同行するクラスAソルジャー達と予定をすり合わせ、ウータイ派遣が正式に来週からと決まった。
 クラウディアの仕事の調整をマネージャーのティモシーに頼むと、しぶしぶといった感じで了承してくれたので、安心していたら、週末にポスター撮影が大量に飛び込んできた。
 相変わらずフリルとリボンと花に囲まれた撮影は、いい加減慣れたとはいえ、それでも抵抗はある。しかしこれも一つの仕事と割り切らないとやっていけないので、しぶしぶピンクのワンピースにそでを通す。
「ねえ、ティモシー。そろそろフリルのワンピースよりもカチッとしたスーツで、と言う依頼はないの?」
「NO,NEVER。君への依頼は99.99%ふわりとしたドレスなんだ。まだ17歳だし、スーツの依頼は一つもないね。デビッドさん、うちのお姫様があんなこと言ってますけど、デザイナーとしてのお考えはどうですか?」
 撮影に立ち会っていた専属デザイナーの一人であるデビッドがいきなり話を向けられてびっくりするが、にっこりと笑って答えた。
「うーん、どうしてもクラウディアのイメージだとふんわりとしたドレスを着せたくなるのですが、スーツねぇ。次のバザー向けに何か考えておきましょうか?」
 デビッドの答えに満足げな顔でうなずくティモシーの横で、ミッシェルがくすくすと笑っている。

(ああ、この感じ。ちょっと嫌な感じがするけど、なんだかほっとするんだよな。慣れちゃったのかな?)

 すねたような視線を送ると、ため息とともに撮影ポイントに立つ。
「今日はその顔で撮影しようか?すねた顔もかわいいと思うよ。」
 グラッグがカメラをのぞき込みながらそういうと、クラウドは思わず舌を出す。
「イーだ!思うとおりになんてしてあげないんだから。」
 その瞬間シャッター音がする。音に気が付いてクラウドがびっくりして目を丸くするとまた再びシャッター音がする。
「最近、趣味悪いよ、グラッグ。」
「君の場合、笑顔よりもそういう顔の方が生き生きしてるんだよね。表情豊かでいいと思うよ。」
 笑顔で話すグラッグのそばにデビッドが歩いていき、先ほど取った写真を見せてもらう。
「これはいい。こんなかわいらしい顔なら、笑顔じゃなくてもいいと思ってしまうじゃないですか。」
「ティモシー、今年も写真集の素材はたくさんたまりそうだよ。」
「うん、頼もしいカメラマンだ。」
 スケジュールの入ったタブレットを取り出して、次の予定を確認しながら、ティモシーがクラウドに尋ねる。
「また、夏に長期出張なんて言わないでくださいね。今年こそお誕生会を開きたいのですから。」
「残念でした、今年もまた7月から二か月ぐらいの予定で北の大空洞に遠征の予定です。」
「また今年もですか?はぁ、今年も言い訳を考えないといけないのか…。」
 苦虫を噛み潰したような顔をするティモシーに、ふとクラウドが暗い顔で呟いた。
「北の大洞窟は深い上に場所が場所だから、封印に時間かかるけど、あとはウータイぐらいしか魔晄泉が残っていないんだ。俺がカンパニーにいられるのも、あと数年だよ。そのあと、どうすればいいのかまだ全然考えられないや…。」
 うつむきがちの少し寂しそうな顔は思わず抱きしめたくなる。その瞬間すらグラッグがカメラで切り取っているのかシャッター音が聞こえる。そのシャッター音を無視するかのようにティモシーが話しかけた。
「そちらの件でしたら、カンパニーのツォンさんも動き始めていますが、三番街の市民病院のDrライザ。彼女と真の意味のお友達になると心強い味方になってくれると思いますよ。」
「え?ライザさん?前にも聞いたことあるけど、どうしてあの人の名前が出てくるのかなぁ?」
 ライザが市民病院の医者で精神科医であることぐらいしか知らないクラウドが首をかしげるが、全く思い浮かばない。しかし法律の専門家であり、知人に弁護士や裁判官が多いティモシーにとっては、かなり有名な女性だったらしい。すらすらと説明し始めた。
「君の部下のジョニー・グランディエ君。彼の親が決めた許嫁だったというのは知ってるよね?」
「ええ、それはジョニーに聞いたことあります。」
「彼の親が決めた許嫁になる程の家柄なんですよ、彼女。君は知らないだろうけど、政治家、経済界、医療界で知らない者はいないほどの家柄のお嬢様なんだよ。」
「ツォンさんにも言われたけど、ライザさんってそんな人に見えないんだけどなぁ。」
「まあ、そうだろうね。しかし知っている僕としては、彼女と結婚するという男性の度胸の良さをほめたい気分だよ。」
 ジョニーが一度でいいから勝ちたいと言っているその男性は、どこからどう見てもごく普通のサラリーマンだが、洞察力が鋭く、かなりの頭脳派らしいが、運動神経もいいらしく、あのジョニーが一度もスポーツで勝ったことがないと言っていたのを聞いている。
「度胸はかなりのものですよ。彼はサウスキャニオンの宝石商の長男で、ミッドガル銀行のトレーダーですよ。」
「ジャック・グランディエ氏を介して、近い将来そのお二人には事実を打ち明ける予定ですので、そのつもりでいてくださいね。」
 クラウドはその二人ならなぜか事実を打ち明けてもいい気がしていた。もっともその理由の一端には昔ミッションでだましてしまったその男性の両親に対しての引け目もあったのかもしれない。
「セフィとジョニーにも確認しておくけど、それは構わないと思う。ライザさんは…なんとなくだけど、わかってるような気がするんだ。あの二人、いつも探るような感じなんだもん。」
 クラウドの呟くような言葉に、ティモシーが何とも言えない顔をした。

 翌日、クラウドはカンパニーに出勤すると、ティモシーに言われたことをジョニーに確認を取る。
「ジョニー、ちょっと聞きたいんだけど。」
「あん?何ですか?」
「三番街の市民病院のお医者様でライザさんって人、知ってるよね?ティモシーが、近い将来に味方につけたい人なんだって。」
「ライザか、確かにあいつを味方につければ怖いものないぜ。その代わり全部話す必要はあると思うぞ。」
「ジョニーがそういうなら本当なんだね。俺には普通のお医者さんにしか思えなくてさ…。」
クラウドの言葉にジョニーが思わず優しい瞳になる。
「できればライザに対してずっとその気持ちを持っててやってくれ。その方があいつが喜ぶからな。それと、俺か親爺を同席させることだな。あいつらのことだ、薄々感づいているとは思うが一応正式なルートで接点を持った方がいい。」
 その言葉は、まるで彼自身が体験したかのように思えて仕方がなかった。
「ジョニーのお家ってそんなにすごい家なの?」
「ん?俺がカンパニーの治安部に入った最大の理由は、家出だぜ。」
 いつものように軽い調子で答えたジョニーの顔に陰りはない。しかし、同じクラスA仲間のゴードンが、ジョニーのことを知ってしまった後、対応に困るような顔をしていたのをクラウドは知っていた。
「俺には、そっちの知識がないから、ジョニーだって凄い家の出身だって思っていないんだよね。」
「姫がそういう気持ちの持ち主だから、俺もライザも姫のことを親身になれるんだぜ。」
 ジョニーが少し悲しげな笑みを浮かべて、手のひらをクラウドの頭の上にポンと軽く置いた。
「ま、俺もあとどのぐらいカンパニーにいられるやら…なんだけどな。」
 ジョニーの言葉を聞いたクラウドの顔が曇る。
「ジョニーは、おうちに帰りたくないんだよね?」
「ん〜、それがだな。不思議なことに、家に帰る事が嫌って訳じゃないみたいなんだ。」
「え?じゃあ、何が嫌で家出したんだよ。」
「やっぱライザが原因になるのかなぁ。俺の親父とライザの親父さんが昔馴染みでそれで許嫁になっていたんだけど、気が強くってさ。いくら美人でも、彼女を恋人にしようなんて学生時代全く思わなかったんだ。それでもああいう家だろ?パーティーとか出席するときには、ほぼライザを連れて行かないといけない訳。すると、どうなると思う?」
 急に問いかけられてクラウドが戸惑いながら答えた。
「う〜ん、やっぱり定番の「ご結婚のご予定は?」ってやつ?」
「まあ、似たようなもんだな。正式婚約しろと、周りから固められかけたんだ。大学卒業するまでは…って逃げまくったんだけど、時間は待ってはくれないんだよな。」
「あれ?でもライザさんは大学時代からサトルさんと付き合ってたって…。」
「ん?ああ、ライザはライザで両親相手にサトルを恋人として紹介したりと、俺との結婚を解消するために動いていたらしいんだ。あいつは正面から問題に向き合って、俺は逃げた…そういうことさ。それも悔しいことだけどさ、やっぱサトルに負かされっぱなしってのも悔しくて、自分を叩き直すためにもカンパニーの治安部に飛び込んだってことさ。」
「なんか、わかる気がする。ジョニーって案外負けず嫌いだもんね。」
「姫には負けるな。」
 先ほどまでの悲しげな顔が、いつものジョニーの顔に戻ったので、クラウドは少し安心した。そんなクラウドの刎ね髪をぽふっと抑えて、ジョニーが執務室を後にした。

 クラスS執務室に戻ったクラウドを待っていたのは、セフィロスやクラスSソルジャーたちではなく、ザックスだった。
「おっせーぞ。クラウド。」
「どうしたのザックス、呼んだ覚えはないんだけどなぁ。」
 キョトンとした顔で首をかしげる姿は、いまだにかわいらしいとしか言えない。クラスSソルジャーたちがほんわかとしていると、瞬時に氷の刃が飛び交う。
 思わずザックスが首をすくめた。
「報告書提出するのも命懸けだなぁ。」
「ああ、ご苦労様。最近書きなれたのか提出が早くなったね。」
「書式が決まってるから、慣れれば簡単なものだな。なぁ、クラウド。これってあらかじめパソコンで書式入れておけば、後は毎日の業務報告をコピペするだけで行けるんじゃないか?ならばサーバーに業務報告あげて、あとは必要なところを取り出すってシステムがあったろ?あれで書類提出の代わりにならねぇもんか?」
 前の統括だったガハハことハイデッカーがオールドタイプの人間で、決済にしろ、報告にしろ紙での提出でないと対応できなかったためずっと所定の用紙での提出になっていたが言われてみればそのとおりである。
「ザックス、すごぉい…。書類嫌いだったのに、いつの間にそんなこと考えていたの?」
「いやぁ、そう褒めるなよ。どうやったら書かずに済むかっての考えてたらこうなったんだ。」
 あまりにもザックスらしい答えにクラウドが思わず吹き出しそうになるが、思わぬところから反応が来た。
 知らぬ顔をしながらも、様子をちらちらとのぞき見していたセフィロスであった。
「ふむ、確かにそうだな。そうなれば私の所にこのように報告書が来なくなるという訳か。パーシヴァル、ガーレス。お前たちはどう思う?」
 セフィロスがその場にいたクラスSの盟友に声をかけると、同じような思いをしてきたからか、即座に同意の答えが返ってきた。
「協議する価値はあると思います、おそらくランスロットも即同意すると思われます。」
「ならば、会議に乗せる必要があるな。それと、ザックス。この件はお前が言い出したことだから、お前がクラスSの会議を仕切るんだぞ。」
 セフィロスの一言に、いつもなら顔を青くさせて拒否をしていたザックスが、思わぬ言葉を返した。
「クラスSの皆さんがそれを許可してくれるなら、逃げずにやりますよ。」
 ザックスの返事に、その場にいたクラスSがびっくりして驚く中、セフィロスが即反応した。
「よかろう、ウータイから戻ったらクラスS会議だ。首を洗って待っているんだな。」
「ちょ!セフィロス!それ、移動があるかもってことじゃないっすか!俺、あんたが辞めるまで特務隊から動く気ないっすからね!」
 先ほどまでの姿勢はどこへやら、一気にいつもの調子に戻ったザックスに、なぜか少し安心したクラウドだった。