モデルの仕事をこなしながらも北の大空洞へ行く準備をしているクラウドは常に忙しそうに動いていた。あまり忙しそうに動いているのでいつも約束している料理を作ることをキャンセルされてエアリスがちょっとザックスに愚痴を言っていた。
「クラウド君ってなんでそんなに忙しいの?」
「ん〜〜?!あいつはモデルの仕事を片っ端から片付けて行かないとダメだろ?おまけに大空洞に行く準備で身体も調整しないといけないし…かといって旦那をほっておいたら暴走するだろ?どうしてもエアリスとの付き合いが削られるだろうなぁ。」
「サックスがクラウド君の仕事を少し変わってあげられないの?」
「俺もリックもみんなも手伝っているんだけどよ、モデルの仕事だけは変われないんだな。6週間分みっちり入れられたと嘆いていたぜ。」
「あ〜ん!私だってクラウド君と会いたい!!」
「無理言うなよ…いっくらエアリスがガスト博士の娘だからってカンパニーの中には入れないし…かといって今部屋に押し掛けると、ただでさえ独占欲の強いセフィロスが嫁を独り占めできなくていらついているからどーなんだか…」
「もう…セフィロスのケチ!!いっつも一緒にいるんだから少しぐらい会わせてよね!!」
天下の英雄をケチ呼ばわりできるというのも彼女のすごいところの表れであろうか?クラウドを好きだから大切にしたい気持ちはよくわかる、しかしそんなエアリスの言葉を聞いて、思わずザックスが周りを見渡して、万が一にも聞かれていないか確認するのは仕方がないことであった。
「何を探してるの?ザックス。」
「何って…万が一セフィロスに聞かれたら、俺がどういう目に会うやら知れたものじゃないからな。」
「セフィロスってそんなに怖い人なのかな?そうは思えないんだけど。」
直接かかわっていないエアリスはセフィロスの怖さを全く知らない。だからこその発言であったが、彼の怖さをいやってほど知っているザックスにとっては信じられない言葉であった。
「あいつの事をそういう奴ってクラウドだけだと思ってた…」
目の前でプンスカ怒っている可愛らしい恋人をみてザックスは目を丸くするのであった。
「そう?私セフィロス嫌いじゃないわ。ただクラウド君を独り占めしすぎ!とは思うけどね。旦那さまなんだから仕方ないのかなぁ?」
「クラウドに言っておくよ、エアリスが会いたがってるってね。」
「うん、よろしくね。」
ミッション前になるとクラウド自身が忙しくていつも会えないことが多いのであるが、さすがに危険な地域に行くのであるし、その期間も長いとなるとエアリスとて派遣の前には一度会っておきたいと思うのであった。
「俺も…そろそろ準備に入るか…じゃあな、エアリス。生きていたら会おうぜ。」
「い、生きていたらって何よ。わ…私を結婚前に未亡人にさせる気?きちんと生きて帰ってくるって約束してくれないと…いやよ…」
少し拗ねた顔で大きな翡翠色の瞳に涙を浮かべながら、肩を震わせるエアリスがすごく愛しいくて、ザックスは思わず彼女を抱きしめ、ため息交じりに耳元でつぶやいた。
「ああ…生きて帰ってくる。セフィロスもクラウドも守って必ず君の元に3人で戻ってくるからさ、待っててくれる?」
「う…うん。待ってる。」
こくんとうなずいたエアリスの顎を片手で救い取り、バラ色の唇にそっと自分の唇を重ね合わせると、ザックスは左手を取り薬指に輝くエンゲージリングにキスをする。
「出発はもう来週だもんな、なるべくクラウドに暇を作って君に会うように言っておくよ。」
「あ…そういえばミッシェルだって彼に会いたいんじゃないの?」
「彼って…リックか?」
「うん。だって…私から見るとミッシェルあの人に絶対気があるとおもうの。表には出していないけど、最近彼女凄く綺麗になったもん。女の人が綺麗になるときってね、絶対影に好きな男の人がいるの。」
「リックねぇ…まあ、あいつも彼女に対しては特別なものを持っているんだろうが、あいつの性格じゃ今のような命がけの仕事をしている間は恋人は絶対に作らないぜ。」
「え?どうして?」
「あいつは…セフィロスに対して絶対的な憧れを持っている。そんなセフィロスのためにクラウドを守ってやらないとだめだって思っているからな。身を呈してでもクラウドを守るつもりでいる。しかし、自分に恋人ができたら何より先に自分を守っちまう…あいつはそういう奴だから、自分で自分を戒めるようにクラウドに惚れてるって公言してるんだ。」
ザックスの言っていることがあまりにも自分の知っているその青年らしくて、エアリスはくすっと笑った。
「いい人なんだ、ね。うまくいくといいな…あの二人。」
「ああ、真面目でいい奴だぜ。俺のほうがもうチョイいい男だけどな。」
にっかりと笑ってウィンクを決めると、ザックスはエアリスをさそって公園の片隅に止めてあったバイクへと歩いて行くのであった。
* * *
翌朝、寮を後にしてカンパニーに出社するとザックスはいつものようにクラスA執務室へと歩いて行く。執務室の扉を開けてすぐに目に飛び込んできたのはぷんすか拗ねるクラウドと、それをなだめるエドワード、そしてポスター片手にニヤケ顔のランディとキースといういつもの取り合わせだった。
「よぉ!ランディ、キース。今度はどんなポスターを仕入れたんだよ?」
もともとクラウディアのファンだったランディとキースは、美少女モデルの実態が目の前の少年兵であることを知ると、その可愛らしい表情見たさに「ついついいじめてしまう」のであった。新しくポスターが貼り出されると、どこからいつの間に入手したかわからないが、翌日にはすでにカンパニーに持ってきては本人を目の前にして褒めまくるのである。
そんなありふれた光景がミッション前だと言うことを忘れらせてくれるので、ザックスもよく突っ込みを入れていたのであった。
「お?!ザックス、見ろよこれ!クラウディアのCMポスターのエロイこと!」
「な?!なんどすて?!」
ランディが持っていたポスターをあわてて覗き込むと、真っ赤に照れた顔でちょっと大きめの黒の革製のコートを素肌にまとっているだけなのか、しゃがみこんでいるため胸元と太ももがちらりと覗いている。その覗いた胸元や太ももの際にキスマークのおまけがついていた。
「うっわ〜〜〜!!!こんな際どいの、よくあの旦那やティモシーたちが撮影許可したな!!」
「だって…そのキスマーク付けたの…セフィだもん。ティモシーに連れてきてくれって言われた時は理由がわからなかったけど、まさか香水のポスターにこんな演出するなんて思わなかったよ。」
「これってセフィロスの使っている香水なのか?すげーアオリ文句だよなぁ…『あなたの香りに包まれたい。』なんて、さ。」
ザックスがポスターの宣伝文句を見て思わず納得すると、ふと周囲を見渡して首をかしげた。
「と…そういえば…エディがクラウドをかまっているのに出てこないって…いったいリックの奴はどうしたんだ?」
エドワードがその一言に飛び上がるように背筋を伸ばし、クラウドから瞬時に離れると、扉が開いて鼻歌交じりでリックが入ってきた。
「よ〜〜お、お前ら元気か〜〜?!」
余り機嫌がいいので、速攻で魔力の強い連中取り囲まれた。その中の一人であるブライアンがいつものようにポケットからモルボルの触手を取りだしながらにやにやと笑う。
「おい、リック。わかっているんだろうな?」
「姫のスタイリストと何かあったんだろ?洗いざらい吐け!」
緑色のうねうねと動く触手を目の前にちらつかされて、リックが青い顔をするが、彼には全く身に覚えのないことだった。
「ちょ…ちょっとタイム!姫のスタイリストと何かって…なんだよ?!」
魔力のほとんどないリックにとってステータス変化を起こすアイテムは命取りになりかねないのである。しかし実力はクラスSの目の前の男に下手にステータス変化の魔法やアイテムを使うことはない。このやり取りはリックがミッシェルと仕事のために交流を始めてからちょくちょくある「自白しろ!」という暗黙の脅しだったのをその場にいる全員が知っていた。
しかし、今回ばかりは何が何だか分からないという表情のリックから、かぎ慣れた香りがするのにクラウドが気がついた。
「あ…れ?リック、香水なんて使っていたんだ。これ、セフィロスと同じものでしょ?予約待ちでなかなか買えないって聞いているんだけど、いつの間に買ったの?」
「ああ、クリスマスにビンゴで香水をゲットしたランスロット統括から腕ずくで銘柄を聞いて、速攻で予約して、昨日やっと買えたんだ。隊長殿の使っているものは高いからペンでも1万ギルとかするから困るんだよなぁ、この香水もほんのちぽけな小瓶で5000ギルもするんだぜ。」
「う〜〜わ、英雄フリークもそこまで行けば恐ろしいものだぜ、元クラスSソルジャー相手に腕ずくかよ?!そういうことに給料使うからいつまでたっても寮から出られないんだぞ!」
「ふふふ〜〜んだ!俺は貴様たちとは違って腕には自信があるんだよ。カンパニーの治安部が縮小してもしばらくは危険なミッションのために居座るつもりだし、治安部が将来軍隊の派遣をやめてもVIPのガードとかは入ってくるからな、ずっと隊長殿の部下で居続けてやるから、寮から出る気はないね。」
リックの実力であればきっと可能なことであろう、しかしそれではいつまでも女性と付き合うことなど無理なのではないか?そう思ったザックスが昨日のエアリスの言葉を思い出してつぶやいた。
「まぁ…お前はその気でいればいいんだろうけどよ、この先お前に少しでも気がある女が出てきたらどうするんだよ?少しは自分の幸せも考えろよ。」
元不真面目な男が、真面目な顔で言った言葉に一瞬目を丸くしたが、すぐにいつもの表情を取り戻し、にやりと口元を緩める。その笑みはよくセフィロスが不敵に笑う時に見せるものだったので、クラウドが呆れたように話しかけた。
「もう…リックったら。いくらセフィロスのファンだからって、そういう笑い方まで真似なくったっていいじゃない?!」 ところが全く分からないクラスA仲間達が首をかしげた。
「え?姫、リックの奴って今笑ったか?」
「うん…よくセフィロスが不敵に笑う時に見せる表情そっくりだった。」
「お前が言うんだったらそうなんだろうなぁ…まったく、こんな英雄フリークの男がなぜ俺と姫を取りあっているなんて噂になるんだ?」
ため息交じりでつぶやいたエドワードのセリフにクラスA全員が爆笑した。
「それもそーだ!」
明るい声が聞こえる部屋に飾られた時計の指示している日付は、あと数日で彼らを凶悪なモンスターが巣喰う危険な場所へと行かねばならないことを告げていた。しかし、彼らにそのような暗い影は一つも見当たらない。しかし、確実に行く日は近づいてきていた。
|