30人ほどの隊員達の前に黒のロングを着た男と白のロングを着た男が悠然と姿を現わした。全員を見渡す位置に立ち止まると凛とした姿勢で、金髪碧眼の男が言葉を発した。
「ただいまよりウータイに向けて出発する。ミッションコード231996、ランクEもしくはS開始!」
クラウドの言葉と共に30人からの男たちは輸送機へと乗り込んだ。
飛空挺が滑走路をテイクオフして行くのを敬礼して見送った後、治安部統括ランスロット・ムレイクとクラスSソルジャーのパーシヴァル・クラインは、顔を見合わせてため息をついていた。
隣りに立って居たガーレスに思わず笑われる。
「ランス、パーシヴァル。何だ?!そのため息は。」
「お前達はいいな…。結局、私はセフィロスと一度も戦場を共にすることはできないようだ。」
ランスロットの言葉に一度は一緒に戦場に立てたパーシヴァルが答えた。
「一度共にするとまた次も…と、思ってしまうぞ。」
「どっちもどっちだな。」
いまだにため息交じりでつぶやくように声を出すランスロットの隣で、ふと気が付いたようにトリスタンが訪ねた。
「そういえばキングと姫は、レアマテリアを持って行かれたのか?」
「いや、姫にいわせると召喚マテリア4つだけで十分だそうだ。」
「しかし…。ゴドーも何を考えて我らを呼んだのか。」
見送りに並んでいたガーレスが思わずつぶやいたものに、ランスロットが答えた。
「それがわからないうちは動く事もできない、か。また、しばらく胃が痛くなりそうだ。」
「ランス。貴様お二人がいればいたで胃が痛くなる。いなければ心配で胃が痛くなるのか?」
「どうもそのようだな」
「胃に穴があかない事を祈ってるよ」
「大丈夫だ、私はまだソルジャーなのだから、な。」
ランスロットの視線の先には、先ほど離陸した飛空挺が、鮮やかな航跡を残して空のかなたへと消えて行った。
その飛空挺の中には第13独立小隊と、同行している部隊のクラスAソルジャーがカーゴの中に座り込んでいた
ぐるりと周りを見渡すと、クラウドがミッションの裏に隠されているであろうウータイ側の目論見について、話し始めた。
「今回のウータイ側の真の目的は、どうやら俺たちが持っているレア・マテリアではないかと思ってるんだ、みんなは何を持ってるの?」
小首をかしげて尋ねる姿はどこからどう見ても歴戦のソルジャーには見えない。特務隊に派遣されているパーシーが思わず頭を抱える。
「なぁ、エディ、リック。特務隊のブリーフィングっていつもこんな感じなのか?」
「ああ、いつもこれだよ。隊長たちがクラスSらしくあれと教えていらっしゃるんだけどな。」
深いため息をつきながら、エドワードが言葉を吐き出すと、リックが苦笑いをする。
「姫はクラスS見習いだから、本来ならば命令口調じゃないとだめなんだろうが、逆にこれでやらせろと言われては…仕方がないだろ。」
いわれていることはわかっているつもりである、しかし年齢も経験も足りていないクラウドにとって、慣れろと言われてもなかなか慣れないものであった。
「なぁ、クラウド。難しい事かもしれないけどさ、少しづつでもやっていかないと、逃げてばかりいては先に進めないぜ。」
ある意味ザックスにしか言えない言葉であった。
的を射た言葉にクラウドがはっとしてから思わずうつむいた。
「ザックスに、言われたら…やるしかないじゃないか。」
苦虫をかみつぶしたような顔をしてから、深く息を吸ったクラウドがもう一度話し始めた。
「先ほども言ったように、敵の目的はわれらが持っているレアマテリアと思われる。諸君の持っているマテリアを教えてほしい。」
「お、やればでき…げほぁ!」
ザックスがつぶやいた瞬間にリックの肘がわき腹に突き刺さった。
「お前は一言多い!」
それまで黙って聞いていたセフィロスが、おもむろに加わった。
「クラウド。こいつらは召喚マテリアを使いこなしてはいるが、マテリアの言葉を聞いたことはないであろう。ブライアン、確かリヴァイアサンを前回の配布でもらったはずだが、その時どうしてそのマテリアを選んだのか話してやれ。」
「アイ・サー!マテリアボックスの中にあるマテリアの中で、それだけ光って見えたので手に取るとリヴァイアサンだとわかり、召喚したまでです。」
「え?それだけなの?!じゃあザックスは?ザックスはバハムートさんと何か話してたような感じだったけど?」
「自分はマテリアの色や持った時の感覚で、なんとなくわかるっていうだけで、バハムートの声を聴いたことはありません。」
クラウドがザックスからセフィロスに視線を切り替える。
「隊長、召喚獣の声というのはそれほど聴くのが難しいのですか?」
「そうだな、難しいのであろうな。クラスSでも半分ぐらいは聞くことができないであろうな。」
「ならば、みんなのマテリアはなるべく表に出さないようにして、自分のマテリアで誘い出すしかありませんね。」
クラウドの言葉に魔法部隊の副隊長であるブライアンがうなずいた。
「姫にしかできないことになるかもしれないからと、あらかじめ統括に黒のロング一枚持たされてきた。姫にはこれを着てもらう。俺たち白ロング組が下にも置かない扱いして、姫はその剣に4つの召喚マテリアをはめて、見せびらかすようにとのことだった。なんならザックスに剣もたせて露払いさせるか?」
「ちょっと待ったブライアン。なぜそんなことをしないといけないんだ?普通に持ってるだけじゃダメなのか?」
「理由1、俺たちよりも小柄な姫が上級士官であることをウータイの連中に示すため。理由2、取り換えられたマテリアの中に召喚マテリアはなかったはず。と、なると知らない色のマテリアを持っている士官であることを見せびらかす必要があるため。理由3、知らないマテリアを盗めそうである状況を作るため。」
ブライアンの返答にクラウドが思わずふくれっ面になる。
「ぐうの音も出ないぐらいの正論だ、が。なんだか裏で隊長が手をまわしてる気がして仕方ないな。」
あまりにもうまくできている話であるため、クラウドが疑ってかかっているのである。その言葉を認めるかの如くセフィロスがにやりと笑った。
「ほぉ、そこまで見抜けるようになったか。その通りだ。おとなしく黒のロング着てこいつらにかしづかれるのだな。」
思いっきりにらみつける顔もかわいいと思いつつも、そんな様子をおくびにも出さず、セフィロスは片足を立てて仮眠をとる体制に入っていた。
「お前らもそろそろ仮眠をとる順番を決めるのだな、そういえばそろそろ気流の荒いところに入るのではないかな?」
セフィロスが言い終わると、ほぼ同時に機内にアナウンスが流れた。
「コックピットより通達。気流の荒いところを航行します。」
アナウンスと同時に機体がぐらりと大きく揺れると、クラウドが瞬時に青い顔をする。
「う、うぐっ!」
「ありゃりゃ、お前まだ乗り物酔い治りきってなかったんかよ。」
「うるさい!う、うげっ!」
からかうザックスに突っかかるクラウドという、いつもの状態にリックが苦笑いをする。
「まったく、ザックス、いい加減にしろ。それだから姫がいつまでもクラスSになじめないんだぞ。隊長殿、いつものお願いします。」
「そうだな、ブライアン。クラウドにスリプルかけてみるか?」
「え?あ、自分でありますか?」
「ああ、こんな時ぐらいしかできないぞ。」
自分の魔力で魔防の高いクラウドに対して状態異常魔法がかけられるのか、一度は試したかったブライアンは返事もせずにスリプルの魔法を唱えた。
「ごめん、ブライアン。効かない。」
「次、ザックスやってみろ。」
セフィロスがその場にいるクラスAたちに順番に声をかけるが、誰一人としてクラウドにスリプルをかけられる男はいなかった。
「やっぱりお前の魔防ってすごいんだな。」
ブライアンがため息をついたところで、急にクラウドが崩れ落ちる。床に落ちる寸前をリックが抱き留めた。
「隊長殿、スリプル掛けるなら一言おっしゃってください。」
「過保護だな、そのまま床に寝かせておけばよいものを。」
この場にいるのは実態を知っている者たちばかりではあるが、セフィロスの言動は他の部隊の部隊長と何ら変わりはない。安心したような顔でリックがザックスに話しかける。
「ザックス、見張りの順番を決めてくれ。」
「おうよ。クラウド残してくじ引き行くぜ。」
反論が出るはずもなく、見張り役の順番をくじで決めた。
ウータイまでは飛空挺で30時間かかる、それぞれ交代で仮眠を取りながら、飛空挺は飛行を続けていた。
やがてウータイの大陸が見えてきた。北部の海岸線沿いを飛びながらユージンがカーゴルームにアナウンスを入れる。
「まもなくウータイ到着です」
飛空挺がしだいに高度を下げて、やがてタッチダウンする。
すかさずザックスがクラウドにエスナをかけると、ゆっくりとクラウドの瞳が開いていく。
「あ…れ?」
「おはようさん、良く寝たか?」
ザックスの声にクラウドが目を丸くして周りを見渡すと、全員すでに下船の準備を終えて並んでいた。
「ま、また、眠らされたのですか?」
「嫌ならば簡単に酔うな」
「ア、アイ・サー」
戦闘モードに入っているセフィロスは、たとえ愛妻と言えど冷たい態度を取る。おかげでクラウドもソルジャーとして認められているのであるし、特務隊の隊員達も任務に集中出来るのであった。
体にかけられていた黒のロングを苦々しげに見つめた後、ため息交じりに今着ている白のロングと取り換える。それはクラウドが一連の誘い出し計画を了承した証拠であった。
飛空挺のハッチが開き、セフィロスが扉を開けて悠然と飛空挺を降りていく。
隊長自ら率先しておりる理由は、神羅の英雄とまで言われているセフィロスがいることを知らしめるためでもあった。
飛空挺からいつものように隊員達が素早く降りて並ぶ。1番最後にクラウドが飛空挺から降り立つと、迎えに来ていたゴドーの前に自ら進み出た。
「神羅カンパニー治安部より派遣の命令を受けてまいりました。」
ゴドーは目の前の美少年に、思わずとまどっていた。
「よ、ようこそ遠い所から…。」
少しおどおどしたようなその態度から、やはり何か裏に有ると悟ったクラウドの視線が冷たくなっていく。次第にまとい出した戦士のオーラがゴドーを震えさせた。
クラウドの後ろに悠然とセフィロスが控えている事実は、ゴドーに取っては信じられない物であった。
驚愕する村長を遠巻きに見ていた村人達の中に、若干10才の少女がいた。少女は村長の娘、ユフィーであった。
「あ、あの人、何てかっこいいんだろう…。」
日に輝くような金髪に空の青を移したような碧眼。凛とした姿勢に黒革のロングコートがともすれば優しすぎる印象を引き締めていた。
じっとこちらを見つめてくる視線をクラウドが感じて首をめぐらせると、一人の少女が自分をじっと見つめているので思わずにっこりと笑ってしまった。
クラウドの笑顔を見たユフィーがその笑顔にびっくりした。
「うわ…綺麗。」
ユフィーが父親であるゴドーから聞かされていたのは、神羅カンパニーから派遣されてくるソルジャーは、氷の英雄と呼ばれているセフィロスとその腹心の部下で、地獄の天使と呼ばれている男であると聞かされていた。
しかし目の前にいる美少年はどうみても地獄の天使ではなく、本当に天使ではないかと思えるほど邪気がない。この天使のような少年が本当に究極の召喚獣を4つも従えているのであろうか?その場にいたウータイの住民誰もがそう思っていた。
その時、天空から何物かが飛来してきた。
何かが高速で近寄ってきているのはわかるがまったく敵意を感じない。モンスターではないと判断したのか、セフィロスは微動だにしていない。クラウドもちらりと飛行物体を見たが、口元をゆるめただけであった。
「まったく、そんなに姿が見たいのなら、仕方がないな。」
ぼそりと独り言をつぶやいてゴドーを睨みつけたクラウドの瞳に、ゴドーは背中にぞくりと冷たい物を感じた直後、ゆっくと彼の左手が顔の高さまで上がった。
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