馬鹿ァ。」
 真っ赤な顔でうつむきがちにつぶやかれる『馬鹿ァ』の一言に、会場から温かい笑いと羨ましげなため息が漏れる。クラウディアスタッフが用意したビターチョコレートが、イベント担当者に寄ってクラウディアに渡された。
 薄っぺらいチョコだが有名なメーカーの物で赤ワインの共にたまにセフィロスもつまむことのある銘柄だった。
 クラウドが天使の笑みを浮かべると椅子から立ち上がりセフィロスに近寄る。セフィロスがゆるやかな笑みを浮かべて立ち上がると、クラウドがチョコの箱を開け出した。
「たしか…お好きでしたわよね?このチョコ。」
「そうだったかな?」
 包みを開けてクラウドが一枚チョコを口にした。そしてもう一枚セフィロスの口元に差し出した。ゆるやかに笑みを浮かべたくちびるがチョコレートを受け取るとそっとクラウドの肩を抱き寄せる。
 あまりにも熱い恋人同士の抱擁に担当者が思わず頬を赤らめた。
 裏手で眺めていたティモシーとミッシェルが呆れたような声を出していた。
「まったく、見せつけてくれるじゃない。」
「さて、明日から3日ほどはこっちに専念だったはずだが…ちょっと問題があってな。ミシェルの彼に連絡とれないかな?」
「はぁ?!私、彼氏いない歴=年齢なんだけど…いったい誰のことさしてるの?」
「この間コスタでの休暇を教えてくれた彼だよ。たしかリックさんだったっけ。」
「ティモシー、記憶の訂正しておいてくれない。あの人と私はお互いの情報を教えあうためだけの仲なの。」
「なんだ、クリスマスにムッシュ・ルノーからディナーでのお礼が来ていたからてっきり彼とデートだったと思ったんだが…まあいい。そのリックさんに明日の屋外ロケの安全情報を仕入れてほしい。もしかするとクラウディアではなくクラウド君に来てもらわないといけないかもしれないんだ。」
「え?ああ。明日の屋外ロケはちょっと危ない地域だからね、聞いておくわ。」
ミッシェルがその場から離れて携帯を取り出すのを見送ると、ティモシーは再びイベント会場へと視線を走らせていた。
 イベント会場では一般の女の子達の質問が始まっていた。
「クラウディアさんは食べる物に何か特に気を配っていますか?」
「特にありません。ただサーがお部屋にお戻りになられる時間が遅い時は、なるべく胃の負担にならない軽いお食事を作っています。」
「甘い物がお好きだと聞きましたが、なぜそんなにスタイルがいいのですか?」
「さあ?特に好き嫌いもないし…自分でもなぜ太らないのか不思議です。」
「サー・セフィロス、クラウディアさんにそれほど素敵なセーターをもらって、お返しが大変なのではないでしょうか?」
「そうだな。欲しい物を聞いても、何も無いとしか答えないからな。何かいい物を知っていたら教えてほしいぐらいだ。」
「私はサーのおそばに居られるだけで嬉しいのに…」
「お前はそればかりだ。」
 質問の答えに会場から冷やかしの声や感嘆のため息が漏れる。やがて時間になったのかイベント担当者が舞台に出て終わりを告げた。
 客が残念そうな声をあげる中、セフィロスはクラウドの肩を抱いて舞台を降りてきた。
 ティモシーがそれを笑顔で迎えた。
「ご苦労様でした。明日の屋外ロケはレッドゾーンだそうですのでクラウド君にクラスAソルジャーとしてクラウディアの身代りに来ていただけますか?」
「え?ああ。5番街だったっけ。うん、いいよ。」
「では、明日の10時、5番街の第8公園でお待ちしています。」
「うん、また明日ね。」
 手をあげてクラウドはティモシーたちと別れた。

 セフィロスと共に食事をして部屋に帰ると、エアリスからメールが届いていた。
「エアリスからメールだ。あれ?ザックスのセーター…」
 メールに添付されていた写真のザックスはノースリーブのセーターを着ていた。セフィロスがクラウドの後ろから抱くように携帯をのぞき込む。
「ザックスは暑がりだからそれでちょうど良い。」
「でも…もし俺が編み機を使わなかったら…」
 やたら人の事を気にするクラウドを抱きすくめながら、セフィロスが耳元で囁く。
「気にするな、ザックスは冬でもノースリーブのニットを着ている。しかし、バレンタインがセーターなら誕生日が楽しみだな。」
 クラウドはハッとした。

(そういえばセフィロスの誕生日は確か17日!!)

「あ、あの…手作りは料理しか出来そうも無いよ。」
「クックック…お前は本当に可愛いな。明日から3日ほどクラウディアをやるのであろう?ならば三日間この部屋に居て私を笑顔で送り迎えしてくれればいい。」
「クラウディアのまま??」
「びっくりするようなお迎えは期待出来ないだろ?」
「だ!!誰がするかよ!!あ、でもお弁当は持って行ってくれよ、一生懸命作るから。」
「そうか、それは楽しみにしていよう。」
 真っ赤になって上目がちにセフィロスを見上げるクラウドは、凶悪なまでに可愛い。    by 英雄視点
 額に唇を落してそっと抱きしめるとほのかに薫る甘い香がするがクラウド自身コロンなど付けてはいなかったし、シャンプーもボディーソープもセフィロスと同じ物を使っているというのに抱きしめるたびにほのかに甘い香りがする。
 そのかおりが自分とは違う気がするのはセフィロスの気のせいとも思えなかった。


■ ■ ■



 翌日、いつもよりも早く起きたクラウドはシンプルな白いブラウスとチャコールグレーのゆったりとしたパンツをはいて、可愛らしいピンクのフリルのエプロン姿でキッチンに立っていそいそとセフィロスの為にランチボックスに精一杯の手料理をつめていた。
 その姿は何処からどう見ても可愛らしい女の子にしか見えない。
 クラウドの料理のかもし出す良い香にセフィロスが目を覚まし、そっとキッチンに近寄ると愛しい妻が可愛らしい姿でパタパタとキッチンを行き来していた。
 クラウドがキッチンの入り口で立っていたセフィロスに気がついた。
「あ、セフィ。ゴメンね、起しちゃったかな?」
「いや、いつにもましていい香だな。」
「エヘヘヘ…頑張っちゃったから沢山食べてきてね
 言葉の後にハートマークを飛ばしながら満面の笑みを浮かべて、クラウドがランチボックスをセフィロスに見せると何処に出しても恥ずかしくないような美味しそうな料理がぎっしり詰まっていた。
「ん〜とね、これがチキンガーリックソテーで、これがほうれん草とミックスベジタブルのグラタン、これが…」
 笑顔で料理を説明するクラウドの髪の毛をすきながらセフィロスはいつものように朝食を取ろうとテーブルについた。
 すかさずクラウドご自慢の料理が並ぶとその量の多さに思わず目を丸くした。
「クラウド。お前は私を太らせるつもりか?」
「ええ〜〜?!だってセフィお仕事たっぷりしてくるんだもん。少ないとお腹が空いちゃうでしょ?」
「お前がいないと事務ばかりだ。」
「あ、そうか。カロリー計算もしないとだめだね、あとでネットで調べるよ。」
 クラウドもテーブルにつくと食事をはじめる。
 クラウディアの仕事に行くと言うのにクラウドはいつもよりにこにこしていた。それが不思議でセフィロスが思わずたずねる。
「クラウド。そんなに男の恰好でクラウディアをやりに行くのがうれしいのか?」
「うん、ソルジャーとして行くんだからフル装備でいいんだ。何かあったら足蹴リだろうと何だろうとOKって事じゃない?嫌な奴に会ったら”臭い息”でもかけてやるんだ。」
 クラウドはやたらハイテンションだった。セフィロスが思わず苦笑する。
「クックック…今日だけは反抗勢力だろうと、何だろうと相手を可哀想に思えるな。」
 セフィロスの言葉に口をとがらせながら、クラウドは食べ終わった皿を片づけた。