女装から解放されると思っていたクラウドは一晩ぐらいならと思ってセフィロスとともに出席するようにと言われたパーティーに出た。
正装したセフィロスの優しげな笑みと完璧なまでのエスコート、そして甘いささやきに完璧に堕とされて、別荘に戻った時クラウドは彼の腕の中から抜け出そうとも思わなかった。
頬を染めてしなだれかかるように身を寄せる愛しい少年を姫抱きに抱き上げるとセフィロスはにやりと笑って寝室へ連れ込んだのであった。
いくら半数しかいないとはいえ、正規のソルジャーが一人もいないとはいえ、特務隊の隊員が北コレルに出没するモンスターにやられるような連中ではないぐらいセフィロスにもわかっている。たしかに魔力が低いゆえ変なステータス攻撃を受ける可能性はあるが、その前に先制攻撃で倒せるようなレベルのモンスター相手に過剰に心配するほどでもない。クラウドの言うことはもっともではあるが、それ以前に目の前の愛しい少年を心行くまで喘がせて、日がな一日その華奢な体を抱いていられるのであれば、たとえあとで彼から怒られようともかまわない。そう思ったセフィロスは思うままにクラウドの体を蹂躙していった。
あまりの激しさに気を失うように寝入ったクラウドは、翌日日がかなり高くなってからやっと目を覚ました。
体を起こそうとするがやたらだるくて起きることもかなわない、そこへやたらすっきりした顔のセフィロスが顔をのぞかせた。
「起きたか?クラウド。」
「もーう、セフィロスのバカぁ!激しすぎるんだよ!」
「お褒めの言葉と受け取っておく、それよりもザックスからメールが来ているぞ。」
携帯を手渡されてメールを確認すると反抗勢力の一員が北コレルに来ているのが特務隊だと気が付いているという報告だった。うまくごまかしたが相手はやはり神経をとがらせているとある。
その内容をセフィロスに告げるとクラウドはうつむいたまま少し考えた。
「ねぇ、セフィロス。反抗勢力は北コレルに俺がいるって思っているんだよね?」
「ああ、私がここにいることはすでに今朝のうちにニュースになっているからな。」
「じゃあ…俺の偽物を仕立て上げるとしたら誰がふさわしい?」
「能力的にはエドワードだが…お前の体つきを考えるとソルジャーでもルーキーあたりになる。」
「ん〜〜、そんな下っ端じゃ俺の真似は辛いだろうなぁ。どうしたらザックスの邪魔にならずにリックたちを助けられるだろう?」
「さあな、さすがにそれは思いつかないな。ミッドガルにお前が現れるのが一番なんだろうが、それでもリックが北コレルにいることは知られている。せいぜい隊を半分にしたとしか思われないだろうな。」
「セフィロスはどうするの?」
「さすがに隊のトップが二人ともいない状態で隊を放置したくはない。ザックスもリックもよくやっているとは思うが、な。」
常に前線に出て自ら指揮を執ってきたセフィロスらしい答えだと思った。クラウドが軽くうなずいてベッドから立ち上がろうとした時、携帯電話の呼び出し音が鳴り響いた。
着信を見るとティモシーだった。
「お休みのところ済みません。ジャック・グランディエ氏から連絡が入りまして、明日コスタ・デル・ソルのシェフォード・ホテル・ビーチゾートでお会いしたいとのことです。私もミッシェルもそちらに行きますので、どうか遠出をされないようお願いいたします。」
クラウドがセフィロスに電話の内容を告げると、グランディエ財団の会長が自ら出向いてまで会いたがる理由に顔を青くしていた。
「あのことしか…ないよね。」
「どうだろうな、ジャック・グランディエ氏にあうまで分からないが、覚悟はしておくのだな。」
人と会わなければいけないというのにモンスター討伐作業に参加するわけにいかず、クラウドはもう一晩コスタ・デル・ソルで過ごすのであった。
* * *
一方、北コレルとコスタ・デル・ソルの境にキャンプを張っている待機組は、のんびりとモンスター狩りをして一日を過ごしていた。
本日も夕食を取ろうと火をおこしモンスターを捌いてみんなで焼いて食べているとき、隊員の一人であるケインがリックにたずねた。
「リック、隊長殿にコスタにいるようにメールした方がいいんじゃないの?ここってさほど強いモンスターいないし!」
「大丈夫だ、隊長殿は来ない。ザックスの一言で奥様とイチャイチャしまくってるよ。」
「なるほど…そりゃ何時まで待っても来るわけないよ。」
その時、ジョニーの携帯にメールの着信を知らせる音が鳴った。一瞥するとリックの隣に移動し話しかける。
「なぁリック、ちょっと抜けてコスタ・デル・ソルに行きたいんだけど、いいかな?」
「隊長殿に何かあったのか?」
「隊長殿というよりも姫だ、親父が急に面会を求めてきたらしい。先日パティシエのミハイル・アデナウワーが姫の真の姿に感づいたんだ。」
「なんだって?!それで姫は?!」
「大丈夫だ、ムッシュ・アデナウワーは姫の味方になることを望んだらしい。それはティモシーから来たメールにも書いてあったから確かだ。」
「それでお前の親父さんが?」
「ああ…親父ならたぶん大丈夫だと思うけど、念のため俺もたち合うわ。」
「お前にしかできないことだ、姫を頼む。もしも姫に何かあったら…」
「姫に何かあったら隊長殿が世界を敵に回してでも守るだろう。その時味方になってくれる人がいれば…それが特に政財界に力のある人ならそれほど心強いものはないからな。」
ジョニーの言葉にうなずいたリックはポケットに入れていた見回り用の車のキーを渡した。
「燃料は満タンにして返せよ。」
「レンタカーか!」
そう言いながらもキーを軽く持ち上げてジョニーはいったんテントへと戻って行き、しばらくするとデイバッグのほかにガーメントバッグを片手に出てきた。手に持っているバッグを見てリックが目を丸くしているのでジョニーが苦笑する。
「リック、覚えておくんだな。これはスーツ専用のバッグだ。しばらくは縁がないかもしれんが、この先仕事が変わってVIPの警護とかの仕事が入ってきたら嫌でもスーツだぞ。」
「それを言われるとつらいものがあるな。なにしろ俺は私服なんてロクに持っていないんだ、着こなせるかどうかすらわからんよ。」
「はぁ〜〜〜〜、これが泣く子も黙る特務隊影の隊長の実態だよ。おまえ隊長殿の真似するんだったら、あの方の私服とかもよく見てまねろよ。隊長殿は一流のブランド品を持っていて使いこなしているだろう?」
「うるさい!ついこの前まで準クラス1stの給料だったんだぞ、小物だけでも足りなくなるわ。」
「あはははは!まあ、頑張って稼げ。じゃあちょっと行ってくるわ。」
軽く片手をあげて車に乗り込むとジョニーは一路コスタ・デル・ソルに向かってアクセルを踏み込んだ。
コスタ・デル・ソルの状況を全く知らないザックスたち日雇い作業班は予定通りなのかそれとも予定外なのかは不明だが、着実に魔晄炉の解体作業を進めていた。
山の頂上にある風の通り道に巨大な風車式の風力発電機を何基も設置して電力の補給をしているので、跡形もなく片付けても良いのだが、鉄材などはリサイクルできるので、できるだけ手で解体するという方針らしい。
日焼けと力仕事で脳筋族になりつつあるのであるが、さりげなく反抗勢力の動向を探ることは怠ってはいなかった。
反抗勢力もすでに反抗することを忘れたかのように労働にいそしんでいた。さり気に突っ込むと「もうカンパニーに逆らう意味がない」とまで言い始めている。これなら大丈夫であろうが、自分たちの実態を知られないように用心しながら、解体作業を進めていた。
* * *
ジョニーがコスタ・デル・ソルのシェフォード・ホテルに入ったとメールで知らせてきたのでクラウドは思わず安堵した。自分の部下であるが故、自分の味方になるために来てくれたのであろう、それはやはり明日のジャック・グランディエ氏との面会が問題をはらむ展開になることを予想して動いてくれた証拠である。
クラウディアのマネージャーであるティモシーもすでにコスタ・デル・ソルに入ったと連絡が来ていたので、明日は少し安心していられそうであるがやはり不安はぬぐい切れなかった。
翌日、ティモシーと一緒にミッシェルも来ていたのか別荘に現れた。
常夏のコスタ・デル・ソルに不似合いなスーツ姿のティモシーと、パステルピンクのワンピースドレスを持ってニコニコ笑っているミッシェルを見ると思わず頭を抱えたくなるが、逃げるわけにもいかない。
いやいや着替えるといつものようにきっちりとヘアスタイルを整えられる。バッグに魔法で縮めたアルテマウェポンと白皮のロングコートを入れてシェフォードホテルへと向かった。
ホテルの車寄せにはスーツを着たジョニーが待っていた。
軽く目配せしてロビーに入ると支配人がさりげなく近寄ってきた。
「サー・セフィロス、そしてレディ・クラウディア様でいらっしゃいますね?お待ちしておりました、こちらへどうぞ。」 ゆったりとした歩調で待たせていたエレベターに乗りこむと、全員が載ったのを確認し、オーナーが待つVIP専用のスウィートルームがあるフロアへと案内する。
奥まった部屋の重厚な扉を開けると、そこにはすでにジャック・グランディエ氏が待っていた。
「おや?お前を呼んだ覚えはないのだがな?」
「自分もあなたに呼ばれた覚えはありません、隊長殿とクラウディア様の護衛として来ました。」
父親に対する態度には思えないがジョニーは全神経を研ぎ澄ませてジャック・グランディエの出方を探っていた、殺気を浴びせかけるように睨みつける実の一人息子を見ると、ジャック氏には彼が一人の戦士である事を見せつけられているようであった。
「安心しろ、敵に回るつもりはないよ。ただ真実を知りたい。」
その言葉にセフィロスとティモシーが顔を見合せクラウドをうかがう。クラウドは天使の笑みを浮かべていたモデルの顔から、普段の戦士の顔に戻ると姿勢を正し敬礼する。
「第13独立小隊、隊長補佐クラウド・ストライフと申します。」
「特務隊の隊長補佐殿がなぜモデルをやっているのか、聞かせていただけますか?」
「それが…サーと一緒に過ごせる唯一の方法だったのです。自分はカンパニーの治安部の訓練所から兵士として採用された時、特務隊所属を言い渡されました。その前後に隊長殿とはお会いしていましたが、当時はまだ憧れでしかありませんでした。」
迷いのない瞳でクラウドが自分がモデルになったいきさつを詳しく話している。その態度はあくまでも戦士であり、すがすがしい物すら感じた。
クラウドが話し終えるとすっとセフィロスの隣に移動した、それはあくまで隊長の指示を待つ部下の姿であった。
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