神羅カンパニー本社ビル68Fにあるタークスの部屋に携帯電話のコール音が鳴り響いた。その携帯の持ち主であるツォンが表示された番号を見て首をかしげながらコール音に対応していた。
「なにかありましたか?クラウド君。」
電話の相手はよく見知った仕官であるが、彼はトラブルメーカーになりえる少年でもあった。いや、彼自身はその素直な感性と行動で周囲を巻き込んでいるのであるが、巻き込まれる周囲の面子が普通ではないので大事になってくることがよくあるだけであった。
「はい。実は自分の故郷であるニブルヘイムの同窓生から、カンパニーの自分宛に同窓会の知らせが到着していないかと思ってお電話したのですけど、ありますか?」
「君へくる手紙はいったん私の手元に来るようになってはいますが、そのようなものはまだないですよ。」
ツォンはごく普通の声音で答えているが、実際はすでに到着していて、どう対処すべきか思案していたところであった。しかしそれを悟らせるわけには行かない理由がある。彼のパートナーがこの少年一人をいくら短期間とはいえ故郷に帰すとは思えなかったのである。
この少年が自分自身に自信がないのは、ニブルヘイムの人たちがクラウドを村八分にして無視していたからであり、誰からもほめられたり、仲間として認められたり、頼られることなく育ったためだと聞いている。そんな村にあの方が愛しい少年を帰すわけがないと思っていたのであった。しかし、勘のいい少年はすでにそのことを悟っていた。
「ツォンさん、嘘はよくないよ。ミッドガルにいる幼馴染経由でニブルの差出人に聞いたよ。受け取り確認で差し出されて、すでに受け取られているのは確認取れているんだよ。」
「参りましたね。実はセフィロスへの対応をどうするべきか考えていたところです。彼があなたを一人で旅させるとも思えないのですよ。」
「それは大丈夫です。輸送部隊に聞いたところ、ちょうどそのころ近くのコスモキャニオンまで派遣される部隊があるそうなので、その部隊と一緒にいけば一人じゃありませんし、ランスロット統括も、部隊長のサー・ペレスも、サー・トールも許可を下さっています。」
「根回し済みですか。わかりました、ではセフィロスにもきちんと許可をもらってくださいね。彼は実質的なソルジャー部門のトップですから。」
「ありがとうございます、後でとりに行きますので、手紙を捨てないでくださいね。」
「いくら私でもそこまではやりませんよ。あなたを泣かせたら泣かせたとセフィロスに殺されかねませんから。」
「…セフィロスってそこまでやるかなぁ?」
「あの方が我を忘れるとしたら、君に関すること…違いますか?」
実際セフィロスはクラウドにちょっかいをかけてくる仲間から誰かがかばってくれるたびに、そのかばってくれた人に対して絶対零度の冷気を浴びせたり、剣を向けたりする。クラウドが入隊する前まではそのようなことは一切なかったのであるから、我を忘れるといわれても仕方がない。そんなことを思いながら、ふとクラウドは昨夜のセフィロスの言葉を思い出していた。
「ねぇ、ツォンさん。自分がクラスSにあがることを気が重いとか時期尚早だとセフィロスに言ったら、あの人『村八分にしていたニブルの連中を憎く思える、村をつぶしてやりたくなった』なんていうんだ。自分の故郷だからやめてくれと言ったけど…。」
「それこそ洒落にならないですよ。あの方なら本気でやりかねませんし、それが出来る力も持っています。たとえ君の故郷でもそこに行って君が悲しい思いをするのであれば、あの方なら一夜にして業火の元に滅ぼすこともいとわないでしょう。」
落ち着いた声で告げるツォンの言葉があまりにもすんなりと理解できて、クラウドは苦笑いしか浮かべられなかった。そんな少年兵に、タークスの主任は思い出したように話を切り替えた。
「まったくの別件ですが、クラウド君。君は三番街にある市民病院の医師でライザ・グレイスという女性を知っているよね?彼女とはクラウド・ストライフとして交流はあるのですか?」
「いえ、クラウディアとしての交流はありますが、一兵士の自分はちらりとしかお会いしていなかったはずです。それがなにか?」
「いえ、ティモシーからあと1,2年の短い間に君自身をかばえる立場の人を探してほしいといわれましてね。彼女なら精神科医でもあるし、政財界にも顔が利く名門の家のお嬢様なので知り合いなら…と思いまして。」
「そういえば、以前のインタビューでそのようなことを聞かされたことありますよ。でもそれはあくまでもクラウディアとして知り合ったので…しかも結局はジョニーを通していますから。ジョニーにとっては幼馴染で親の決めた許婚だったらしいけど…。」
「なるほど、グランディエ財団の御曹司ならある話ですね。わかりました、後はジョニーに聞きます。」
「あ、手紙!忘れないでくださいね!」
「ええ、午後にでも届けます。」
そういって電話をきったあと、タークスの主任は手元にあった一通の手紙を治安維持部に回すよう指示をした。
* * *
それから一時間ほどでクラスS執務室にニコニコ顔のクラウドが訪れた。統括で仲間であったランスロットや、同じ部隊長仲間であるペレスとトールからあらかじめ聞かされていたので、即のその笑顔の理由がわかったクラスSソルジャーたちであったが、笑顔の少年兵の見つめる先である盟主は眉間にしわを浮かべていた。
「呼んだ覚えはないぞ。」
「いえ、長期休暇の許可を頂に来ました。」
「長期休暇?まあ、おまえの休暇はたまっているから否定は出来ぬが、理由がないと許可は出来ないな。」
「里帰りです。故郷のニブルヘイムで同窓会を開くというので通知が来ていました。主催者の人からぜひ参加してほしいと要請があったのです。」
「お前、確かふるさとの連中に村はずれにされていたと聞いているが…それなのになぜ今頃?」
「隊長のおかげです。隊長の隣に立っているがゆえの要請だと理解していますよ。せいぜい威張ってきます。」
「お前なら一人で旅しても道中困ることもあるまい。まあ、困ってナンパされる程度であろうな。」
「え?統括と輸送部隊の隊長殿に許可もらって近くに派遣される一隊に同行させていただくことになっていますけど?」
「私事に軍を使うな。幸いニブルに行くなら今では近くに空港も出来たから以前と違って苦労はしないであろう?」
「隊長殿…。」
「そんな顔をするな、お前とて一人の男であろう?ミッドガルに来るのに一人で来たというのに、帰るのは一人では帰れぬというのか?」
ニブル山あった魔輝炉を封鎖して以来、作物が出来て豊かになったニブルヘイムは農作物の輸出が盛んになり、最近では空港も出来てミッドガルからの定期便も飛んでいるのであった。しかしクラウドはセフィロスが一人で帰らせてくれるとは思っていなかったので思わず信じられない顔をしていたのであった。
「い、いえ。それはありません。これでも軍人です。」
「ああ、そうだな。それもいつ大隊を率いてもおかしくない仕官だ。せいぜい自信をつけてくるのだな。」
セフィロスの言葉になぜ自分が一人旅を許可されたかやっと悟ったクラウドは思わず顔をしかめた。
「そんなに自分をクラスSに上げたいのですか?」
「当たり前であろう?そこらへんのクラスSより強い戦士をいつまでもクラスAに入れておきたくはないな。」
「自分が強くなれたのも隊長殿と、任務のおかげなのですけどね。」
「そうだな、そろそろ自覚しろ。究極とも呼ばれる召還獣を4体を従えている理由を、な。お前は私が軍にいなければ英雄と呼ばれたかもしれないぞ。」
「それはありえません。自分は隊長殿にあこがれて軍に入ったのです。隊長殿がいなければ、今ここにいません。」
普通に聞いている限り、なんて事のない会話なのであるが、二人の関係を知っているクラスSソルジャーたちには盛大なのろけあいにしか聞こえてこないのか、それぞれ渋い表情で自分の仕事に専念し始めた。しかしその場にいた下級ソルジャーたちは思わず感激したのか目をきらきらさせて二人の会話を聞き入っていたのであった。
英雄セフィロスが認めた戦士が目の前にいるのである。そんな人と肩を並べて戦ったり出来たことのある兵士が自慢しているのもうなずけるし、ソルジャーとして施術をうけていなくてもソルジャーと呼ばれるのもうなずけるのであった。
なにかの視線を感じたのか振り返ったクラウドが見たのは、心なしか頬を染めて自分を見つめる下級兵たちであった。
「え?何?いったいどうしたの?」
きょとんとするクラウドと対照的に固まっている下級兵達をみてセフィロスが苦笑した。
「どうせお前にあこがれている下級兵なのであろう。パーシヴァル、それほどおかしいか?この私が一兵士を認めるというのは?」
「前例がないのでなんともいえませんね。しかし一仕官が一兵士を認めるのはあってもよいと思っていますよ。もっともキングの場合、言葉では言わないまでも認めている兵はストライフ少尉以外にもいるようですけどね。」
「私が自分の率いている隊の連中を認めないで、誰が認めるというのだ?あいつらほど腕の立つ兵達はいないぞ。」
「それはご自身への自慢でもありますね、いかがですか?ストライフ少尉、このぐらい自信過剰になっていただきたいものですけどね。」
「え?本当のことじゃないですか。隊長殿でなければ自分たちはいないと、あの連中もいうと思いますよ。」
「まったく、これだから特務隊は…。」
「妬くな、パーシヴァル。お前も自分の隊の隊員たちにあこがれられるほどの隊長になってみるのだな。」
「無理ですよ、自分とてあなたにあこがれている兵の一人ですから。」
けろっとした顔でパーシヴァルが答えると、クラウドが苦笑しながらクラスS執務室を出て行こうとした時、扉を開けて統括のランスロットが入ってきた。
「ああ、クラウド君。伝え忘れたことがあります。君はセフィロスについで名が知れ渡っていて、すでにカンパニーを代表するほどのソルジャーになっています。ふるさとに帰られるのであればあまりカジュアルな格好ではなくスーツを着用願いますね。」
「え?スーツですか?カジュアルな服しか持っていないのですけど…。」
「ならばこれを期に2,3着作っておけ。来月から参加してもらうつもりのクラスSの正式な会議は黒のスーツ着用だから1着は黒にしておくのだな。」
「はい、これが第13独立小隊をあらわすネクタイです。」
ランスロットが持っていた細長い箱を受け取り、箱を開ける。中には細身のネクタイが一本はいっていた。銀鼠色にワンポイントで王冠をかぶった銀色の獅子が左手に剣を、右手に水色の盾を持っている刺繍が入っている。盾の中には古代文字で13と記されていた。その絵柄を見てクラウドが思わずつぶやいた。
「この紋章って…もしかして隊長殿をあらわしているのではないのでしょうか?」
「おや、勘がいいですね。そのとおりですよ。どこからみてもセフィロスそのものだと思いますけど、キングは否定するんですよ。」
「隊の紋章などランスに好きに作らせただけだ、私のあずかり知ることではない。」
統括とトップソルジャーらしからぬやり取りを目の前にして、クラウドは思わず苦笑をもらしていた。
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