あっというまにクラウドがニブルヘイムに里帰りする日が来た。もらったチケットで乗った小型旅客機がゆっくりと連絡ゲートへと接続し、シートベルト着用サインが消えると、機内にCA(キャビンアテンダント)の到着アナウンスが流れる。ほぼ同時に立ち上がると手荷物を取り出して出口へと歩いていった。
CAの笑顔に見送られながら、飛行機を後にして、空港へ受託手荷物を引き取りに行く。
やがて、大勢の客にまぎれこんでいたティファがあわてて追いかけてきた。
「クーラーウードー!いっくら同棲してる彼女がいるからってツメタイぞー!」
「ああ、ごめん、ごめん。俺がそんなことしたら彼氏に悪いと思ってさ。」
「彼氏って…ルードさんは彼氏じゃないわよ!」
「あれ?俺なにもルードさんとは言わなかったぜ。」
瞬時に真っ赤になるあたり、墓穴を掘っているとしか考えられない。クラウドは過去の自分を振り返りながらも、彼女の恋がうまくいくように願っていた。
空港から路線バスに乗り継いで、ニブルヘイムに入ると、村は以前の寂れた様子がまったくといっていいほど感じられなかった。豊かな自然とその自然に抱かれるような生活はさして変わってはいないようだが、風光明媚で牧歌的な印象が受けて今ではミッドガルから観光客も来るようになっていたのである。町の中心部には村の印象を悪くしない程度にホテルが増え、郊外には観光牧場や、特産品売り場ができていた。
「うわっ…これはすごいや。」
「よくこれだけ変わったものね。」
「でも…よかった。カンパニーが路線変更したことが間違っていない証拠だからね。」
「うん。それだけは感謝するわ。」
「それだけかよ…。まあ過去のことを思うと仕方ないか。」
そんなことを話しながら、隣り合った家に入っていくと、クラウドの母親は…家にはいなかった。
「あっれー?!おふくろ、どこにいるんだろう?」
すぐにティファが飛び込んできた、どうやら同じように父親が家にいなかったようである。
「クラウド!パパがいないの!って…あんたのママもなの?!」
「ああ、こういうときは昔からの宿屋とかレストランに行って情報を仕入れるというのがセオリーだ。行くかい?」
「ええ、正面のあの小奇麗になったホテルって…たしかドミトリーの宿屋よね?昔の面影があるわ。あそこならレストランもあるし、ドミトリーとも顔見知りだから、情報が聞けると思うわ。」
ティファが言ったとおり、そこはドミトリーの宿屋を牧歌的雰囲気を残しつつ改装したホテルであった。玄関を開けてレストランに入ると、中で見知った顔が何人も働いている。
「うわ!サーシャ!ミハイル!あなたたちここで働いていたの!?」
名前を呼ばれた二人が、振り向くと、一瞬驚いたような顔をした後、満面の笑みを浮かべる。」
「お?!ティファちゃんにクラウドじゃないか!そうか!同窓会に来てくれたんだね!」
「うわーティファちゃん綺麗になって!誰か恋人でもいるの?はっきりしないと村の男共の争奪戦が激しくなりそうだわ。」
「え…っと。あの、その…。」
「ああ、ティファには気は優しくて力持ちでカンパニーでもエリート・コースという彼氏がいるから騒ぐだけ無駄だよ。俺、その人からお目付け役頼まれてるんだ。」
思いっきり思い当たる人物を『悪くは無いわね。』と思い始めているティファは、クラウドの言葉に真っ赤になった。その表情を見てレストランに働く二人は苦笑いをしながら二人をテーブルへといざなった。
ミッドガルに出た出世頭とも言えるクラウドが店に現れたというので、ホテルのオーナーであるドミトリーがあわてて顔を出すと、少しシャープになった顔立ちは幼いままだったので、ほっとしながら近づいてきた。
「やぁ、おかえり。クラウドにティファちゃん。時差ぼけはないかな?今は昼の13時だよ。」
「ティファはともかく、ソルジャーの俺に時差ぼけを聞きますか?ドミトリーさん。ところで…母さんはどこにいるのかご存知ありませんか?」
「ああ、ナタリーさんね。今この村は猫の手も借りたいほど人手がほしいから、郊外にある観光牧場のみやげ物売り場で働いているよ。美人だから評判いいよー。ティファちゃんのお父さんは神羅屋敷を改築したホテルのホテルマンとして働いているよ。」
クラウドとティファは顔を見合わせてからそれぞれの親が働く場所へと移動した。
ニブルの町外れに観光牧場があり、その牧場の入り口ゲート代わりにみやげ物売り場はあった。覗き込むとそこにはまるでモデルの自分がいるとしか思えない感覚に陥った。それほどクラウドと彼の母はよく似ていたのであった。
はしばみ色のショートヘアーは手入れをされていないのか奔放に跳ね、大きな空色の瞳にばら色の頬、クラウディアが20歳ほど年を取ったらこうなるのではないか?と思えるような女性、それがクラウドの母親ナタリーであった。
「あら、クラウドおかえりなさい。」
その笑顔が、過去に撮影した自分のポスターとダブって見える。クラウドは思わずあきれたようにつぶやいていた。
「母さん…ニブルのクラウディアとか呼ばれてない?」
「いやだぁ!この子は!都会に行って口までうまくなってきたのかしら。悪い気はしないけどクラウディアさんに迷惑だわよ。」
クラウドがそのクラウディア本人であることを知っているからか、ナタリーはけらけらと笑い飛ばす。その笑顔につられてクラウドもふわりと微笑み片手を上げてその場を後にした。
「じゃあ、お仕事がんばってね。夕飯何か作っておこうか?」
「そうね、あんたのお得意料理でいいわ。」
「了解。」
そういって観光牧場をあとにすると、クラウドはニブルの町に戻っていった
* * *
ニブルの町が変わったように、同級生たちのクラウドに対する態度も豹変していた。
まるでアイドルが来たかのようにはしゃぐ旧友達は、昔自分を仲間はずれにしていたとはまったく思えない。クラウドが半ばあきれていると、いきなり街中にサイレンが鳴り響いた。
その意味をわからないままいつもの習慣で神羅屋敷を改築したホテルの会場から飛び出したクラウドは、スーツの襟の飾りサイズに縮めてある剣を元に戻して握り締め、街中まで駆け出していた。その後ろ姿を見たのであろうか?同窓会の会場になっていたホテルの支配人が飛び出してきた。
「な、なにがあったのですか??!」
「それはこちらのセリフです、先ほどのサイレンは何の知らせですか?」
「は?あ、ああ。あのサイレンなら正午を知らせるものです。あなたがあわてて飛び出して行ったから何が起こったか?とおもいましたよ。」
「自分は、神羅カンパニー治安部所属のクラスAソルジャーのクラウド・ストライフと申します。あなたは?」
「これは失礼いたしました。ニブルヘイム・シェフォード・ホテルの支配人をしておりますフリッツ・ホフマンと申します。」
「は?あ、ああ神羅屋敷を改築したのはシェフォード・ホテルだったのか。それにしても…あとで村長にサイレンはやめてくれと伝えておかねばいけないですね。ミッドガルから来る観光客が青い顔をするのではないですか?」
「ええ、こちらからもお願いしているのですが、村の外まで聞こえる音にしないと、田畑に出ている村民に聞こえないといわれまして…」
「せめて鐘の音か何かに変えてほしいものですね。ティファのお父さんに聞いておきます。」
そういうと持っていた剣を魔法で縮めて再び襟の裏に隠し、クラウドはホテルの支配人に先導されて会場へと戻るのであった。
一方、クラウドが駆け出していった理由がまったくわかっていない同級生たちはきょとんとした顔で戻ってきたアイドルを迎えたのであった。
「いったいどうしたんだよ?」
「急に飛び出していったから、何かあったんじゃないかって思っちゃったわ。」
「ごめん、ごめん。仕事柄サイレンが鳴ると事件が起こったと思っちゃうんだ。まさか昼を知らせるサイレンだなんて思わなかったよ。」
照れるクラウドにどこにいたのかティファがあきれたような顔で近寄ってきた。
「ほーんと、ソルジャーの性分丸出しね、この辺のモンスターは魔晄炉封鎖の時に一掃されたはずでしょ?こんなのどかな村にしてくれたのはどこの誰だったかなぁ…」
言われたことをクラウドが理解すると頬を赤らめて頭をかく。
「はい、この辺のモンスターを一掃したのは俺の一隊です。」
言葉と裏腹のかわいらしい姿に同級生たちがクラウドをつつく。しかしつつかれながらもしなければいけないことを思い出してティファに聞いた。
「ところでティファ、ロックハート氏は今でも村長なのかな?」
「今の村長はパパじゃないわ、エレーンのお父さんだったっけ?」
「ええ、もっとも村の議会といったって祭りをいつにするかとか…そんなことしか話し合わないんだけどね。」
「時報のサイレンも会議で決まったのかな?」
「そうみたい、私もこのホテルに勤めてて…ミッドガルからのお客さんが耳にするとびっくりするのを見てるから違う音にしてほしいって言ってるんだけどね、なかなか遠くまで音が届かないらしくって…」
「牧歌的雰囲気を押したいならサイレンよりも教会の鐘の音だとおもうんだけどなぁ…。」
クラウドの一言にエレーンがうなづくと、その場にいる同級生がみんな口々に同じことをつぶやき始めた。
「サイレンだと何かの警報みたいだもんなぁ…」
「どうせならベルの音で学校で使われていた『追い出しの曲』とか作って、時間を知らせればいいんだよ。」
「あら、それいいわね!」
再び同窓会が笑顔で始まった。
同窓会の中でクラウドは幾度と無く同級生に「部隊長にはいつ上がるんだ?」とか「部隊長になったらまた遠征に来てくれ。」とか、きらきらした瞳で聞かれ、苦笑を抑えられずにいた。
「まったく、さっきティファが言ってただろう?この辺のモンスターは討伐終了したし、魔晄炉も封鎖が終わってるんだ。もうソルジャーが来るようなことは無いと思うよ。」
「でもすごいよなぁ…クラウドは子供のころの夢をかなえたんだもんなぁ。」
「ずっと一人で山にこもって努力してたんだもん、かなってよかったね。」
「え?!」
同級生の言葉を聴いてクラウドはびっくりした。ずっと無視されていたとばかり思っていたのであるが、まさかそれを見守ってくれていたとは思わなかったのである。
「俺、ずっと村八分にされていたと思っていた。」
「そう思われても仕方ないかな?クラウド、すごく真剣だったし、俺たちが近寄っても迷惑にしかならないと思ってたし…。」
「ニブル山のモンスターをクラウドは一人ナイフで倒していたんだもん、俺たちじゃ太刀打ちできないし、足手まといにしかならないよ。」
「ともかく、お前の努力はすごかったんだよ。いまではきっちり認められて英雄セフィロスの副官なんだろう?なんだか俺たちまで鼻が高くってさ…。」
同級生の言葉を聴きながらクラウドは思わずぼろぼろと泣き始めたのであった。
「ごめっ…。俺…俺。そんなこと知らずに仲間はずれにされたと思ってみんなの事、恨んでた。」
ぼろぼろ泣き始めたクラウドをどうしたらいいのかわからず、同級生たちが音を上げたところに、ティファをはじめとする女子が何があったのかと思いあわてて駆け寄ってくる。
「ちょっと!誰よ!クラウドをいじめたのは!」
「あんたたち!いっくらクラウドがうらやましいからって、いじめることは無いでしょ!?」
女の子たちの言葉にクラウドは涙を拭きながらにっこりと笑った。
「いじめられてなんかないよ。俺って幸せだなって思っただけだよ。」
同級生たちに囲まれて笑っているクラウドを見てティファはニブルヘイムに里帰りできてよかったと思うのであった。
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