査定が終わるとすぐに、治安部統括のランスロットとセフィロスによる全兵士のランク付けが始まった。
 しかしデーターが多すぎるためランク付けは簡単に終わるものではなかった。
「セフィロス、これでは数が多すぎる。まず部隊長を決めてそれから副隊長…次は小隊長と決めて、あとは部隊長と副隊長にも参加させれば早いと思うが…。どうですか?」
「そうだな…部隊長が決まればある程度決まるのも早いか…。」
「それで…クラウド君はどうされますか?」
「残念だがまだクラスSを任せるには体力が足りないようだ。もっともソルジャーとして強化されていないから、リックと同等というのは仕方がないというレベルだな。」
「やはりクラスAのまま…ですか?。」
「準クラスSというものがあれば、それがふさわしいとは思うが残念ながら現状ではその地位はない。しかし地位はどうでもよい。あれは私の副官だ、部隊編成に左右することはない。」
「そうですね…では部隊編成から行きますか。」
「ああ。まず輸送部隊はペレスとトールのままで確定だな。戦闘部隊だが…」
 セフィロスの配置を横からランスロットが助言したり、反論したりとしているうちに、次第に部隊が出来上がってきた。
 それは今までとはあまり変わりがなかったが、がらりと変えたのは一部隊に基本的にクラスSソルジャーを2人配置した事であった。しかし2部隊だけは部隊編成の人数が少なく、例外なのかクラスAソルジャーを隊長補佐としていた。

 そして、各部隊の部隊長たちが会議室に呼ばれた。
 その中に居辛そうに二人のクラスAソルジャーが会議室入り口に立っていた。クラウドとブライアンだった。
「そう小さくなるな。貴官達は元々各隊の副隊長だったはずであろう?」
 統括のランスロットが苦笑すると、ブライアンが困ったような顔をして返事をした。
「理解はします。しかしストライフ少尉のように慣れてはおりませんし、自分よりも魔力の強いクラスAがいるという事実に、自分がこの場にふさわしくないのではないかという思いはあります。」
 ブライアンの言葉にセフィロスが冷たく笑う。
「安心しろ、あいつはたしかにバハムートを呼びだしが…それだけだ。確かにこのところの急成長はザックスの実力の一環かもしれぬが、まだまだ隊長補佐を張るのは早い。貴官は4年の長きにおいて魔法部隊の副隊長を務めていたという実力と実績と、それによる信頼がある。その差は大きいぞ。」
 セフィロスから暗に信頼があると言われると、それにこたえられない男は治安部にいるわけがない。ブライアンもすぐに表情を変えると自分の隊長の隣へと移動した。
 一方クラウドはまだ納得いかないようである。
「自分にはまだ信頼も実績もないと思いますが…」
「お前は体力が微妙に足りないだけで、あとはクラスSソルジャーに入れてもやっていけるだけの実力がある。クラスSに無理やり入れなかっただけでもありがたいと思え。それともなんだ?いまここでそのデータを公表してここにいる連中に反論されるか?」
 ひょいと持っていた用紙をすぐ隣のパーシヴァルへと手渡すと、クラスSナンバー2の男が手元に来た資料を見て眼を見開いた。
「こ…これは。キング、どうして彼がクラスSではないのか説明していただきたいほどですね。」
 パーシヴァルの手元にある資料をすぐ隣にいるガーレスが覗きこむと、同じようにつぶやいた。
「剣技…クラスSナンバー2、魔力同じく、戦略同じく、射撃クラスSナンバー3、体力非ソルジャーナンバー2。これはすごい、体力以外はクラスSでもトップを張れるのですか…」
 ガーレスのつぶやきに、その場にいるクラスSソルジャーが一斉にセフィロスに詰め寄った。
「何故ここまでできる士官を規定があるとはいえクラスSに上げないのですか?!」
「正式なクラスSがダメでも準クラスSという地位を作ればよいではないですか!」
「ほら…な。わかったか?クラウド。」
「了解しました。」
 苦々しげな顔でクラウドがセフィロスの隣へと移動すると、一同が整列し一斉に着席した。
 円卓会議の開始である。
 各部隊の正副隊長の組み合わせの発表が終わると、それぞれが発表された部隊が本来座るべき位置へと移動する。ひととおり移動が終わった後で、今度はクラスAソルジャーの資料が配られた。
「ブライアンとクラウド以外のクラスAソルジャー配属を決める。」
 セフィロスの一言で各自がクラスAソルジャーの資料に目を落とした。
 一瞥したパーシヴァルがセフィロスに訪ねた。
「本当に欲しい男が招集に答えないこともあり得ますね?」
「ああ…十分あり得るな。」
「しかし…これはのどから手が出るぐらいになってきたな。」
 資料を配られなかった魔法部隊の隊長リーが、首をかしげながら隣に座っているヴィアデの手元にある資料を覗きこんだ。
「何故私に資料が来なかったのかわかりましたよ。この資料を見たら確かに欲しくなる士官になりましたね。」
 ガーレスが資料を持ちながら小刻みに体を震わせている。
「こいつらなら移動させた途端にしょぼくれて使いものにならんぞ。どうするんだ?これほど欲しいと思えるのに。」
 セフィロスが苦々しげな顔をしてガーレスのつぶやきに答えた。
「一度外の空気を吸わせてやりたいとは思っているが、死んだ魚になってもらっても困る。」
 セフィロスの発した言葉でクラウドは即座に二人の男の顔が浮かぶ。
「ザックスとリックですか?リックはともかくザックスも移動したがらないのでしょうか?」
 クラウドの問いかけに答えたのはブライアンだった。
「あいつは動かないよ。なにしろお前とキングを引退に追いやるのは自分しかいないと豪語しているんだからな、特務隊の隊長の座を狙っていると言っても過言ではないぞ。」
「たしかに魔晄炉がすべて停止して、強いモンスターを一掃したら、治安部が閉鎖縮小へと向かうから、そうなったときは自分は第一線を退くつもりでいたけど…どうしてそこまで?」
「簡単だ。同時にキングも統括就任がほぼ決定だから、それまでに安心して引退させられるように信頼を勝ち得たい…ただそれだけだ。」
「ザックス…」
 この場にいない兄貴分的な男がやけに真剣になってきた理由がはっきりすると同時に、その場にいたクラスSソルジャーがあきらめのため息と、複雑な表情をした。
 その空気を感じ取って統括のランスロットが口火を切った。
「さて…希望するクラスAソルジャーの名前をあげてくれ。」
 各部隊長からそれぞれ部下に欲しいソルジャーの名前が挙がる、元々の部下を指名することが多いので名前が何度も呼ばれることはなかった。
「しかし…エドワードは随分鍛えられたようですね。」
 輸送部隊の隊長であり元の上官であったペレスが呟くと、セフィロスがにやりと口元を緩める。その隣で全兵士のデーターを手渡されたクラウドが困った顔をした。
「隊長殿、このデータを頭に叩き込むべき人物は自分ではなくザックスのような気がしますが?」
「あいつにそれができると思っているのかね?」
「出来る、できないではなく、やってもらわねば特務隊所属から外すだけです。」
「なるほど、その手があるか。ここでは手狭になってきた故、第一会議室へと移動する。その間に配下のクラスAソルジャーたちを呼ぶこと。」
「アイ・サー!」
 一斉にクラスSソルジャーたちが立ち上がると銘々に携帯を取り出して、自ら指名したソルジャーを呼びだす。同じようにクラウドもリックとザックスを呼びだした。
「おう、クラウドか。何?」
「新しい配属が決まった。部隊長と副隊長の顔合わせを今から行うのでリックとともに第一会議室にすぐに来るように。」
「そっちの用事か、了解した。リックとともに第一会議室へと行きます。」
 内容を伝えたとたん、ザックスの声のトーンが一段低く抑えられるのを聞くと、先ほどブライアンが言っていた「信頼を勝ち得たい」というのは本気なのだと思えてくる。
 クラウドは通話の切れた携帯を苦々しく見つめながら、第一会議室へと歩いていくセフィロスの後を追いかけるのであった。

 第一会議室に入ると、それぞれ部隊ごとに分かれてテーブルが配置されていた。
 ランスロットが既にテーブルの上にクラスB、クラスCに所属するソルジャーたちのデータ一覧が配っていたのか、テーブルに着いた部隊長、副隊長たちが資料を覗きこんでいる。ザックスとリックもクラウドのそばで同じように資料に目を落としていた。
 セフィロスがホワイトボードの前に立ち、会議の目的を話し始めた。
「上級クラスのソルジャーの配属を決める、各自データを見てスカウトしたいソルジャーを決めておけ。」
 それだけ告げると、クラウドの座っている横に来て開いていた椅子にどかっと座った。
「隊長はどっしりと構えて何もしないんでしたよね?」
 意味深にクラウドが尋ねると、セフィロスはにやりと笑って答えた。
「ああ…特に配下のソルジャーのデータぐらいは副隊長が覚えるべきことだな。」
 クラウドがセフィロスの言葉を聞いてザックスに向けてにっこりと笑った。
「頑張ってね、ザックス。俺は隊長補佐で副隊長はザックスだから。」
 クラウドの言葉に一瞬目を丸くしたザックスは、隣にいるリックの顔を見る。
「なんだ…自分の隊の隊員すら選べないようでは、特務隊を仕切るなんて夢の夢だぜ。」
「わかっている…っていうか。俺達の隊は特殊だから、いつもの連中呼べばいい気がする。実力重視で呼ぶつもりだが…指名の順番みたいなものはあるのか?」
 ザックスがリストから目を離してセフィロスに問いかける。
「お前にしては上出来の質問だな。新規に隊員を獲得する気はあるのか?」
「もう少し魔力のある隊員がほしいところだが、魔力が強いと剣や体力が無いのがセオリーだ。体力と剣技重視で選ぶといつもの連中しかいないんだ。しかし、それにしても凄いな。特務隊に呼ばれるという事は伊達じゃないという事なんだな、マジで全員がクラス1st以上に入ってるぜ。」
 ザックスの言葉を受けてリックがセフィロスを振りかえる。
「本当に正当な評価になったのですね。」
「ああ、何時までもあいつらが一般兵ではおかしいであろう?」
「それは…連中も喜びますよ。魔力さえあれば上級クラスも夢じゃない連中ばかりなんですから。」
「貴様もだぞ、リック。戦闘指揮を取ったことが無くともクラスAで6番目と言うのは流石特務隊影の隊長だと言われたな。」
「自分は隊長の真似でしかありません。6年も従い手法を見ているからこそできたことです。」
「お前は変な所へりくだる癖があるな。あくまで評価は正確だぞ。」
「隊長殿にほめていただける時が来るとは思っていませんでした。」
 少し照れたような…そしてなぜか複雑そうな顔でリックは答えた。