クラスS緊急会議が招集された 物々しい雰囲気で集まった連隊長たちが聞かされた議題は、自ら望むことではあったが、目の前の盟主と仰ぐ男が手放すとも思えず、どう対処してよいものか対応に苦慮していたことであった。 会議室の最奥に座っている男はこれまでにないほど最低最悪の寒気団を背負っている。その雰囲気に気押されながらも定位置に座ると統括であるランスロットが口火を切った。 「さて、諸君にも既に知れ渡ったことだとは思うが、クラスS見習いのクラウド・ストライフ大尉に対するクラスS早期昇格願いが治安部の過半数の部隊から出されている。この件に関しては今までの規定の見直しが必要であるため緊急で会議を開いた。議題はまず一つ目が規定の見直しをするべきか、否か。二つ目がこの案件をどう処理するかである。諸君の意見を聞きたい。」 隣に座る男の様子をうかがいつつも、一気に言い切ると肩息をついて椅子へと腰かけた。それと同時に異様な静けさが会議室の中に訪れた。 パーシヴァルが意を決して手をあげ立ち上がった。 「確かにクラウド・ストライフ大尉にはクラスSの資格は十分あるかもしれない。しかしまだ17歳の少年に一つの大隊を率いる事が出来るのでしょうか?それ以前に彼自身がまだ部隊長になると言う自覚がないように思えます。」 「確かに、ストライフ大尉はクラスS見習いとして行動するようになっても、下級兵の敬礼にいちいち返礼するし、同僚だった者に出会うと未だに友達として接しているようです。自覚と言う面では足りないと言えば足りてはおりません。」 パーシヴァルに続いてガーレスが言葉を足すが、セフィロスの背負っている暗雲が取れる事はなかった。 リーがすっと手をあげて話し始めた。 「ストライフ大尉の戦闘能力、魔力、指揮官としての能力は認めざるを得ません。下級兵たちが大尉を部隊長にしてそのもとにつきたいと思う気持ちもわからないでもないです。」 「それでは…結論は導けないな。」 重たい口調でセフィロスが呟くように話し始めた。 「副官歴任年数を短くしても、強くカリスマ性のある戦士を部隊長においてもよいか?と、いうことであろう?私は『やってみないとわからぬ。』としか答えられぬな。ただし、このたびの査定でクラスSにふさわしい値が出なければ、その資格すらないと言う事だ。」 あくまでも冷静に答えるセフィロスに居並ぶクラスS仲間が一瞬目を丸くした。しかし、統括のランスロットがにこりと笑って軽くうなづいた。 「セフィロスの言うとおりだ。査定でクラスSの値が出たら、クラスA所属のクラスS見習いからクラスS所属の準クラスSにすればいい。そうだな、ウータイの魔晄泉封印には実働隊の隊長として試しに一隊を率いさせればよいのでは?」 「悪くはないが、いきなりゴドーを相手にするには時期尚早であろう?クラスSでもあいつの手腕に踊らされるというのに、上がったばかりの少年が対抗できるとは思えんな。とにかく方針としては先に査定ありだ。反論は?」 「ございません。」 その時、トリスタンが手をあげてつぶやくように言った。 「ただ一つ…心配なことはあります。ストライフ大尉にとって仲の良かった者たちとの立場の違いがありすぎて…彼自身を困惑させるのでは…と。」 「それは仕方あるまい。あれ自身が解決せねばいつまでたっても前に進むことは出来ぬ事だ。」 あくまで冷静なセフィロスに、クラスSソルジャーたちの方が不安な表情をする。しかし賽はすでに投げられたのである、提案が了承されれば後は実行されるだけであった。 クラスS会議の結果をクラウドが知ったのは会議終了後すぐであった。 統括であるランスロットから呼び出され、正式に言い渡されれば拒否することはできない。しかし、クラウドは未だにクラスSに上がりたくない気持ちが強かったのであった。 「サー・ランスロット…本当に自分のようなまだ軍歴3年に満たない者が部隊長クラスに入ってやっていけるのでしょうか?」 「セフィロスが…なんと言ったか教えてあげましょうか?『やってみないとわからぬ。』ですよ。実際私も耳を疑いましたが、ね。確かにその通りなんです。やっても見ないでできないと言わないでください。」 「確かにその通りですが…」 「では?この嘆願書に署名した兵の意思を貴方はどうしたいのですか?これだけの兵が貴方を部隊長としてその元に仕えたいと言っているのですよ。」 「買いかぶりすぎだと…」 「では私からも言わせてもらう。君はもう少し自分に対して自信を持つべきだ。セフィロスを真似しろとは言わないが、せめてあいつの半分ぐらいの自信を持ってくれたまえ。」 「え?!」 クラウドにとって自分に対する自信程持ち合わせていないものはなかった。幼いころから村人たちに仲間外れにされて、一人で遊んでいたのである。何をやっても「これでいいのか?」「このとおりでいいのか?」と自問自答しながらこれまでやってきたのである。周りの人が認めてくれるということなど過去の彼にはなかったのだ。 「自信…ですか。」 「ええ、君に足りないのは自信と自覚だと思います。これからはそれを身につけるよう努力してください。」 常にない厳しい瞳のランスロットを久しぶりに見て、クラウドは背筋をぴんと伸ばし敬礼をした。 クラスA執務室に戻ったクラウドの顔が晴れ晴れしいものではないからか、仲間たちが心配げに眉をひそめている。その中をいつものようにリックとザックスがクラウドの左右を固めた。 「なぁ、クラウド。何言われたんだよ?」 「お前を呼んだというならミッションではないだろう?なんなんだ?いったい。」 「ん?ああ…今度の査定データ次第で、俺クラスS所属になりそうなんだ。まだ任期が満たないから準クラスS扱いらしいけど…俺みたいな入隊3年目のガキが…一隊を担う隊長クラスだなんて…自信ないよ。」 暗い顔してつぶやくクラウドの両隣で顔を見合せながら二人はあきれたような顔をしていた。 「あー、来ましたよ。リック。」 「ああ、どうやら来たようだな。」 あっけらかんとして答える二人にクラウドは思わず詰め寄った。 「なんだよ?!その「来ちゃった」って言い方は!」 「いや…だってさ。俺達、寮で生活してるだろ?以前同じクラスだった連中からいろいろと聞かされたりしてるんだぜ。」 「俺たちならまだいいよ。特務隊だから任務の事は話せないからなぁ…こいつらなんて凄いんだぜ。特にエディ、飯が冷めるなんてしょっちゅうだ。」 「え?!何故?!」 「ん?ああ、下級兵から声がかかってな。お前のこと根掘り葉掘り聞かれてるよ。」 「たまには寮で寝てみろ。お前のファンがめちゃくちゃ多いことを実感するぞ。」 エドワードの言葉にかぶせるように話したのは部下の多いパーシーである。額に珍しくしわが寄っているのは、相当迷惑を被っているようであった。 「そりゃ無理だろうなぁ。こいつが寮外で生活してるのは今や有名だし…美人の恋人の手料理が上手いらしいという噂まではびこってるし、なあ。」 「ん?ああ。お前が俺達とどこか遊びに行くこともなく、まっすぐ部屋に帰るからそう言われてるらしいぜ。」 「ま、実際それでごまかせている上にお前にとって悪い噂ではないから放置してるけどな。」 クラウドが不満いっぱいという顔をしていると、クラスA仲間たちが不思議そうな顔をして尋ねた。 「あれれー?おまえ、何が不満なんだよ。」 「ん、いろいろと…ね。でも、何かを我慢しないと、何も解決できないんだろうね。」 自分で発した言葉とはいえ、まるで自分が納得するための言葉に、クラウドは思わず苦い顔をしていたのであった。 一方、セフィロスも仲間の手前とはいえ、クラウドを試すような立場になることに苦慮していた。クラスS仲間もそれを悟ってはいたが、見守るしかないという事もわかっていたようであった。 仕事を終えたセフィロスが帰宅すると、いつもとは違って出迎えたクラウドの表情は暗かったのであった。 「まったく…お前は顔を見れば気持ちがわかる奴だな。」 「だって…俺には自信が無いよ。正直怖いんだ、俺みたいなガキが黒のロングを着るということが許されるのかって…。」 「それを望んでいる者たちの中に私がいるとしても…かね?」 「え?!」 びっくりしたクラウドがセフィロスの顔をまじまじと見つめていた。 「な…なんで?セフィが?」 「私の隣で同じ色の服をまとうお前を…実際に見たいと思うのはいけないことなのか?」 緩やかな笑みを浮かべているセフィロスの言葉が嬉しくて、クラウドは思わずその姿を想像しようとしたが、やはり自分の中にあるわだかまりを取り除かないと、思い浮かべることすらできなかった。 「それはうれしいんだけど…俺には挨拶を返してはいけないとか、下級兵の友達に話しかけてはいけないという約束が守れそうもないよ。」 「それだけなのであろう?ならばそのうち慣れる。お前は私の隣で同じ色の服を着たくはないのか?」 セフィロスの言葉がクラウドのかたくなな心を次第に溶かしていった。 確かに無理なことではない、慣れてしまえばいいことなのかもしれない。それに…なによりもセフィロスが望んでくれるのが嬉しい。そう思ったクラウドは目を閉じて軽くうなずいた。 「うん、着たいよ。セフィロスが望むような男に…俺、なりたいよ。」 あの時ニブルヘイムで見た雑誌に載っていたセフィロスの勇姿、朝日を浴びて光輝くような黒革のロングコートは幼いクラウドの瞳を惹きつけられて止まないものであった。その服を着たくて…そして同じ色の服をきた憧れの人と並びたくてクラウドはここまで来たのである。その思いがかなう時が目の前に来ていることが怖いようで…それでいて嬉しい気持ちがある。 複雑な思いを残したままであるが、憧れの人であり、愛する人に望まれてやっとクラウドの心が決まったのであった。 そして資格見直し試験が次第に上級ソルジャーへと移って行った。 同時に他部門の査定に加わっていた特務隊が体術と剣技の査定に加わりだすと当時に、クラウドとセフィロスが剣を持つことが多くなって行ったのである。いままでとは違い、自分の専門分野で動くジョニーやリックははた目から見ても生き生きとしている。それを見て、引き抜きたくて仕方が無い連隊長たちが、あきらめ顔でため息をついていた。 やがて査定がクラスAへと移っていくと、査定役がクラスSになったのであった。クラスA全員が執務室に戻ってきて顔を合わせながら苦笑いをしている。 「何だか、久しぶりだな。」 「全員集合は一カ月ぐらいしていなかったかな?」 「明日からは俺たちの番か…」 「なぁ…知ってるか?明日の剣技査定。」 「ああ、部下たちがすっごく楽しみにしてるんだ。」 「俺も自分じゃなかったらめっちゃ楽しみにしてただろうな。」 査定方法はすでに公表されていた。特に剣技はクラスSとの1対1の勝ち抜きなのである。下級兵たちにしてみればクラスSとクラスAの剣を目の前で見る稀にない機会なのである。 既に部下達から当日には見学させてほしいとまで言われている。 「武闘場…そんなに広くなかったよな?」 「絶対全員入らねえって」 自分の心配をするよりも、設備の心配をするクラスAソルジャーたちに、クラウドは思わず苦笑いをしてしまうのであった。
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