天空に飛来する物体をみつけたようだが、モンスターのようなまがまがしい気配が感じられない。どちらかというとおどおどした雰囲気すら感じる。クラウドがバングルに填められているマテリアにつぶやいた。

「バハムートさん、悪いけど戦闘以外のことを頼めるかな?」
   構わぬが、我が出るほどのものではなさそうだ。

「うん、わかってる。でもね、あれの目的があなたの姿を見たいが為なんだ。」

   そうか、では思い切りメガフレアで焼き尽くしてみせよう。

「睨んでくれるだけで十分だよ。ちょっとぐらい振り回すぐらいならいいけど、乗ってる人に危害は加えないでほしい。」

   了解した、ではお呼びください。

「召喚バハムート!」
 クラウドの声のこたえるかのように、即座に竜王と呼ばれる召喚獣バハムートが姿を現わすと、その体を見せつけるかのように空を舞っている。

「爪で引っかけるなり、翼ではたくなりして降ろしてほしい。」

 クラウドが空中に舞うバハムートに指令を出すと、空中で一回りしてバハムートが目的の物に近寄り、ちょっと強めに爪で引っかけて大地に降ろした。とたんに中に乗っていたらしい男共があわてて出てきて逃げて行った。

「ごめんね、こんなことで呼んじゃって、いつもありがとう。」
 そう言ってクラウドがバハムートの鼻先をひと撫ですると、まるで撫でられて喜んでいるかの如く、空中に舞い上がり再び赤い晄となってマテリアに戻った。

 一連の動きを目を丸くして見ていたゴドーに、クラウドが近寄ると、さらりと剣を抜き、填められているマテリアをみせびらかるように目の前の首にぴたりと当てて冷たい微笑みを浮かべた。

「何の冗談ですか?」
 ゴドーはクラウドのかもし出す怒気に青ざめ、何も言えずに恐れおののいている。
「張りぼての竜を私達が見破れないとでも思っておいでなら、その考えを改めなさい。さもなくば村ごと消滅させてもかまわないのですよ」
 口調こそ穏やかだが目が笑っていない、この男は本当に村を消滅させるだけの力を持っている。
そう確信したゴドーはやっとあの銀鬼セフィロスが何も動かなかったのを悟った。噂通りこの少年が4体の究極の召喚獣を自在に操れる地獄の天使であった。

「す、すみませんでした。あまりにも貴方様は戦士らしくなくて…。」
 ゴドーの言葉にクラウドは首の皮一枚のところで、アルテマウェポンをするりと動かした。その冷ややかな刃先が首筋をそっと触る感触に、ゴドーは思わずしりもちをついた。
「見た目で判断しないように願います、私を怒らせない方が、貴方の身のためですよ。」
 まるで最後通告のようにクラウドがゴドーを睨みつける。その後ろから苦笑をしながらセフィロスが近づいてきた。
「ゴドー。何を目的に我らを呼んだかはしらぬが、この男はおそらく私を倒せる唯一の男だ。次に怒らせたらおまえはもうこの世に生きてはいないであろうな。」

 ゴドーは何も言えずにがくがく震えながらその場で首を縦に振っていた。
 そんな父親を建物の陰から見ていたユフィーは、目を丸くしていた。
「あ、あんな奴からマテリアを盗めって…、あの馬鹿親父、アタシを殺す気?!」
 ゴドーが神羅カンパニーのソルジャーを呼んだのは、やはり珍しいマテリアを奪う為であったのであった。その任を任されていたのが娘のユフィーであった。ソルジャーとてまだ幼い少女には気を許すであろうとゴドーが思っていたのである。
 思惑通り先月来たソルジャーからはうまく「敵の技」のマテリアを盗めた。
 ウータイ郊外にベースキャンプを張ると言うソルジャー達の後ろ姿を見て、ユフィーはあの強い人にどうやって近づこうか考えあぐねていた。

 一方、ベースキャンプを設営しながらザックスが、クラウド相手に小突き回っていた。
「クーラーウード!!かっこよかったぜ〜〜〜!!」
「こら、ザックス!その態度を改めろ!」
「リックの言うとおりだ、どこでウータイの連中が見ているかわからないんだぞ。」
 リックとブライアンがザックスを抑えにかかると、エドワードがすかさずザックスにテントの足を手渡した。
「ほら、肉体労働は専門なんだろ?早くテント組まないと、食料確保に行けないぞ。」
「お、りょーかい。」
 てきぱきとテントの足をくみ上げていくザックスを見て、クラウドも自分のできることを探そうとしていた。そこへすかさずリックがトレイにマグカップを二つ載せてやってきた。
「隊長補佐殿、コーヒーです。」
 そういいながらたっぷりとミルクの入ったカフェオレをクラウドに手渡す。両手がふさがってしまって何もできなくなったクラウドがしかたなくマグカップを置こうとしたら、カイルがやってきてディレクター・チェアーを組み立ててクラウドに勧めた。
「どうぞ、おかけになってください。」
 まるでセフィロスにするかの如くの扱いにクラウドがむくれた。
「むう〜〜〜〜〜」
 むくれるクラウドを無視するかのように隊員たちはベースキャンプを組みあげていったが、クラウドも今着ている戦闘服のことを考えると、むやみやたらに動いてよいというものでもないことぐらい理解している。しかたなくディレクター・チェアに座りカフェオレをちびちびすすりだした。
 やがて、メインベースが組みあがると、リックがクラウドを招き入れる。
 クラウドがテントの入り口をくぐったとたん、隊員たちの大きなため息が漏れた。
「ぶはぁ!いまいち慣れねぇ。」
「外から見えないテントの中なら、いつもの通りで構わないよなぁ。」
 どこでウータイのスパイがのぞいているかわからない。いくら一時的とはいえクラウドは部隊長の証である黒のロングを着ているのだから、今までのようにからかったり、じゃれたりなどできない。わかってはいるが、急にできるものでもないのは特務隊の隊員たちとて同じようであった。
 そんな様子を見てクラウドも思わず安堵する。
「よかった、ならば俺もここだけは気を抜けるってことだね。」
 ほっと一息ついたところで、表にいたジョニーから声がかかる。
「隊長補佐殿、隊長がお呼びです。」
 クラウドが慌ててテントから飛び出すと、セフィロスは村全体を見渡せる小高い丘の上に立っていた。
 そばには桜の大きな木がそびえ立っていて、花びらを風に散らしはじめている。銀色の長い髪が花びらと共に風になびき、黒のコートの裾がひるがえっている。
 それはまるで一枚の絵画のようであった。
 クラウドがボーッと見とれていると、その視線を感じたのか、セフィロスが振り返り、腕をさし伸ばしてクラウドを呼んだ…ようにみえた。
 あわてて駆け寄るとセフィロスは隣に立つ用に指示をする。そして小高い丘の上から村の様子をクラウドに説明しはじめた。

「明日にも行ってもらうことになるから覚えておけ。火の看板があるのが武器屋、あっちの瓶の置いてある建物が亀道楽。いわゆる食事処だ。亀道楽の前、川を挟んだところにある大きな屋敷が村長ゴドーの家だ。」
 クラウドがセフィロスの指を差す先を見てうなずいている。ふと見ると村の広場に先程の少女が立っているのが見えた。
「あの子供は先程からお前ばかりを見ているな、手でも振ってやるがよい。」
「意地が悪いですね。」
 そう言いながらクラウドが少女を見下ろすと、あわてて少女は物陰に隠れるように消えた。
 その様子を見てセフィロスがつぶやいた。
「どうやら、あの子供。ゴドーに何か吹き込まれていそうだな。」
「自分には、よくわかりませんが、一度は盗まれるように仕組まないといけないのでしょうね。」
「そうなるかな、連中にお前が呼ぶまでおとなしくするよう言いつけておくのだな。」
「それはバハムートさんたちも理解してくれています。」
 桜の木の下で、あこがれであった黒革のロングコートを着て、憧れの男の隣に立つ。自分が夢見たことが仮とはいえ現実になっていることに、クラウドは思わず笑みを浮かべていた。

 一方、あわてて物陰に隠れたユフィーちゃん。なぜか心臓が爆発しそうです。
「あ〜、びっくりしたよ!!こっちの方見てるんだもん。でも綺麗な人だったな〜〜。桜の花の下で立っている姿なんて、まるで天使でもいるかのようだったな〜〜。」
 どうやらユフィーはクラウドに一目惚れしたようです。そんなユフィーをゴドーが後ろから小突いた。
「こら、そんなのであの男からマテリアを盗めると思っておるのか?!」
「ええ?!マジでやるの〜〜?!だってあの人メチャクチャ強そうなんだもん。」
「それは認めよう、しかしあのバハムートを見たか?!あんな珍しい上に強いマテリアが有ればこの村もずいぶん楽になる」
 親子のやりとりは物陰に隠れていた為聞かれていないように思われたが、密かにリックが部下のキッドを偵察に行かせていたのであった。
 キッドはやりとりを最後まで聞いてからこっそりとベースキャンプに戻った。

リックが戻ってきたキッドに気が付き声をかける。
「キッド、どうだった?」
「お前の推測通りだよ、あいつらは姫の召喚マテリアを狙っている。」
「ふん、バハムートに弾かれておしまいだろうに。」
 クラウドが絡むとまるで子供のようなすね方をするリックにジョニーが突っかかると、即座にカイルが横から突っ込みを入れる。
「あん?自分が弾かれるからって拗ねちゃって」
「人の事言えるかよ、俺たち全員魔力少ないってわかってるじゃないか。」
 ジョニーの言葉に軽くうなずきながらキッドがリックに尋ねた
「それで、リック。どうするつもりだ?」
「姫も隊長もそのつもりでいるようだし、しばらく様子見かな。」
 軽くうなずきながら、キッドが思い出したようにつづけた。
「そうそう、お前にライバル出現。あのガキ、姫に一目惚れしてるぜ。」
「なんだとぉ!ぶっ殺す!!」
「おいおい、(^^;; あんなお子様相手に物騒だな。」
「いや、それがリックだろw。」
 笑いあう仲間の輪から外れて、リックがセフィロスとクラウドのところへ駆け寄って行った。
「隊長殿、姫。お話が有ります」
「わかっている。キッドを偵察に出していたようだな、何か言っていたか?」
 セフィロスの言葉にクラウドがびっくりして尋ねた。
「え?本当なの?リック」
「はい、キッドが言うには、やはり奴らは姫の召喚マテリアを狙っています。」
「あれだけ見せつけても、あきらめない根性は褒めねばならぬな。」
 いささかあきれたような様子のセフィロスのとなりで、クラウドは隣に立つ男を憧れの眼差しで見あげていた。
「セフィロス…。すごぉい。」
 そんなクラウドに苦笑を隠し切れない様子のリックがつぶやいた。
「隊長殿は気配だけで我らの配置を感じ取る方だぞ、1年以上となりに立っていながら今更感心しないでください。」
 その言葉にクラウドがリックを少し拗ねたような目で見るが、セフィロスがおかまいなしで何か考えているので、リックをともないクラスA仲間の元を訪れる。
「皆、やっぱり召喚マテリアが目当てだったって。」
 クラウドが入ってきた途端、狭いテントの中で敬礼して、クラスAソルジャー達が迎え入れる。
 パーシーが副隊長らしい発言をした。
「お呼びいただければこちらから参ります。」
 いきなりの敬語にクラウドの眉が跳ね上がると、リックが呆れたように助太刀する。
「お前ら…ここにいない上官と目の前の姫、どっちの言う事を聞くんだよ。」
「特務隊みたいに器用に切り替えられないんだよ。」
「俺は目の前のクラウドの言う事を聞かないと、後が恐いと思うけどな。」
クラスA仲間のテントの中にザックスがいきなり入ってきた。そしてクラウドの隣に居座ると、ポケットからキャンディーを取り出して、手渡しながら話しかけた。
「で?どうするんだ?」
 エドワードが片手をあげて口をはさんだ。
「たとえ姫の召喚マテリアを使えなくても、レアだから高額で売れるだろうな。この村は見たところあまり豊かではなさそうだから、それを狙っているとしか思えないんだが。」
 エドワードの言葉にうなずきながらクラウドはその場にいるソルジャー達の意見を求めた
「やめさせるのは簡単だよ。力で押さえてしまえばいい。でも、それでは解決にはならないんだ、どうしたらいいんだろう?」