セフィロスを「いってらっしゃい」のキスで見送った後、部屋を掃除して時間になるといつもの白のロングを着る。
クリスタルバングルとアルテマウェポンに填められているマテリアを確認すると、いつものように装備した。
部屋のセキュリティーを確認しエレベーターに乗り込むと地下駐車場から愛車のバイクで撮影スタジオへと乗りつけると、待ち合わせの公園の前でスタッフが待っていた。
「さすが、時間通りですね。」
「何だか嬉しそうね?いい事でもあったの?」
「今日は”男”でいいんでしょ?」
「撮影する時はクラウディアになってくれればOKだよ。」
「アイ・サー!!」
びしっと敬礼するクラウドに苦笑いをしながらクラウディアスタッフは少年をまん中に囲むと、公園の中に組まれたセットの近くにある控室用のテントへと入って行った。
スタジオの中では依頼主とプロデューサーが目を丸くしていた。
「あ、あのクラウディアさんは?」
「サー・セフィロスから「レッドゾーンの5番街に愛しい恋人を行かせるわけにはいかない。」と言われて…この少年が代理になってくれる子です。」
「少年というか…ソルジャーではないかね?!」
「大丈夫です、彼はびっくりするぐらいクラウディアに似てますから。」
「ほ、本当かね?信じられないな。」
「私もサーに紹介された時は信じられませんでした。しかし危険な場所での撮影ではもう何度も彼に変わってもらってます。」
「なんだと?!では今までにも?!」
「ええ、とにかく時間がありません。クラウド君お願いね。」
「了解。今日はなにを?」
「CM撮影です。」
衣装をミッシェルからもらって着替えて出てくると、ミッシェルがその場でヘアメイクと化粧をする。クラウドの意志の強い青い瞳以外はすでにクラウディアそのものになって来ていた。その間にプロデューサーがクラウドにCMの説明をする。
「今日のCMはこちらのTVのCM。公園で遊んでいるうちに迷子になったような感じでカメラに話しかけて下さい。」
「クラウディア様が隊長殿にするように…ですね?」
「君、クラウディアもサー・セフィロスも知っているのかね?」
「自分はサー・セフィロスの直属の部下です。」
「ならばそのように頼む、カメリハ!!いくよ!!」
クラウドが指定されたポイントに立つとすっと目を閉じた。そして再び開かれた青い瞳は優しさをたたえたクラウディアの物であった。カメラクルーが思わず唸った。
「うわっ!!すげえ!!クラウディアそのものだ。」
クラウドがその言葉にふわりと微笑む。それはまさしくクラウディアの持つ”天使の微笑み”そのものであった。
依頼主が思わず目を見張る中をクラウドはいつもの調子でカメラに話しかけた。
「ご…ごめんなさい。かってにひとりで先に歩いちゃって…怒ってる?」
少し照れたような上目使いの瞳にほんのりと朱に染まった頬、恥じらいを含んだ物言いは何処から見ても女の子であった。
カメラがぐっとクラウドのそばに回り込むように近づくと、ぱあっと輝くばかりに喜んだかと思うと急に伏し目がちにうつむいてしまった。
「い、嫌。私ばかり見ないで。」
クラウドがカメラの方向ををついっとTVモニターにあわせた。そのままカメラがTVをズームアップする。プロデューサーがカメラをいったん止めた。
「す、凄いじゃないか君。」
「いえ、任務ですから。」
声をかけられた途端、クラウドは冷淡な視線でプロデューサーを睨みつける。先ほどまでの美少女っぷりとは余りにも差が激しい為にクラウディアスタッフですら苦笑していた。もうワンパターン撮影する為に再度スタンバイするが、やはり1テイクで撮りおえてしまった。
「お疲れ様でした、それにしてもこれほどソックリになるとは思わなかったよ。」
「いえ…では、コレで失礼いたします。」
クラウドが衣装のままで姿勢を正し敬礼すると、クラウディアスタッフが頭を抱えた。
控室用のテントに入って白のロングに着替えようとした所に、数人のテロリストが公園に乱入した。
クラウドが衣装のまま駆けだして、テロリスト相手に素手で殴り込んだ。
ひらひらした衣装を気にもせず足蹴リを決めた反動でもう一度回し蹴りをしかける。更にたたみかけるように正拳突きを浴びせると一気に半数が気絶した。
クラウドは嬉々としてテロリスト相手に思う存分暴れていた。あっという間に公園が静かになった。
CMクルーが唖然とした顔で戦う美少女のような少年兵を見つめているとヒールでテロリストの顔を上に向かせたクラウドが冷淡な瞳でつぶやいた。
「なんだ。お前、死に神ダインの所の下っ端だった奴じゃないか。お前ら解散したんじゃなかったのか?」
「そ、その声は地獄の天使?!な、何で貴様が!!」
「悪いな、ここはレッドゾーンだ。クラウディアを来させる訳に行かないから俺が身代わりになっていたんだよ。」
「ち、畜生!!」
「魔晄炉もあと7つ、なのになぜお前らは反抗する?他に行き場が無いのかよ?」
「一度走り出したら止まれる物かよ!!!」
「ダインはミッドガル郊外の土地を再生させようとしている。そんなに力が有り余っているなら協力してやるんだな。あと数年でミッドガルから魔晄炉が無くなる。そうすれば土地の力が戻ってくるはずだぞ。」
「お、おまえ。」
「お前達を殺したって何の得にもならねえよ。生かして働かせた方がダインの為だろうが。わかったら二度と馬鹿なマネはよすんだ!!」
クラウドに怒鳴られてテロリスト達がすごすごと退出して行った。
息巻いているクラウドの後ろから慣れた様子でティモシーが声をかける。
「クラウド君、悪いんだけど次の仕事があるんだ、移動するよ。」
「げぇ〜〜!!まだあるんですか?!」
「次はポスター撮りです。ミッドガルデパートのキャンペーン。」
「もう、仕方がないですね。任務が忙しくならないうちに終らせてくださいよ。」
そう言いながら白のロングに着替えるクラウドをプロデューサーと依頼人が目を丸くして見詰めていた。
5番街の公園を後にして次のスタジオに入ると目の前に先日のイベント担当者がいた。
こちらも白ロングのソルジャーを見てびっくりするが、先程と同じように衣装を着てメイクした後のクラウドはどう見ても本人だったので納得する。撮影もすんなりと行ってクラウドがその日スタッフに解放されたのは、午後3時を過ぎてからであった。
あわててバイクにまたがると部屋に帰り着替えて急いで夕食の支度をする。
クラウドは久しぶりに手の込んだ食事を作れると、張り切ってキッチンに立っていた。
やがて夜の帳が降りる頃、セフィロスが部屋に帰ってきた。
扉を開けて入ってきたセフィロスが目の前に居たクラウドを見て思わず立ち止まってしまった。
「クラウド。どうしたと言うのだ?」
セフィロスがびっくりした理由はクラウドが日ごろクラウディアでも着ないような服を着ていたからだった。
今日はめずらしく身体にぴったりとしたひざ上20cmのワンピース。エプロンはシンプルな白のフリルなので可愛さ倍増です。
「驚くようなお迎えをしてほしかったんだろ?」
「お前の女装も見慣れてしまったのか驚かなくなったな。」
「ちぇ!じゃあどうすればびっくりするんだよ?」
「さあな。そもそも私はそう簡単にはびっくりせぬぞ。」
「明日は絶対びっくりさせてやるから、覚悟しろよ。」
「クックック…それは楽しみにしていよう。」
セフィロスが苦笑を隠し得ない様子でキッチンに入ってくると持たされたランチボックスをクラウドに渡した。
「うまかったぞ。」
「全部食べてくれたんだ、よかった〜。今日は何処で食べたの?」
「クラスS執務室だ。」
クラスSソルジャーは執務室で食事をするような人は一人もいない。なぜならそれぞれ隊を率いているうえに部下との連絡を密にしたりミッションに行く為の会議をしたりと忙しいからである。
おまけにセフィロスがにらみを利かせていれば、誰一人とて”愛妻弁当”に手を出そうと言う男はいない。
おまけに彼が絶対零度の怒気をまとっていれば近寄る男などいないのであった。
にこりと笑ってランチボックスを受け取るとクラウドはセフィロスの後ろに従いながらリビングへと歩いて行った。
黒のコートを受け取りながらブラシをかけてハンガーにかけながら、今日5番街の公園で起こった事を話しはじめた。
「今日ね、クラウディアの格好で初めて足蹴リしちゃった。やっぱ気持ちいいよ。暴れる時に暴れられないのは精神的によくない」
力説するクラウドに呆れたような顔をしながら、セフィロスがシャツを羽織る。
「何処のグループだ?可哀想に。」
「ダインの所の下っ端。欲求不満だったんじゃないの?」
「それはむしろお前だろ?」
セフィロスの問いにクラウドが舌をぺろりと出しながらうなづくと二人でキッチンに入る。
「明後日が誕生日か…頑張ってケーキ作っちゃおうかな?」
セフィロスが思わず顔をしかめるのでクラウドがすかさず顔を覗き込んだ。
「あ、ヤッパリだめなの?」
「今日、ランス達に誕生会を開きたい言われた。」
「ええ〜〜?!」
「もちろん断った。お前と二人切りで過ごしたいからな。しかし、あいつらはお前も連れてくればいいという。」
「俺はいけないよ。だって仕事じゃないし…クラスSだけなんだろう?」
「そのはずだ。ランスが統括権限で調べたらしい、変な所に知恵が回るから困る。」
クラウドはあることに気がついた。
「ちょっとまって…じゃあセフィロスの誕生日って本当に17日なの?!」
「そうらしい。お前が決めた誕生日と偶然にも同じ日だと言ったらランスがびっくりしていた。」
去年、誕生日が分からなかったセフィロスの誕生日をクラウドが2月17日に決めたのである。その後当時の統括であるハイデッガーが治安部員の総意により排除され、クラスSナンバー2ソルジャーであるランスロットが統括に就任したのであった。治安部員には入隊と同時に体に名前と誕生日という個人情報を記された管理タグが埋め込まれるのであるが、これを照会できるのはカンパニー社長のルーファウス、タークスの主任であるツォンと治安部統括だけだったのである。憧れの英雄と親友になりたかったランスロットは密かにセフィロスの誕生日を調べていたのであった。
「もっとももし違っていてもランスを脅して日付を変えてやろうと思っていたが…な。」
そう言ってにやりと笑うセフィロスにクラウドは思わず抱きついていた。
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