セフィロスの命令に、隊員達が動きまわっているなか、クラウドはリックの隣に立っていたエドワードに声をかけた。
「エディ、リックにいじめられていない?」
「ははは…、安心しろ。お前が目の前にいなければ、こいつは冷静な特務隊の影の隊長殿だ。それよりも訓練生時代の同僚達と一緒だったんだろう?ショックを受けなかったか?」
「うん、ちょっとね。ダークドラゴン相手に竦んじゃって…あれじゃ特務隊には入れないよ。」
「入れなかったからランディの所にいるんだろ?訓練所卒業してすぐに特務隊についていけるような気の強い男なんて、俺はお前以外知らないぜ。そんな男をいくら可愛いからとお姫様扱いするこいつの気も知れないけどな。」
そういってリックを指差す。指を差された男はさぞ気に入らないとばかりにエドワードを睨みつけていた。
「いくら気が強いって言っても、実際に金髪碧眼の可愛い子ちゃんだからな。お前らみたいにいい加減軍隊に慣れて擦れた男じゃないからマジで可愛いかったし、今でも可愛いと思うが?」
「それは否定できないな。次の第二班は俺の所だろ?。姫が入るって聞いて連隊長殿どころか、部下達が張り切っちゃって…あれならどんな無茶な命令でも聞きそうだよ。」
「後ろに思い残すことが無くていいじゃないか。おまえは俺と最前線だ、せいぜいこき使ってやる。」
「う〜わぁ、うれしいような悲しいような…」
リックに背中をたたかれてエドワードが複雑な顔をしながら、装備の補充に後方支援隊へと歩いて行った。
「エディの所ってことは…第15師団か、バージルも入るの?」
クラウドがゴードンに尋ねる。ゴードンはうなずいて指示を出した。
「ああ。バージル!姫のサポートだ、回復系のマテリアを用意しておけ。」
「ああ!わかってる!姫の持っているマテリアは攻撃系にすればいい、せいぜいサポートさせてもらうよ。」
バージルの後ろには何度か一緒に行動したことのあるクラスBソルジャーたちが並んでいた。クラウドが軽くうなずくと、ソードとバングルの中にはめてあるマテリアを交換した。
「バージルがそういうなら回復はいらないか。」
攻撃主体にマテリアの配置をすると、準備が終わって整列する隊員達の所に行く。そのわきに並んでいる特務隊のメンバーはほぼ変わっていない。クラウドはエリックに尋ねた。
「またじゃんけん?」
「いや、カイルとジョニーは自主的にザックスについて行った。俺とユーリは話し合いだ。きっと理由は姫たちと一緒だよ。」
「そう…じゃあ、よろしくね。」
そういうと、今度は第15師団に歩いていき連隊長のパーシヴァルにあいさつする。
「サー・パーシヴァル、よろしくお願いします。」
「ええ、こちらこそ…せいぜい足手まといにならないようにします。」
そういいながらも自信ありげな顔をしているのはクラスSナンバー3の実力を持っているからであろう。クラウドがもう一度特務隊の仲間の所にこうとした時、先発隊が動き始めた。
「一時間後に出発します。」
そういうとあわてて後方待機のテントに走っていき、ポーチの中にハイポーションとフェニックスの尾を入れて戻ってきた。
* * *
第二班に入ったおかげか、少しはモンスターが襲ってくるが、第一班がほとんど根絶やしにしているのか、あまり強いモンスターは襲ってこない。クラウドが隣を歩くバージルにぶつぶつ文句を言いながらも、足元を這いつくばっているモンスターを見逃さずに剣で突き刺す姿は、後ろを歩いていた第15師団のメンバーの目を丸くさせた。
「姫…容赦ないなぁ。」
「容赦なんてできないよ、こんなに一般兵連れて歩いたことないもん。」
「まて、お前ら特務隊だって一般兵ばかりじゃないか!そりゃ実力は全員1st以上ありそうだけど、正規のソルジャーは隊長のキングとザックスだけだろ。」
「あ、そういえばそうだったっけ。えへ、忘れてた。だって特務隊は俺が後ろにいるモンスターにサンダガかけても、さらっと受け流すから、こんなことしても皆みたいにびっくりしないんだけど?」
そういって話しながらも死角にいるモンスターにブリザガをかける。一撃で凍ったモンスターを軽く蹴飛ばすとこなごなに砕け散った。
「おーお。気を抜いているようで、しっかりと気配をあちこちに配ってるよ。」
「ん〜、前にリックたちがいるから、これでもずいぶん気を抜いているつもりなんだけどなぁ…」
そういいながらも飛び出してきたモンスターを瞬時に袈裟がけにするあたりは流石としか言いようがない。従っているクラスA仲間が苦笑を洩らしつつも、安心してクラウドに先頭を歩かせていた。
あまり大きな戦闘に突入することなく、一週間が経過した。
先発隊がいる位置から戻ってくると二度手間になってきているので、交代で見張りをしながら一日の休憩を取った後、特務隊を残して支援要員が入れ替わる。同時に特務隊の各班も順番を入れ替わった。
先日まで第二班の支援隊をしていたバージルが自分の隊を引き連れて出口へを戻っていくのと入れ替えに第7師団の副隊長パーシーが自分の隊を引き連れて入ってきた。それを見てクラウドは思わず喜んだ。
「ん〜!やっと先発隊だ!」
クラウドが身体を伸ばすように喜ぶと、付き従っていたエリックが苦笑した。
「姫、たった一週間でまた後発隊に戻るんだぜ。」
「いいもん!この一週間でたまった憂さを晴らさせてもらうから。」
「おーお、出てくるモンスターたちに思わず同情するよ。」
パーシーとゴードンが苦笑していると、先発隊にずっといたセフィロスがやってきた。
「なんだ、余裕だな、クラスA。」
その場に座っていた全員があわてて起立して敬礼するのを軽く視線でとらえた後、セフィロスは二人のクラスAに問いかけた。
「二周目になるな、上に戻らずに潜り続けるぞ。」
「了解しています、自分なら大丈夫です。」
「どこかの隊長補佐殿のおかげで楽させていただいているのでこのまま行けます。」
「ほぉ、クラウド。お前何をやったのだ?」
「特に何も…いつもの通りです。」
「なるほど、よそ見をしながら魔法をかけたり、飛び出してきたモンスターをいきなり袈裟がけにしたというところか。」 セフィロスが正確に言い当てたのでゴードンが呆れたような顔でクラウドに話しかけた。
「姫、お前マジであれを普通にやっていたのか…」
「うちの隊員は皆よそ見をしながら敵を倒すけど?なにしろ視線をあちこちに配っていないとやられるからね。ところで隊長殿、この周辺の敵は下級ソルジャーで見張りが務まるような敵ですか?」
「どう思う?」
「わかりました、見張りはクラスB以上で5人ぐらいでいかがです?」
「よかろう。」
そういうとセフィロスは少し高くなっている岩の上に腰をかけて政宗を抱えながら座った。すかさずエリックがコーヒーを持っていく。
「隊長殿、インスタントですがどうぞ。」
「ああ、コーヒーか。」
折りたたみ式のプラスチックカップに温かいコーヒーがが入っていた。それをすすりながらセフィロスはクラウドの行動を目で追っていた。クラスBとクラスAとで休憩中の見張り番をする話し合いをして、軽くうなずいて戻ってくる姿は立派な士官であるが指揮官のすることではない。同じチームに入ったガーレスがあわててクラウドに話しかける。
「姫、貴方はこの班の指揮官なのですよね?普通指揮官自ら見張りに立つことはしません。」
「でも、自分はクラスAですし、人数的にそう沢山はいませんから見張りも順番に担当しないと…」
「では、明日から先頭を歩きたいのでしたら、今日の見張りは自分と変わってください。」
「連隊長自ら見張りに立つというのはそれこそ聞いたことがありません。」
ガーレスとクラウドが言いあっていると、気になったのかセフィロスが岩から降りて近寄ってきた。
「何をいがみ合っている?」
「ああ、キング。指揮官である姫を見張りに出してもよろしいのですか?」
「良いも何も…こいつほど頼りになる士官も他にいないであろう?それとクラウド。休憩の見張りに私とガーレスも入れておけ。クラスB以上だけだと持たないぞ。」
「了解いたしました。」
そう言って去っていこうとするクラウドを捕まえてセフィロスが耳元で囁いた。
「HAPPY BIRTHDAY クラウド。」
腰が砕けるほど甘い声で不意に耳元でささやかれた思わぬ一言に、クラウドが顔を真っ赤にさせてへにゃりとその場で座り込んでしまった。その様子を見てあわててエリックとゴードンが駆け寄るが、何があったのかわかっていないエリックにソルジャーの聴力を持っているゴードンが耳打ちした。
「時計を見ろよ、今日は何月何日だ?」
「8月11日になったばかり…って姫の誕生日じゃないか。」
「そういうこと。」
すぐにあきれたような顔をするエリックにゴードンが苦笑しながらクラウドを立たせると、真っ赤になった顔をごまかそうとセフィロスに食ってかかった。
「た、隊長殿!あれほどセクハラはやめてくださいって言っているではないですか!」
「何をいまさら…隊長殿は姫が真っ赤になって可愛いからやるのじゃないのか?」
「だからって…こんなたくさん兵たちがいるときにやらなくたっていいじゃないか!!」
「クックック…本当にかわいい奴だな、抱きしめてキスされないだけましだと思え。」
「ううう…背後からモンスターが襲ってきても放置してやる!」
「あー、無理無理。姫なら無条件で身体が動く。」
パーシーとゴードンに軽くあしらわれているといきなり上のほうから黒い影が飛び降りてきた。
「やっほー!クラウド誕生日おめっとさーん!」
陽気に現れたのはザックスだった。彼に気が付いたエリックが思いっきり突っ込みを入れる。
「遅いぞ、二番煎じ。」
「に、二番目?やっぱセフィロスに先越されたか?!」
「あははは…でも、ここまでどうやってきたの?ザックスのいた第二班はここより2階層ぐらい上だよね?」
「あん?そんなものどこかの隊長殿のまねをしただけだよ、いやー、俺にもできるもんだな。」
けらけらと笑う兄貴分がポケットから何か出した。持っていたのはモンスターから奪い取ったのであろうか?エリクサーだった。
「ほらよ、誕生日プレゼント。」
手渡されたエリクサーがどう入手されたのか一発で見抜いたゴードンが呆れたような声を出した。
「何だよ、ザックス。元手かかっていないじゃないか。」
「そりゃないぜ、せっかくモンスターから奪い取ったのに。」
言葉とは裏腹に明るく笑っているザックスの後ろからいきなりリックが現れた。どうやら彼は普通に駆け下りてきたのか息を切らしている。
「ば、バカ野郎!俺より先にプレゼントを贈るな!」
「リックも来てくれたの?大丈夫?後発隊は4階層は上でしょ?」
「エディがいるからずいぶん楽させてもらってる。ザックスもかなり楽そうだな?」
「ああ、俺の場合監視役がリックの倍いるからずいぶん楽させてもらってるよ。ちょいと神経使うけどな。」
「二人ともわざわざありがとう、ずっと地下にいるから今日が何日か忘れちゃってた。」
「仕方がないさ、体内時計は明るい日差しを浴びないと24時間にならないらしい。時計で動かないと身体をおかしくするぞ。」
「二人とも、もう自分の所に戻ってよ。あまり指揮官が自分の隊を離れちゃだめだよ。でも…ありがとう、うれしいよ。」 クラウドが天使の笑顔を浮かべた後、二人の背中を押すように後方へと歩いて行くと、すれ違う兵たちに今日が誕生日である事を知られたらしく「おめでとうございます。」と言われて嬉しそうに会釈していた。
その様子を苦い顔で睨みつけている男と、その隣で苦笑している男がいた。
「クッ…ククククク…まったく、良いではないですか。それとも下士官に会釈をするなとでもおっしゃるのですか?」
「まったく、あれがクラスS候補生かと思うと頭痛がするな。」
「それは…直さねばならないことでしょうな。」
そういいながらもガーレスは優しい瞳をクラウドに向けていた。
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