何も決め手が無いまま、ウータイへの出兵の返答期限が近付いてきた。
「ん〜、どうすべぇなぁ…。ヒントも何もなければ、戦略も方針も立てられないぜ。クラウド、何かいい考えがあったら教えてくれ。」
 ザックスが珍しく音を上げたが、クラウドでも今回ばかりは何も考えられない。
「ねぇ、リック。いきあたりばったり…という手はだめかなぁ?」
「ダメといいたいが、俺にもそれしかないような気がしてきた。」
「とりあえずセフィロスのところに行って、知恵貸してもらうか。」
「おー、ザックスにしてはめっちゃまともな判断だ。」
 リックに揶揄されながらも、ザックスがクラスSに赴き、セフィロスに方針の打診をしたが、戦神といわれる男でも、情報が無さ過ぎて方針が立てられなかったようだ。
「さすがに今回ばかりは、行き当たりばったりでいくしかないだろうな。」
「はぁ…。ではクラスAから魔力と戦略の強い人員を選考し、4人ほど連れて行きたいと思います。」
「理由は?」
「魔力の補充と、知恵の補充です。できるだけ機転の利く人員を考えたいとおもいますが…エドワード、ブライアン、キース、パーシーあたりでしょうか?」
「そいつらなら合格だ。」
 ザックスが敬礼してクラスS執務室を出て行くのを、クラウドが目を丸くして背中を見送ってから、セフィロスに振り返った。
「隊長殿、自分はザックスが隊長殿に対して敬語を使っているのをはじめて聞きました。」
「安心しろ、私もはじめて聞いた。」
 あきれたようなセフィロスの言葉に、その場にいたクラスSが思わず噴き出した。
「キ、キング。それはあまりにもザックスがかわいそうですよ。」
「あれでも一生懸命にキングとクラウドの信を得ようとしているんです。少しはよい目で見てあげてください。」
「そうしてやりたいのだがな、何分慣れないのだよ…あいつは特務隊入隊直後から私に対してため口だったからな。」
「この執務室だけのことだと思います。先ほどクラスA執務室にいる時は、隊長殿のことは名前を呼び捨てにしていましたから。」
「ふん、そうか。」
 冷たい言葉とは裏腹に、セフィロスの口元は緩やかにカーブしているのを目ざとく見つけたパーシヴァルが、クスリと笑いながら追い討ちをかけるようなことを言った。
「では私たちがあなたの事をセフィロスと呼ぶのはいいのですか?」
「貴様らがクラウドの呼ぶ愛称で呼ばない限りは普通に答えてやる。」
 執務室を出ようとしていたのか、振り返ったセフィロスから出た言葉は、パーシヴァルにとって返り討ちであったのか、彼の手から大量の書類が雪崩落ちたのであった。書類の雪崩落ちる音を何事も無いかのように無視して、セフィロスがクラスS執務室を出て行ったのを見送ると、クラウドがため息混じりにつぶやいた。
「サー・パーシヴァル。同じクラスSなのに隊長だけ呼称で呼ばれているようでは、いつまでたっても親友にはなれないと思われます。」
「いや、まあ…そうなんだろうが…。やはり私にとってもあの方は憧れのソルジャーなのですから…。名前を呼ぶだけでも手の震えが止まらなくなります。それはクラウドだとて同じではないですか?いつになったら我らを呼び捨てにしてくれるのですか?」
「自分はまだクラスS見習いのクラスAです。上官に対して失礼があってはいけません。」
「同じクラスS扱いなのに…ですか?寂しいな。」
「私など、かなり無理して呼び捨てにしているのですが、未だにリー隊長殿ですからね、本当に寂しいですよ。」
「何も無理されなくても…。」
「それに関してはキングの命令でね。貴様達が呼称で呼ぶ限りクラウドはいつまでたっても自分の身分を理解しないぞ、と脅されました。」
「ではそれをエドワードやブライアン、ザックスにもお願いいたします。そうでないと自分だけ特別扱いされていると思ってしまいます。」
 思い当たることが無いパーシヴァルが首を傾げてクラウドの言葉に答えた。
「は?残念だがその件に関しては既に呼び捨てにしているので問題外だな。」
 パーシヴァルの言葉にうなずくように他のクラスSが言葉を継いだ。
「なぜか君にだけ呼称と敬語を使ってしまいたくなる。それを特別視しているといわれると、うなずくしかないのだろうな。」
 思い出してみると、確かにクラスSソルジャーたちは自分の副官だけではなく、ほぼすべての治安部隊員を呼び捨てにしていた。自分が特別扱いされている理由のひとつであろうことに気がついているクラウドはため息をつく。
「自分は隊長殿の付属品ではありません。」
 そういうと、セフィロスのあとを追いかけるように、クラウドも執務室を出て行った。


* * *



 セフィロスが特務隊の執務室に入ると、ザックスとリックがジョニーと話し合っていた。
「ウータイの観光は景観観光が一番大きいらしい。景観を守るためこっちでよく見るコンクリートのホテルは建築禁止で、建てるなら木造の建築方式でこぶりなものを立てないといけないらしい。」
「だから天下のシェフォードでもホテルを構えていないのか。」
「天下の…ってところは余計だが、まあ、そういうわけだろうな。」
「なぁ、セフィロス。もう一つの目的のウータイの魔晄泉ってのはどこにあるんだ?」
「ふっ…。先ほどのクラスSでの態度とは大違いだな、安心した。おそらくそこがポイントになるだろうな。ウータイの魔晄泉はダチャオ像というあそこの一番の観光資源の根元にあったはずだ。」
「じゃあ、荒らされたくは無いだろうな。どうやって封印するのかを説明しないと封印もさせてもらえないんじゃないのか?」
 クラスSで見せた態度とは違うが、ザックスなりに真面目に考えている姿に、セフィロスは苦笑した。
「まったく、ザックスが真面目に隊を率いている姿をこの目で見ることになるとは思わなかったな。」
「昔の俺だったら、ここで「褒められた」とかいって喜ぶんだろうけど、残念だがそういう訳にはいかないんだな。ココは正攻法でいくか…。ちょっとツォンのところに行ってくるわ。」
「どこに行く気だ?あいつを呼べば良いだろう?任務にかかわることなら、いくらタークスの主任とはいえ、拒否することは出来ない。」
 そういってセフィロスが携帯を取り出してツォンを直接呼び出したのであった。
 しばらくしてやってきたツォンを挟んで、ザックスとセフィロスが何か言い合っているのをクラウドは少し寂しげな顔で見ていた。

 ウータイへの派遣の内容の一部には、ダチャオ像の下にあるという魔晄泉を封印する目的もあると聞いて、さすがのツォンも蒼い顔をした。
「ダチャオ像というのはウータイの聖なる像です。あの地域に住んでいるものなら神とあがめる神聖な物をあらされると聞けば、ウータイは反旗を翻すことでしょう。」
「しかしだな、それをやらねばいつまでたっても魔晄泉に動物が触れてモンスター化する恐れがあるのだよ。」
「その情報が定かではないので、未だに信じられていない部分があります。」
「さすがに野生の動物を捕らえてわざと魔晄泉につけるわけにもいかぬ。どうすれば信じるか、まずはそこからだな。」
「固定カメラでも設置してみますか?」
「派遣はウータイからの要請だ、時間がない。そんなに悠長に待てるか。」
「ちょっと待てよ、セフィロス。ウータイから神羅軍の派遣を依頼って…、わざわざ敵を呼び込む理由がわからねぇよ。」
 ザックスの言うとおりである。敵対している神羅のソルジャーをわざわざ呼び出して、何をさせようというのか?クラウドは思わずそれを訪ねた。
「隊長殿、ウータイがソルジャーを呼んだ理由は何か書かれているのですか?」
「ああ、一応ウータイ郊外の新型モンスターの退治だそうだが…。胡散臭いことこの上ないな。」
 そういいながら口元が緩くカーブしている。そんなセフィロスを見てクラウドは思わずつぶやいた。
「隊長殿、なぜか楽しそうにしていらっしゃるようですが?」
「クククク…、実際楽しいよ。ザックス、この一件はお前では手に余るだろう。クラウド、お前が指揮しろ。」
 何か言いたげな顔をザックスがしているが、セフィロスに何か考えでもあるのであろうと思い、ぐっと我慢しているようだ。
そんな彼を見て軽くうなずくと、クラウドはツォンにさらに訪ねた。
「ツォンさん、ウータイに新種のモンスターという情報は本当なのでしょうか?」
「いえ、そのような情報は今初めて聞きました。」
「隊長補佐殿、ランディの部下はそんなこと言っていませんでした。」
 リックの言葉に思わずクラウドがムッとするが、言い返そうとしたところをセフィロスが止めた。
「何も間違ってはいないぞ。大体リックはああいうやつだ。」
「ザックスが自分を呼ぶときは官位なしじゃないと返事しないからな。」
「どーしよっかなー。」
 いつものようにザックスがふざけるので、少し安心するが、いまだにウータイのことが何もわかっていないのでクラウドは不安げな顔をしている。そんなクラウドを横目で見て、セフィロスはにやりと笑った。
「クラウド、おまえは4つの召喚マテリアを見せびらかすようにつけておくのだな。どう考えてもそれが目当てとしか思えぬ。ならば、こっちもそのつもりで誘い込めば、お前ならゴドーに出し抜かれることもなかろう。」
「了解しました。では、特別にクラスAを引き抜かなくてもよさそうでしょうか?」
「そう思うか?」
「いえ、未確認のモンスターと対峙するには、特務隊だけでは体裁が整いません。やはりある程度の魔力の強化と、後方支援が必要かと…。」
「派遣部隊の選別はお前に任せる。ザックス、クラウドに書類の書き方を教わっておけ。」
「了解。」
 ザックスが軽く敬礼をして、その場は終わった。


 クラウドが選んだ補助部隊は通常の任務とそう変わらない部隊だった。魔法部隊の小隊をブライアンに率いてもらい、運送や後方支援をユージンの小隊に頼み、側方支援をエドワードの小隊に依頼した。部隊長の許可をもらいに行く際、各師団長が数が少なすぎると反対したが、ウータイ側の目的が新種のモンスターの盗伐に来るソルジャーの持っているレアマテリアの可能性が高いと知ると、渋々了承した。
「いくらなんでも、こんなに兵士がいるのかなぁ?」
 クラウドが首をかしげるが、ザックスはケラケラと笑っていた。
「名目は「新種のモンスターを討伐する」だろ?最低でもそのぐらいそろえないと、それらしく見えないんじゃないか?」
「なんだか、無駄足になりそうで怖いんだよな。」
 心配げな顔をするクラウドの頭をわしゃわしゃとなでて、ザックスが豪快に笑い飛ばした。
「安心しろ、付いてくるクラスAの連中に話したら『楽させてもらうよ。』って言ってたぜ。」
 ザックスの言葉にクラウドがびっくりした。
「え?話しちゃったの?ダメだよ、一応正式な任務だから、気の抜けた状態ではだめなんだから。」
「俺が話したのはブライアンとユージンとエディだけだ。連中も同じこと言ってたからそこは大丈夫だろうな。」
 にっかりと笑うザックスに一瞬気が抜けた気がするが、すぐに思い直して彼の手元にある書類を確認する。書類には記入ミスも漏れもなく、いかにこの男が本気でクラスSを狙っているのかがわかる。
「ほーんと、俺のやることなくなっちゃうじゃない。」
「えへへへ…。最高の誉め言葉だぜ。」
 いい笑顔でサムズアップを決めたザックスに、なぜかうらやましいと思ったクラウドだった。