翌日クラスA執務室に集まって各自剣を確認していると、ブライアンが時計を見て声をかけた。
「時間だ、行くぞ」
「アイ・サー!!」
 軽く返礼すると一斉にクラスAソルジャー達が執務室を後にして武闘場へと足を進める。そこには既にクラスSソルジャーが全員並んでいた。全員そろって黒のロングコートを着ている姿に思わずユージンがため息交じりでつぶやいた。
「壮観だね。」
「一般開放以来かな?久しぶりに見るよ。」
 ひそかにかわされている会話を無視してブライアンが姿勢を正して声をあげた。
「全員整列!!礼!!」
 クラスAソルジャーが一列に並び一礼すると、セフィロスが一歩進み出て全員を見渡して言い放った。

「アルファベット順で行く。アラン、貴様からだ!」
「アイ・サー!!」
 アランが一歩進み出るとクラスSソルジャーの中から一人進み出た。
 1vs1の勝ち抜き戦とはいえ、隊長を張っているクラスSソルジャーはそうやすやすと負ける訳に行かない。クラスAソルジャーで初めてクラスSを全員抜いたのは、誰あろうクラウドだった。
 あっという間に26人を抜くと、周りで見ていた下級ソルジャー達からため息が漏れた。
 いつものようににこりと微笑むとセフィロスに向かって姿勢をただし、敬礼した。
「隊長殿、お願い出来ますか?」
「クックック…私に勝とうと思っているのか?」
 セフィロスが正宗を居合抜きの型に持ってすり足で一歩前に進むと、室内とはいえ何処からか風が巻き起こっているのかコートの端がひらひらと舞い踊っている。
「よろしくお願いします!」
 一礼してクラウドも剣を下段に構えてすり足で一気に近づくと、刀と刀がぶつかりあう激しい音が室内にこだまする。
 見ている全員が固唾を呑むほどの戦いは間違っても二人の関係を想像出来ない。
 クラウドはスピードがある攻撃をしていたが、力は遥かにセフィロスの方が強い。固唾をのんでじっと見つめている時間が徐々に伸びていく。30分ほどの激闘の末にクラウドの左肩に触れるか触れないかの場所で、セフィロスが正宗をぴたりと止めた。
「た…隊長殿の正宗は振ると伸びるのですか?!」
「クックック…知らなかったのか?私の剣は私の意志を受けて自在に動く。リーチが欲しいと思えばその分長くもなる。」
 クラウドが両手を上げてギプアップを示すと、後ろで見ていたクラスAソルジャー達が感嘆の息を漏らした。
「すごいな、姫。キング相手に30分も戦えるなんて俺には真似できないよ。」
「この後俺なんだけど、部下に比較されるじゃないか。」
「特務隊隊長補佐残留決定だな。」
「うっひゃー、うかうかしてらんねえな。隊長補佐がこれでリックもクラスS全員抜けるんだろ?そんな連中相手に回して特務隊の副隊長張るなら、セフィロス相手に10分は持たないとダメじゃないか。」
 ザックスが素っ頓狂な声をあげるときっちりとその意味を悟ったガーレスが突っ込みを入れる。
「なんだ、ザックス。貴様は我らナイツ・オブ・ラウンドを全員抜くつもりで居るのか?」
 ガーレスの言葉を聞いてザックスがにやりと笑った。
「それが特務隊残留の条件ならば…俺はやりますよ。」
「ザックス、貴様はアルファベット順で行けば最後だが、最後まで残す訳に行かなくなったな。こいつらが疲れる前に対決してもらわねばならん。これから順不同にする、ザックス出ろ!」
「アイ・サー!」
 セフィロスの命令でザックスが一歩前に出ると、今までと同じようにクラスSソルジャーの中から一人ずつ進み出て剣を交え始めた。しかしやはりザックスもあっという間にクラスSを26人抜いてしまったのである。
 びっくりしたのはクラスAソルジャーたちである。
「うそだろ?!マジで全員抜いたよ!」
「は?!あいつあんなに強かったっけ?」
 信じられないという顔を見合わせていた仲間たちに、リックが苦笑をしながら話しかけた。
「おいおい、忘れたのか?何度も言ってると思ったがなあ…。あの馬鹿猿は戦略さえまともならいつでもクラスSに行ける実力があるぜ、馬鹿の一つ覚えで何も考えずに突っ込んで行くから俺達が困っていたんだよ。」
「特務隊隊はクラスSが4人も居るのかよ…」
「それが特務隊だからだ。」
「カイルやジョニーですら最近クラスBどころか、クラスAの俺達を倒すからな、マジで恐い小隊だぜ。」
 クラスAが小声で会話をしている間にザックスはセフィロスと剣を交えていた。鋼の交わる音を聞きつけて二人を見ると、パワーこそ互角だがスピードも技も遥かにセフィロスの方が上まわっているのがわかる。ザックスはセフィロスの剣を受けながら思わず舌打ちをしていた。

(ク、クラウドの奴こんなすげえ男とよくもまあ30分も戦ったもんだ…)

 なんとか意地で10分持たせたが、ザックスはいつの間にか片ひざを付いていた。
 セフィロスが苦笑しながら言い放った。
「ザックス、特務隊副隊長残留決定だ。」
「た…助かった〜〜〜!!」
「何も好き好んで最前線を担当する我が隊に残っていなくてもよかろうに。」
「あんたとクラウドをかまっていると楽しくってな。」
 ザックスがその場を退くと、セフィロスは次の相手の名を読んだ。
「次!リック、来い!!」
「アイ・サー!!」
 リックが呼ばれて前に出ると、ふたたびクラスSソルジャーが一歩前に出る。彼も過去に一度クラスS26人抜きをやったことのある男だ、あっという間に26人抜いてセフィロスと対峙する。
「よかった、なんとか特務隊残留は決定ですね。」
「ああ、私を引きずり出せば有無は言わさぬ。」
「ふふふ…姫は俺が守りつづけます。」
「お前はそればかりだな。」
 セフィロスが正宗を抜くとリックもプラチナソードを下段に構える。しかし実力の差はあっという間に出た。鼻先に剣を向けられてリックは両手をあげる。
「ちぇ!姫とザックスが弱らせてくれてたんじゃないのかよ。」
「無理言うなよ。」
「セフィロスの所に行くまでに、こっちが体力削られてるんだぜ。我ながらよく10分持ったものだと思うぜ。」
 リックがセフィロスの前を去ると、再び次の相手の名前が呼ばれる。
「次!エドワード!」
「アイ・サー!!」
 セフィロスが実力が有ると認めている男から呼びはじめたのであった。
 エドワードはずいぶんリックやセフィロスに苛められたおかげか、クラスSを20人抜いた、クラウドよりも前に呼ばれていたブライアンは魔法部隊の隊長ではあったが、常日ごろザックスと組んでいる上にクラスAのトップを張っているだけあって、クラスSを半分抜いた。
 こうして数人がクラスSを何人か抜いたのであったが、一人も抜けないクラスAソルジャーも何人かいた。
 全員が終わった時、セフィロスがクラウドを呼んだ。
「クラウド、明日は魔力の査定だ。お前の力を貸してほしい。」
「了解いたしました。」
 セフィロスの言葉を聞いて、ブライアンが思わずつぶやいた。
「さすがに俺達の魔力の査定にもなるとお前がいのるか」
「クラスAともなると…ね。明日にはバハムートさんを触らせてあげられるよ。」
「バリアに弾かれておしまいだよ。」
「俺、魔力ないからダメじゃん。」
「リックは魔力が無いに等しいからなぁ…あとでサー・リーと話し合わないとダメだな。」
 クラウドの言葉にザックスが茶々を入れた。
「よ、クラスS!」
 クラウドがむっとした顔でザックスに答える。
「ザックス、明日はバハムートさんに苛めてもらうから覚悟しろよ。」
「げ!!あの気の荒いおっさん、俺苦手なんだよ〜〜!!」
「バハムートをもてるだけで、俺にとっては驚異だよ。」
「ああ、サー・リーですら弾かれたんだ。魔力ではザックスが3番目と言うことになるのかな?」
「魔力だけならサー・リーやエディやブライアンの方が上だと思う。バハムートさんを従わせるのは魔力だけではないよ。だって、魔力なら俺よりも隊長の方があるけど、バハムートさんは隊長を嫌っているみたいなんだ。」
「嫌いでも従うときがあるのだろ?ある意味それも凄いな。」
 クラスAソルジャー達が執務室に引きあげながら雑談をしていると、ふとキースが気がついてクラウドに聞いた。
「魔力があって強くても言う事を聞かないような…そんな強い意志を持つ召喚マテリアを俺達が触るのか?」
「クラウドが何か言わないと握らせてももらえないよ。」
「そうかなー、そんな恐い召喚獣達じゃないんだけどなぁ…」
 クラウドが取り出した赤いマテリア達が手のひらの中でころころと光り輝いている。やわらかな晄が手元に居る召喚獣達が今穏やかな気持ちで居る事を教えてくれていた。

     "明日は活躍してもらうからね"
       "了解いたしました、我らでよろしければ。"
      "我が主よ…そなたが望むのであれば…"
        "我に依存はありません。”
         "もちろん我にも。"

 4体の召喚マテリアの赤い晄が少し強くなってすぐに元の晄へと戻る。その様子をクラウドの肩口からザックスが覗き込むように見ていた。
「なんだぁ?!こいつらお前にぞっこんじゃないか!だからセフィロスを嫌ってるんじゃないのか?!」
 ザックスの一言でクラスAソルジャーが、セフロスほどのソルジャーがこの4体の召喚マテリアを常に持ち歩かない理由をなんとなく解ったような気がしたのであった。

 翌日から始まったクラスAとクラスSの魔力査定はあっという間に終わってしまった。クラウドの持つ4つのマテリアを区別できるか、どれほど近くに行けるのかでほぼ決まってしまったのである。
 中でもクラスSがびっくりしたのが、やはりというか…ザックスであった。
 4つの召喚マテリアを正確に言い当てた上に、ひょいと持ち上げてバハムートを召喚したのである。魔法部隊の隊長であるリーですら呼ばれることを拒否し、バリアで身を守っているマテリアを、軽々と持ち呼びだしてしまったことに、ブライアンがショックを隠せないでいた。
「う…うそだろう?!隊長殿ですらはじかれたというのに…何故お前が…。」
「ん〜、俺もわかんねぇ。ただ、いつもと違って晄が軟らかかったんだ。何だか持ってみろって言われたようで…さ。んで、ソルジャーの性分でマテリア持つと呼びたくなるじゃん?だから呼んでみたら答えてくれたw」
「でも、いきなり召喚しないでよ。呼べると思っていないからあわててバリア張ることになって、バリアがどこか弱いところが無いか確認する暇なかったじゃないか。」
「お前だけじゃなくてセフィロスとサー・リーがとっさに反応してたから3枚重ねだろ?バハムートだって俺が呼べるとは思っていなかったみたいだしな、ちょっと力抜けしてた気がする。」
「お前の魔力が少ないってことさ。呼べることは呼べるけど的に大きなダメージを与えられないだけしかないんだ。」
 ブライアンが的確に言い当てる。
「召喚獣のダメージも魔力と比例する。それは普通の攻撃マテリアも一緒だと…確か訓練生の時に、習っているはずなんだがな。」
「あ…忘れてた…。」
「こんな奴に負けてるのか…俺は。」
 間の抜けたザックスの言葉にがっくりとブライアンが肩を落とすのであった。