ザックスの提案をセフィロスが受け入れると、あとはミッションの出発準備をするだけの状態になっていた。
 しかし、ここで黙っていられないのが最近過保護とレッテルを張られつつあるクラスSソルジャーたちであった。
「北コレルの反抗勢力を特務隊だけで解体するというのですか?!あまりにも危険すぎます!!」
「隊全部は無理でも一個小隊ぐらい随行したほうが良いと思います!」」
「せめて回復要員ぐらい連れて行って下さい!」
 憧れの戦友と一緒に戦いたいのか、クラウドの隣に立ちたいのかよく分からないが、連隊長ともあろう男どもが自分を連れて行けとうるさくなって以来、セフィロスはだんまりを決め込んでいた。当然連隊長たちの口説き落としの相手がクラウドに変わるだけであったが、目の前の少年兵は自分たちをもしのぐ力を持っていた。
「今回は相手を刺激しないためにも少数精鋭で行きます。このミッションの指揮権はザックスにあり、自分も隊長殿も後方待機させられます。」
 ザックスがミッションの指揮をとると聞いたとたんクラスSソルジャーたちの顔色が変わった。なにしろ自分のところに引き入れたくて仕方のない男がやっと頭角を現し始めたのである。少し我慢すれば特務隊から引きぬけるかもしれないと胸算用に入ったのである。ただ、心配症だけはやめられないらしい。
「しかし、姫。ザックスには何か考えでもあるのですか?あいつのやり方は今まで”いきあたりばったり”で強行突破型が多かったのです。戦火が拡大しなければ良いのですが…」
「そのために科学部門のガスト博士と協力して、とりあえず北コレルの魔晄炉を解体することから始めようかと思っているようです。」
 確かに目の前で魔晄炉が解体されていけば反抗勢力が反発する理由がなくなる。しかも解体作業を優先させるなら戦闘要員をたくさん連れて行く必要はない。
 実働隊であり、実力者の集まりである特務隊が行けば確かに十分になってしまう。
 クラスSの”一緒に連れて行って”攻撃が止むとクラウドがぺこりとお辞儀をしてクラスS執務室を後にした。

 クラウドがクラスS見習いになったとはいえ、扱いはまだクラスAである。部屋を出たとたんにほっと一息ついても誰もとがめることはしない。たとえ扉の外を同じクラスA仲間が心配げにのぞいていても、彼らはどちらかというと自分の味方である。
「ご苦労さん、姫。」
「毎度クラスSを納得させるのがうまいな。」
「俺、本当にクラスSに行くのかなぁ?いまいち自覚ないんだけど。」
「早く階段を駆け上がり過ぎなんだよ。姫のクラスA昇格が一年半前だから昇格にはあと一年半か…」
「副隊長歴が3年で昇格ならブライアンだったらもう昇格だろ?」
「わるかったね!クラスA歴4年目だよ!」
 クラスSへの昇格基準があまりはっきりしていないのは確かだが、どうして自分が昇格対象で、クラスAのリーダーであるブライアンが今まで昇格対象でなかったのかが分からない。はっきりした線引きが知りたいクラウドは思わず首をかしげてしまう。
「いったいどういう基準なんだろう?俺よりもブライアンやエディの方が先に昇格してもおかしくないって言うのに。」
「俺やブライアンが昇格しても率いる隊がなければ仕方がないよ。一般兵の数はずいぶん減ってきたからね。」
「まあ、これ以上進んだら隊の組み直しだろうな。」
 カンパニーの治安維持部の採用はすでに中止されていた、将来的に縮小が決定されているので、一般兵でも希望者から徐隊が許され始めていた。家が商売をしている者や入隊間がない兵たちから徐々に徐隊が始まっている。おかげで隊の人数がまちまちになり始めていたのであった。
「ランスロット統括とクラスSで話を詰めているようだけど、大幅な組み直しは避けられないだろうな。それなのにどうして今更クラスS昇格前提で俺たちに見習いをさせるんだろう?」
 クラスA一番の知能派であるエドワードすら答えが見いだせないままのようである。
「黒のロングを着ることは…確かに憧れだった。だが、俺みたいなガキが着ていいものでもないだろう?自覚も覚悟もない隊長には誰も付いてこないよ。」
 クラウドのつぶやきに明るく答えたのはザックスだった。
「そうかな?少なくとも特務隊の連中だったら誰も文句なんて出ねえ。みんな喜んで付いていくと思うぞ。」
 クラウドが特務隊を指揮してすでに一年半、隊員たちからは過去に文句を言われたことはないとはいえ、自分よりも年上でそれなりの実力を持つ男たちが素直に従っているのは、セフィロスとリックの二人が自分の後ろに控えているからではないかと思っていた。
「セフィロスの隣に立ち続けるということは…結構大変なんだな。」
 自嘲気味に話すクラウドにクラスA仲間が苦笑をもらしながら答えた。
「こっちよりもあっちの方が大変なんじゃないのか?世界の妖精さん。」
 もう一つの顔であるモデルの呼称で呼ばれると、思わずきつい目で睨んでしまう。その視線に冷や汗をかきながらランディがウィンクを飛ばした。
「お前、言われてるんじゃねえの?今度の誕生で18歳だ、「そろそろご結婚のご予定は?」なんてさ。」
 痛い所を突かれたのか先ほどまでの威勢の良さはどこへやら、がっくりと肩を落としたクラウドが苦々しげにつぶやいた。
「言われまくってる。まったく世間ってのはよっぽど暇なんだな。たかがモデルだぜ、同棲しようと結婚しようと自由だろうに…」
「それはお前もお相手も世間一般の注目を集めているからだろう?」
「そっちは逃げまくるよ。ウェディングドレスはもう十分だよ。」
 去年の春ごろシェフォード・ホテルと神羅カンパニー、そしてマダムセシルがタイアップしてブライダルサロンを開いた時、社長のルーファウスの命令でセフィロスとCMに出たのをこの場にいる全員がしっかりと覚えていたようである。全員がクラウドを見てにやにやと笑っている。
「いや、あれは綺麗だったぜ!あんなに似合ってるのに着無いなんてもったいない!」
「綺麗も似合うも言われたくない。も〜ぉ、この話はおしまい!ザックス、リック、科学部門に行くぞ!」
 すねて怒ったクラウドが執務室から逃げ出そうとして、ミッションにかかわりそうな部門の名前を口にしたが、ザックスが頭をかきながらヘラっと笑う。
「わりぃな、クラウド。ガスト博士ならもう話は付けてある。あとはちょいと北コレルでアルバイト広告を出せばおしまいだよ。」
 ザックスの言ったことが分からなくなったクラウドが青い瞳をまん丸くして首をかしげながらたずねた。
「アル…バイト…広告??」
 同じくザックスの真意が分からないリックもほかのクラスA仲間たちもきょとんとしている。
「なに?おまえらわっかんねーの?!へーーーきもちいーーーー!!!あのな、北コレルの連中魔晄炉を解体すれば反抗勢力解体するんじゃね?もう停止したってニュースが流れていても納得しねえんだよな。だったらどーせ解体するんだ。連中に解体の手伝いをさせれば納得すんじゃね?」
「それがアルバイト募集って…うまく応募しに来るのかよ?」
「魔晄炉の周辺が草も生えない枯れた土地だってのは知ってるだろ?働き盛りの男たちが畑も耕せずにうろうろしてるんだぜ、大丈夫絶対応募してくる。」
 明るい顔でどん!と胸を叩くが、その自信がどこからきているのかその場にいた者たちにはわからなかった。


* * *



 翌週、北コレルの魔晄炉解体作業員募集の広告が北コレルに出された。
 神羅カンパニーが科学部門の職員を随行させるが、治安維持軍は周辺のモンスターの対応のみに限定しているとしっかりと明記されている。時給も悪くはない、どっちかというと治安維持軍の一隊を動かすつもりでいた予算を回すのでかなりの金額になっている。
「なるほど…これなら北コレルだけでなく付近の働き手がこぞって応募してくるな。」
「しっかしザックスがこれ考えたのか?信じられねえよ!!」
 クラスA仲間たちが広告の素案を見た時にほぼ同じことを言ったものである。ザックスはいつものようににかっと笑いながら言い返したのであった。
「魔晄炉のおかげでさびれちまった土地に住んでいたから奴らのことは痛いほどわかるってもんさ。俺なら迷わず応募するって奴を作ればいいんだからな。まあ、カイルとジョニーにもちょいと知恵を借りたけどさ。」
「カイルはコスモキャニオン出身だから理由はわかるが…なぜそこでジョニー?」
「あいつは真逆で経営者側の意見だ。上からOKでないとアルバイト募集の広告なんて出せないからな。」
「なるほど、ジョニーのやつソルジャーとしてではなく経営者側として利用されまくってるんだ。」
「まぁな。使えるものは徹底して使う…これってお約束だろ?」
 上官達のやり方を見ているが故ザックスも容赦なく手駒として使えるものは使うことを覚えたようである。その答えににやりと笑うとクラスAソルジャーたちは親指を立ててウィンクした。
「GOOD LUCK!」
「で?出発はいつ?」
「面接が来週からだから俺とカイルは週末にも北コレルに入る。リック達は実際に解体作業が始まる少し前に入ればいい。あ、セフィロスとお前はお留守番、な!」
 ザックスの言葉にクラスAソルジャー達がいっせいに大声を出した。
「なんだってーーーー?!」
「姫もキングも留守番って?!どういうことだ!!」
「あん?どうもこうもないぜ。こいつら顔が知られてるジャン。特務隊は北コレルに入れてもこの二人は無理だ、だから俺達が解体作業にいそしんでいるときこいつら二人はコスタあたりでのんびり遊んでいる約束なんだ。ちょいと悔しいけどな。」
「あ、リック。いくらミッシェルに言われたからってコスタに行くことを教えちゃダメだよ。俺、またエステに行きたくないもん。」
「ダメだぜ、美人モデルが日焼けでこんがり小麦色ってのはよ。」
「大丈夫だ、リック。お前がミッシェルにチクらなくても、どこかの旦那の独占欲をちょいとつつけば、過保護なぐらいにプロテクトしてくれるぜ。」
「あ?ああ、そうか…エステってオイル塗ったりマッサージするもんな。」
「そーそ、しかも上半身裸だぜ。あの旦那がそんなこと許すと思うか?ぜーーーったいにあり得ない!」
 けらけらと笑いながらザックスは執務室を後にしようとするがどうやらクラウドの怒りを買ったようである。
「ザックス、今日付き合ってやらないからな!」
 週末には北コレルにいるとなると出発は明後日である、そうなると今晩中にプレゼントを買って明日中には渡さないといけない。まだ何も考えていないザックスが頼りにしていたクラウドに見捨てられて蒼い顔をした。
「どーしてだよ!お前の仕事に差し障るってエアリスからも釘さされてんだぞ!あーーーもう!俺はいったい誰の味方をすりゃいーんだよ!」
 もっと蒼い顔をしたのはリックである、あわてて執務室から飛び出して行った。
「なん?リックのやつ、どうしたってんだ?」
「ザックスと一緒かな?リックも多分ミッシェルから何かしらもらってるって事だろ。」
「はっはーん、うまくいってるようだな。あのスタイリストだろ?エアリスもちょっと気にしてたんだ。」
 リックとクラウディア・スタッフのミッシェルは付き合っていると言えるかどうかよく分からないが、男と女の関係でないことは見ていてもわかる。そしてその関係の行方はクラスAソルジャーたちの格好の賭けの対象になっている。
「あまり騒がない方がいいよ。それで壊れちゃったらかわいそうだもん。」
「周りが騒いだ程度で壊れるような関係はそれだけってことさ。さーてクラウドに振られたから、今日は一人でプレゼント買いに行くか。」
 ザックスがのんきに執務室から出ていくと、クラスAソルジャーたちが顔を見合せてうなずき合っていた。