後発隊の役目は通路の確保と食料品の輸送であった。
 先発隊と第二班がほとんどのモンスターを根絶やしにしながら進んでいるのか、現れるモンスターはほとんどいない。先発に入ったザックスと、そのあとを行くリックらしいやり方だと納得しつつも、自分も剣をふるいたい気持ちがじわじわと沸騰してくるのがわかる。クラウドはそんな気持ちを抱えながら適切な指示を出していた。
「左の崖、崩れそうだから少し固めてね。それと足元が不安定だからきちんと歩けるように整備しないと駄目だよ。」
 指示というよりはお願いである。おまけに可愛らしい顔でニコッと笑っていうから、下級兵たちが顔を赤くしながらも素直に従っている。そんな自分の部下たちを見てゴードンがため息交じりでつぶやいていた。
「おーお…可愛いってのは最高の武器だなぁ。なぁ、ランディ。この部隊ってこんなに素直な連中ばかりだったっけ?」
「いーや、結構反抗的な連中もいるぜ。でもそいつらが率先して姫の言うことを聞いているんだから…やり方を変えないといけないかなぁって思うな。」
「どこかに姫以上の美人で腕の立つ男ってのはいないものかねぇ。」
「心当たりがいるけど…その方は"元"氷の英雄殿だ。」
 ランディがつぶやいた言葉にゴードンが苦笑していた。

 一方、クラウドは一般兵に交じって一生懸命通路を確保していた。
 まさかクラスAソルジャーが率先して人足作業をするとは思っていない下級兵があっけにとられている中、タオルを首にかけて汗をかきながらスコップを持って作業する姿に、あわててクラスBソルジャーが飛んできた。
「ちょ!ちょっと待ってください、サー・クラウド!クラスAソルジャーが一般兵に交じって人足作業をするなんてイケマセン!」
「え?なんで?この間ザックスたちだって北コレルで魔晄炉の解体作業をやっていたよ。」
「おい、クラウス。サー・ゴードンを呼んできてくれ、じゃないと俺達リックにしばかれるぞ!」
 一般兵最強の男の名前を聞いたクラウスがあわてて駆け去っていくと、すぐにゴードンを伴って戻ってきた。
「た、頼むって姫!一般兵に交じって肉体労働なんてクラスAのすることじゃないんだ、俺たちは監視と万が一モンスターが襲ってきた時の対応だってば!」
「えー?!だって、モンスターなんて先発隊と第二隊でほとんど殲滅しているから監視なんて何もやることないじゃん。」
 クラウドが言い訳をしていた時、背後からまがまがしい気配がして振り向くと、先発隊と闘っていたのかダークドラゴンが 血を流しながら舞いあがってきていた。
「下がって!」
 いきなり剣を抜き襲いかかってくるドラゴンと対峙するが、奴はすでに凶暴化していて、あちこちに強烈なブレスを浴びせかけている。
 その時、一般兵が作業する足元にドラゴンブレスが浴びせられ、足元の土が崩れた。
「わああああーー!」
 悲鳴を上げながら落下する一般兵を見て、クラウドが躊躇せずがけから飛び降り、一般兵を確保しながらバハムートを召喚しその背に着地する。
 残された第21師団の隊員達は、いつも後方での作業が多い隊なのでモンスターなど見たことが無い、悲鳴をあげて逃げ惑っている。
 クラウドがバハムートに乗って一般兵と戻ってくると、逃げ惑う一般兵の真ん中に降り立った。
「メガフレアをダークドラゴンに向かって照射!」
 クラウドの命令を聞いてバハムートが無属性の光をダークドラゴンに浴びせかけた。

 その頃、先発隊に入っていたセフィロスが何かを感じ取っていた。
「先ほど逃してしまったダークドラゴンか?後発隊で何かあったようだ。ザックス、離れるぞ。」
「ああ、わあった。」
 ザックスが返事を言ったとたんにセフィロスは近くにある足場を思いっきり上に向かってジャンプしていた。それを見たザックスが上のほうに向かって叫ぶ。
「リック!セフィロスがクラウドの所へ飛んで行ったぞ!」
 むろん、ソルジャーに強化されていないリックに、はるか下のほうから叫んだ声が聞こえるわけが無い。しかしリックにつき従っていたエドワードがその声を聞いた。
「リック、キングが姫の所まで飛んで行ったって…ザックスが言ったが、わかるか?」
「ん?ああ、多分こういうことだ。」
 リックががけから体を乗り出すように下に向かって手を伸ばした。何をやる気なのかよくわからなかったエドワードだが、しばらくすると目の前で信じられない光景が繰り広げられた。
 何かをつかんだのかリックが下に伸ばした手を思いっきり引き挙げたのである。すると目の前を黒い影のようなものが通り過ぎて行ったのであった。
 鍛えられたソルジャーの目がとらえた黒い影はセフィロスだったのである。
「キ、キング!いったい何がどうして?!」
「下のほうにいる最前線からどうやって上にいる最後尾まで行くのが早いか考えてみろ。トップソルジャーであり隊長殿ぐらいしかできない技だろうけど、ああやって足場や途中にいる味方の力を借りて上に飛ぶのが一番早いだろ?」
「それにしてもすごいなリック。こんなことが頻繁にあるのか?」
「いや、一度もない。あの方が最後尾の事を考えるのは撤退するときだけだった。でも、今は最後尾に姫がいるからな、常に後ろ髪を引かれていたんじゃないかな?」
「納得。さすが特務隊影の隊長だ。」
「いや、俺がソルジャーだったら真っ先にやりたいことを考えただけだ。だが、こんな無茶をするような方じゃなかったのも確かだな。」
「先発隊、ザックスだけで大丈夫か?」
「大丈夫だ、あそこにはお目付け役にブライアンとジョニーとカイルがいる。それにザックスも猪突猛進はもう卒業しているぜ。」
「だな…。」
 エドワードはリックの答えに納得しながら、周囲の気配を探っていた。


* * *



 バハムートがメガフレアの咆哮をダークドラゴンに浴びせて終わり、マテリアの中に戻ろうとした時、その尾をつかんだ反動でダークドラゴンに向けて飛び込んだ影があった。

”まったく…おぬしは美味しいところを持っていく奴だな…”

 しかし、バハムートのつぶやきが聞こえたのはその場所には二人しかいなかった。その一人であるクラウドが、ダークドラゴンに最後の一太刀を浴びせて、ちょうど正面の棚上の岩場に降り立った軍神を見つけた。
「セフィロス!」
 クラウドの声に振り返った男が長い愛刀についた血糊を振り払った。
「バハムートの発動を感じた。強い召喚獣を発動するほど、強い敵でもなかろうに…」
「す、すみません。」
「まあ良い。あいつを倒しきれなかったこちらも悪いのだからな。」
 そう言ったと思うと、セフィロスは足元の岩を蹴って飛び降りた。
「ちょ!ちょっと、隊長殿!危ないです!普通に道を下りてください。」
「それでは遅い。それにお前のようにバハムートを呼んで背中に乗るわけにもいくまい。なにしろ私はあいつらに嫌われているからな。」
「……ばれてた…。」
 はるか下のほうに降りて行った軍神を見送り振り返ると、道の隅っこのほうに第21師団の隊員達が固まって震えていた。その姿を見てクラウドはきょとんとした顔で首をかしげた。
「どうしたの?もう大丈夫だよ。」
 それでもまだガタガタ震える一般兵の中から、恐る恐るアンディが進み出た。
「じ、自分達はドラゴンを始めて目の前で見たのです。す、すごく怖くて…クラウド…少尉がいてくださってよかった…。」
「後方支援隊と最前線ってそんなに違うんだ。」
 なぜか寂しい思いがクラウドの中にし始めた頃、彼の方をポンとたたいてゴードンが話しかけた。
「助かったぜ、姫。俺たちじゃあんな風に落下した隊員を助けられなかったからな。それにしても飛行タイプの召喚獣って背中にも乗せてくれるものなのか?」
「うーん、どうだろう?俺の場合バハムートさんに頼んでみたらOKしてくれただけで…」
「お前…あの短い間にそんなこと頭の中で考えていたのか?」
「うん、召喚獣さんが慕ってくれているとできるものじゃないの?」
「普通無理。俺も3年以上シヴァを持っているけど、暑いからって適度な冷気を出してはくれないぞ。」
「そう?シヴァみたいに美人さんにそばにいてもらえるだけでもいいと思うけどなぁ?」
 クラウドの言葉が聞こえたのか自分の左腕で淡く光りだした赤い召喚マテリアを見て、びっくりしたゴードンがあわててバングルをつかんだ。
「そんなことこいつが聞いたら、お前の所に行っちまうだろうが。たのむって姫、お前が召喚士タイプだってのは知ってたが、そんなに召喚獣に好かれるなよ。」
 クラウドのバングルにはめられている召喚マテリアが赤黒く光り始めると、ゴードンの召喚マテリアがいきなり光を納める。その様子を見てあきれたような声でランディが話しかけた。
「姫の所に嫁に行きたいとはあきれた召喚マテリアだな。こいつの持っている召喚マテリアは究極とも言われている連中ばかりだ、力の差で追いだされておしまいだよ。」
「どうやらそのようだな、睨まれてすくんじゃったよ。」
「さ、無駄話は終わりだ。最前線が動き出したようだ、各自仕事を再開せよ!」
 ソルジャーの耳が何かを聞き取ったのか、ランディーが指示を出すと、やっと第21師団が動き始めた。


* * *



 後方で通路を作って一週間がたった。先発隊と第二隊が戻ってくると特務隊とクラスAソルジャーを残して隊員が入れ替わる。それと同時にまたザックスとリック、クラウドで言いあいがはじまった。
「俺一週間後方を担当したんだよ、次は最前線がいい!」
「姫の言い分もわかるけど、俺もあまり剣を振ってないからなぁ…ザックス、貴様は肉体労働が好きなんだろう?」
「じょ!冗談じゃねえ!俺も最前線がいい!!」
 一週間前とほとんど変わらない会話である。横で聞いている特務隊の隊員達が苦笑を洩らしている。
「6週間いるんだろう?それぞれ交代で入ればお互いさまじゃないのか?」
「ううう…じゃあ、次は第二班?」
「そ、姫は来週最前線。今週は俺!」
「しゃあねえなぁ…ま、それが一番公平か。」
 3人の会議の後ろでクラスAソルジャーが固まって話していた。お互いの知りえる情報を交換し、それぞれの状況を判断していた。
「おい、ブライアン。そっちは決まったか?」
「あ?こっちの配置はお前ら次第でペアを組む相手は変わらない、ザックスのところにパーシー、姫のサポートにゴードン、リックの所にキースが加わるぐらいで変更なしだ。」
「え?どうして?」
「もともとお前達3人のパワーバランス、戦略、魔力などを考えた配置だ。姫に足りないのはパワー、ザックスに足りないのは規律、リックに足りないのは戦略と魔力だろ?それを補う配置だ、変えられるわけ無いよ。」
 納得の答えに、3人がうなずくとそこにセフィロスがやってきた。
「クラスA!仲間で固まっているな、下級兵が恐れて近寄れないぞ。グレイン、さっさと隊を配置させろ!ライオネル!撤退に時間をかけるな!休憩は二時間だ!」
 氷の英雄らしい冷静で絶対的な命令に、あわてて隊員達が動きまわった。