(女三人集まれば「姦しい(かしましい)」というのは、このことなのであろうな。)
ミッシェル、エアリスに囲まれてキッチンでわいわいやりながら料理を作っているクラウドの声をセフィロスはリビングでコーヒーを飲みながら聞いていた。なんと言うことはない世間話をしながらも、調味料を入れる量やタイミングをクラウドが伝えているが、どれだけ覚えているのであろうか?と、余計な詮索までしてしまう。それほどにぎやかである種騒がしいが、それがいやな雰囲気ではないことにセフィロスはびっくりしながらも、ほんの少しは騒ぎの原因である二人の女性に感謝していた。
「やだー!この包丁切れてなーい!」
「キャー!ミッシェル、私と一緒!」
「あーもう。切れてないじゃなくって使い方が悪いんだよ!貸してごらん。」
クラウドが包丁を握って何かを刻んでいる音がする、その隣で覗き込むようにしているミッシェルが驚いた。
「やだー!この包丁使う人を選ぶんだわ!」
「そこまで言う?!」
けらけら笑いながらもキッチンで料理をする声を聞ききながら、セフィロスは思わず苦笑していた。
「ミッシェル。それじゃあ、いっくらリックでも逃げ出すよ?」
「だ、誰があんな奴!わ、わたしだってザックス君みたいな人がいいわよ!」
「あー、知らないのね?ミッシェル。ザックスはほんの2年ぐらい前までは書類をためてクラウド君に怒られ、上官であるセフィロスにもお口の悪さでおこられて、パパだって「何であいつなんだ。」って何度も言っていたぐらいなんだけど。」
「そうだね、ホントザックスにはてこずらせてもらったけど、まさかエアリスに「がんばって」って言ってもらうだけでここまでがんばるとは思わなかったよ。」
まさか、ザックスがいきなり頭角を現した理由がそんなことだったと知らなかったセフィロスが、コーヒーカップを片手にキッチンに入ってきた。
「リビングで聞いているとまるで女三人の恋バナ…、という奴にしか聞こえなかったから口は出さなかったが、ザックスがこのところがんばっているのが女の一言がきっかけというのは聞き捨てならんな。」
「ひどいなぁ、セフィロスまで俺を女扱いするの?でも、ザックスのことは本当だよ。何をどういってもぜんぜん変わらなかったのに、エアリスに一言言ってもらっただけでコロッと態度を変えるんだ。俺だっていやになったよ。」
「私と会っていたときは、そんなにふざけた態度はなかったんだけど、ね。」
「いやだー、それだけ真面目にほれられていたっていう自慢よ、自慢。」
ミッシェルがクラウドに耳打ちするように話しかけるが、目の前の少年はけらけらと笑っていながらもきっちりと鍋の中身を気にしている。セフィロスがふと気づいたことを口走った。
「ミッシェル。いつもこういう話をしている時に言っていたあれはもう言わないのか?」
「え?あれ?何の事ですか?」
「年齢=彼氏いない暦がどうの…という奴だ。」
何気ない一言だったがミッシェルを真っ赤にさせるには抜群だった。そんな彼女の様子を見ながらクラウドがセフィロスの長い髪を一束つかんでそっと引っ張り背を伸ばして耳打ちする。
「彼氏というか…相思相愛だけど、いまだにお互い打ち明けていないという摩訶不思議な関係の人はいるんだよ。」
「その相手がリックか。あいつも変なところ真面目な奴だから、治安維持部が今のままなら、ずるずると今の関係を続けることになりそうだぞ。」
「たぶん…なんとなくだけど、それはお互いわかっているんじゃないかな?」
「ならいい。男を見る目だけは誉めてやれ、待つだけのことはあるはずだぞ。」
「珍しいよね、セフィが部下を誉めるって。ジョニーにしろリックにしろそれだけの男だってことなんだろうけど、俺は…ほめてくれたことあるの?」
「お前をほめたら身びいきになるからな、めったなことでは誉めないぞ。だが、それでも誉めてもらいたいなら黒革のコートを着て私の隣に立つのだな、その時は手放しで誉めてやる。」
相変わらずのOUT OF 眼中な二人に、エアリスとミッシェルが顔を見合わせてこそこそと話し合っていた。
「エアリスあなた、よくこの二人の部屋に一人でこられるわね。」
「うーん、いつもセフィロスは遅いから、めったにこういうことにはならないんだけど、ホント、いつまでもラブラブよ、ね。」
二人でいやみを言い合っていても、振り向いてもくれなくなったこの星一のバカップルに見切りをつけ、ミッシェルとエアリスはキッチンを片付けだした。そしてあらかた片付け終わるといまだにセフィロスに抱きつくように話しているクラウドの背中をぽんとたたいた。
「じゃあね、クラウド君、またね。」
「この間の撮影のやり直しは明日の17時からだから、事務所で待ってるわよ。明日はいつものように笑えるわよね?」
「え?!うわ!」
声をかけられていきなりクラウドが現実を思い出したようだ、真っ赤な顔をしてあわててセフィロスから離れようとするが、目の前の英雄はこの世界で一番いとしい少年を腕の中から離そうとはしなかった。
「なんだ、まだいたのか。」
「あー…はいはい。もう好きにして、帰るから。」
ミッシェルが振り向きもせずに手のひらをひらひらさせる、エアリスは一度ぺこりとお辞儀をしたあと、エレベーターへと続く扉を開け、外の世界へと足を勧めた。
一方、部屋に残されたクラウドは扉が閉まるのを見てから、自分を離さない男の胸を軽く両手で押しのけようとするが、英雄と呼ばれる彼はその程度ではびくとも動かない。
「ちょっと、セフィロス。二人とも行っちゃったじゃない!」
「当たり前であろう?ここは私とお前の部屋だ、あの二人がいつまでもいるわけにも行くまい。」
「そういう問題じゃなくって…もう、またあとでいじめられるじゃないか。」
「ではいじめ返してやれ、あの二人が付き合ってる男達の弱点はお前が一番よく知っているはずだぞ。」
「あのね…そういうのって、ちょっと違うんじゃない?俺、エアリスやミッシェルにセフィとのことでいじめられたからって、その意趣返しをザックスやリックにしないよ。ソルジャーとしての俺がしなければいけないことは二人を守ることだろう?実生活の事でいじめられるのは職場でもたまにあるけどさ、それとこれは切り離して考えないといけないじゃないか。」
「ほぉ…わかっているようで、わかっていないのだな。あの二人が今日来たのはソルジャーの仕事の事をモデルの表情に出していたからであろう?私はお前が心の底から笑うのを久しぶりに見たぞ。」
セフィロスの一言がクラウドの笑顔を一瞬で曇らせた。曇った表情のクラウドを見てセフィロスがつぶやく。
「そんなに…いやなのか?」
「気が重いっていうのかな?時期尚早だと、俺は思ってる。クラスSの黒革のコートはあこがれだし、それを着てセフィの隣にたつのもあこがれだけど、今の俺でいいのか?って思うんだ。」
クラウドが幼いころから村人に無視されることによって植えつけられていた疎外感が、ここにきて大きく影響を及ぼしていると、セフィロスは思っていた。親以外に誰にも認められることなく育ってきた少年に、自信を持たせることの困難さをセフィロスは苦々しいほどに痛感していた。
「お前を村八分にしていた連中を、今心から憎く思ったな。お前はもっと他人に認められ、自身を持っていいはずだ。それをさせてもらえなかったニブルの村をつぶしてやりたくなったぞ。」
目の前の男の力を知っているからこそ、クラウドはやすやすとそのイメージを浮かべることが出来た。炎で焼き尽くされている村に正宗を持って立つセフィロスというイメージは、くらくらするほどかっこいいが、実際は起こってほしくないことである。
「セフィなら出来るだろうけど…俺の故郷をそんなことする人なら、嫌いになるからね。」
「……それは、困るな。」
もう一度クラウドを抱きしめると、リビングにおいてあったコーヒーカップを持ってセフィロスが戻ってきた。その間にクラウドが準備の出来た食事をテーブルにセットすると、いつものように二人の食事が始まるのであった。
* * *
翌日、何とか営業スマイルを取り戻して写真撮影をグラッグの腕でごまかしてもらったが、相変わらずクラウドは笑えないままでいた。そこにティファから電話がかかってきたのであった。
「ねえ、クラウド。一週間ぐらい仕事休める?ニブルヘイムのシニア・ハイ・スクールで同窓会開くって手紙が着てたんだけど、クラウドもつれてくるように…だって。一緒にニブルに一度帰ろうよ、ね!」
「え?ニブルに帰るって…。俺、仕事で3度ばかり帰ってるんだけど。」
「それ、お仕事だから昔のクラスメイトに話すことできなかったでしょ?同期の連中、英雄の隣に立つあなたに話しかけたくても話せなくて悔しい思いしてたらしいわよ。」
「えー?いい加減だなぁ。昔は俺を村八分にしてたくせに。」
「あれは…うちのパパもだけど、みんなの親が悪いんじゃないのかな?クラウドのお父さん、神羅の人だって聞いてたもの。村を寂れさせたのはクラウドやあなたのお父さんが悪いんじゃないんだろうけど、目の前に関係者がいたら逆恨みもしたくなるかもね。」
「それで…俺がセフィロスの隣に立ってるとわかったとたんに手のひら返しだしたわけ?」
「そ、いつだったか忘れちゃったけど。TVのニュースであなたが白いコートで剣を振るってる姿が流れたことがあるのよ。その翌日のハイスクールの教室ったら、あれほど仲間はずれにしていたって言うのに「クラウド、かっこよかったよなー」なのよ、もう頭きちゃったわ。」
「あははははは!ありがとう、ティファ。君は昔から俺のこと友達だって思っててくれたもんなぁ。」
クラウドの屈託のない笑顔を見ながらティファは少し反省していた。実を言うと彼女もニブルに一度戻ってきた時のクラウドを見て惚れ直したからであった。しかしそれを少しも表情に出さないあたりは、武術家に精神からきたえられたからであろうか?いや、それはある意味鍛えられ方が間違っている気がするが、とにかくクラウドに不審に思われていないのはすごいとしか言いようがなかった。
それでも背中に冷や汗をかきながらティファはクラウドに決断を迫った。
「それで、どうするの?一緒に行ってくれるんだよね?」
決断を迫るというよりも、はっきりいって「おねだり」である。クラウドは苦笑いしながら答えた。
「仕事の都合とかもあるからすぐには答えられないけど、とりあえず何日のことか教えてくれる?上官や統括に掛け合わないと俺の仕事はなかなか長期休暇もらえないから、ね。」
「えっと…ああ、来月の3日よ。一ヶ月もあれば調整できるわよね?」
「まあ、やってみるよ。」
携帯をきりながらクラウドはどうやってセフィロスに許しをもらおうかと、悩み始めていたのであった。
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