「俺たちソルジャーにそういう知識がないから、あるやつに聞くしかないと思うけど?」
ブライアンの言うとおりである、戦うことしかできない男が、いくら考えても産業の代替え案が思い浮かぶことはない。
「つまり俺たちと一緒で、ここウータイにはそういうことを考えられるやつがいないということか。」
土地が肥えているわけでもないし、農産物が豊富にあるようにも思えない。クラウドが納得するようにうなずいた。
「こういう時に経済を学んだジョニーに助けてほしいって思っちゃうのも仕方がないのかな?」
リックが即座に反応した。
「すぐに呼んできます。」
5分もたたずに、リックがジョニーを伴って戻ってくる。テントに入ったとたん居並ぶメンツにジョニーが思わず引き返そうとして、エドワードに入り口を閉じられた。
「うわ〜、逃げ口閉じられた。」
「逃げるなよ、ちょいと知恵を貸してほしいってことだよ。」
「これだけクラスAソルジャーがそろっていて、それでも自分に聞くことといえば、経済関係しかないじゃないですか。」
自分が呼ばれた理由を正確に読み取ったジョニーに、クラウドが笑みを浮かべてうなずく。
「うん。だって、俺、そういう知識がないから。」
天真爛漫な笑顔に思わずうなだれるが、すぐに顔をあげたジョニーが答えた。
「姫〜、俺だってウータイの窮状を救う術なんて思い浮かばないって。」
「う〜ん、さすがにそうか。」
「ただ、一つだけアドバイスできることがある。ダチャオ像のふもとにあるっていう魔晄泉の封鎖の許可の取り方だ。今回の偽依頼は違約金が発生するから、それをタダにする条件で、許可を引き出せるはずだぞ。」
「あ、そうか。お金が欲しいのに逆に出さないといけなくなるから、うまく交渉すれば許可が取れるってことか!」
「ああ、タークスあたりに違約金請求書類作ってもらって、輸送機に転送してもらえば即交渉に入れる。姫の召喚獣にビビっているうちに強く出れば何とかなるかもな。」
即座にクラウドがツォンに連絡を入れる。時差を考えると、ミッドガルは深夜だというのに、2コール目でタークスのやりて主任は普通に電話口に出た。
「ツォンです。なにかありましたか?」
冷静なツォンに、ウータイで起こったことを伝えると、かすかに噴き出すような息遣いが聞こえたが、あえて無視してクラウドは反応を待っていると、きちんとした返答をくれる。
「そうですか、それは確かに契約違反になりますので、至急違約金と賠償金の請求書類を輸送機に送信いたします。」
携帯をポケットにしまってクラウドが周りを見渡すと、ブリーフリングの終了を言い渡した。
「おそらく明日、違約金支払い交渉で、ウータイの首領ゴドーのところに行くことになる。そのあと、わざとマテリアを盗ませる隙を作る。ザックス、ジョニー、協力してくれ。」
「あん?つまりジョニーに露払いやらせて、俺が荷物持ちってわけね。」
ザックスの言葉に思わず吹き出しそうになるのを必死で抑えて、クラウドは了承の意味でうなずく。ほかのクラスAソルジャーたちも反論しなかったので、隊長であるセフィロスに話を通しに行くと、彼も口元を緩めてうなずいた。
「ザックスなら適任だ。亀道楽でおいしいものでも食べてこい。その間に、ほかの部隊を使ってダチャオ像周辺を封印しておく。パーシーとブライアンを呼んで来い。」
クラウドがうなずいて、もう一度テントに入り、指名された二人のソルジャーに話すと、二人とも青ざめたような顔をして隊長のテントに入っていった。」
そんな二人の背中を見て、ザックスがあきれたようにつぶやいた。
「あーあ、ガッチガチになってまぁ…。なぁ、リック、俺もセフィロスに会いに行くときあんな感じだったっけ?」
「いや、お前は今と変わっちゃいないよ。お前だけだ、最初から隊長殿に砕けた態度をとり続けていたのは、な。」
ザックスとてセフィロスに憧れてソルジャーになった男のはずだ。その憧れの男に会う時、どうしていいかわからないという戸惑いや、はやる気持ち。そして、地位が上がれば、あこがれの男からの期待にこたえられるかどうかという不安も増える。
「俺だって、特務隊に呼ばれた時は、きっとあんな顔をしていたんだろうな。」
ぼそりとつぶやいた一言が目の前の男らしくなくて、それでも、思わず納得させる。しかし、ザックスが反論した。
「いんや、きっとお前のことだ。セフィロスに呼ばれたら、うれしくってしっぽ振って飛んで行ったに違いないぜ。」
ザックスの言葉に、カイルが噴出して思いっきりうなづいていると、したたかにリックに小突かれた。
「それにしてもサー・エドワードは特務隊に来ても全然変わらないな。」
目の前のもう一人のクラスAはいささかあきれ顔で首を振った。
「カイル。俺は姫とペアを組み始めてから、お前らの遠征の半分ぐらいは随行しているんだ。サー・セフィロスにも直接指示をもらったことも何度もある。いい加減慣れたよ。」
「おー。さすが、いつでも引き抜ける男。」
「俺を呼ぶと、もれなく25人の1隊の連中が付いてくるぞ。今回はパーシーのところとあわせて50人。姫の奴よくこの人数を平気で従えるよな。」
「そりゃ、隊長殿の鍛え方だよ。アルテマウェポンの時にいきなり3人のクラスS飛ばして指揮させたから、何かあるんだろうなと思ってたら、クラスS入りを見込んでいたってことだったって奴だ。」
「リック、お前ってマジでキングのことを自分のように自慢するんだな。」
目の前の男がセフィロスに憧れて一挙手一投足をまねしているのは周知の事実だ。その男が話している言葉よりも、その態度のほうが引っかかるということは、エドワードがリックをそれなりに信頼している証拠である。
口元を緩めただけの笑みを浮かべると、一般兵最強の男は目の前の優男に告げた。
「エディ。姫たちが亀道楽に入ったら、周辺に潜伏し、ウータイの連中が姫に近寄ってマテリアを盗んだ瞬間を抑えられるな。」
「ああ。だが、おそらく無駄足になるだろうな。何しろ姫の召喚獣達は特別だからな。」
「念のためだよ。」
「了解だ。明日のゴトーとの対話で、何かあったら飛び出せるよう、手下のソルジャーを何人か周辺待機する予定だったからな。それこそ、ついでだ。」
「よっしゃ、決まりだな。」
3人のクラスAソルジャーが、こぶしをチョンと交わした。
翌日、あらかじめゴドーへ契約不立行および違約金の発生で面会すると連絡を入れ、クラウドは黒のロング姿。これ見よがしに召喚マテリア3つをはめ込んだアルテマウェポンをザックスに持たせ、ウータイの村を訪れた。
ザックスがへらへらしながらアルテマウェポンを持ち、ジョニーがアタッシュケースを持つ。不思議なものでジョニーがアタッシュケースを持っただけで、セカンドソルジャーの証である青い革のロングコートを着ているのに、なぜかサラリーマン風に見えてしまう。
3人を見送った後、エドワードは自分の一隊を連れて、ゴドーの家周辺にこっそりと隠れた。
その様子をベースキャンプから眺めていたセフィロスは、後ろに控えていたパーシーとブライアンに目配せした。途端にブライアンが配下のソルジャーに対し命令を下す。
「ただいまより、ダチャオ像下の魔晄泉封鎖作業に入る。総員、出発!」
トラックの前に並んだ40人ほどの兵士が一斉に敬礼した。
ベースキャンプには魔晄に耐性のない特務隊隊員と一般兵が残っていた。一見、平和な残留部隊のはずだったが、そこはセフィロスが選んだ特務隊が残った時点で少し違っていた。
特務隊は一般兵でもトップクラスの実力を持ち、その実力ゆえ全員がソルジャーとして扱われている。クラウドがわざとリックを残したのも、あらかじめ理由があったからであり、それを知っているリックが一般兵を全員整列させた。
にやりと悪い笑みを浮かべたリックが全員を見渡しながら声を発した。
「おとなしく後方待機できると思ってるんじゃねぇぞ、今から体術と短剣による格闘、そして棒術を徹底的にやるからな!」
ミッドガルを発つ前に、「それほど大変な派遣ではなさそうだ。」と各部隊にはひそかに通達されていた、しかしリックの言葉を聞いた途端、気楽に構えていた一般兵の顔が一気に青ざめた。
それを知ってか知らずか、村に到着したクラウドは、ふとベースキャンプの方向を眺めてつぶやいた。
「リック達、あまり一般兵をいじめなければいいけどなぁ…。」
「あ?そりゃ無理ってもんだな。あいつに一般兵をしごけと頼めば、それこそ帰るころには全員地べたに寝転んでいると思うぜ。」
「ザックスに同意だ。姫が加入してからはあまりなかったが、いままでこういうことがなかったわけではない。こっちまでヘロヘロになるぐらい、徹底的にやったさ。」
「そう。俺、最近運動不足だから、こっちを早く終わらせて、残留部隊に参加しないと、な。」
ザックスとジョニーがクラウドの言葉にお互い顔を見合わせて叫んだ。
「お前が参加したら、一方的過ぎて鍛えることにならない!」
「ぶう!」
常日頃言われていることを再び言われて、クラウドは思わず悪態をついた。
しかし、ふざけている姿も、ウータイの町に入ろうとするころには全く見られないどころか、クラウドの雰囲気が徐々に怜悧なものになっていったのであった。
やがて、正面にゴドーの館が見えてきた。
何も言われなくてもジョニーが扉を一気に開けると、ザックスが中に入ろうとして、足を止めた。
「念のためにファイラでもかけておくか…。」
そういうと地面に向かってファイラをかけると、軽くポン!ポン!と煙が上がる。ザックスががっくりと肩を落とした
「ソルジャーを馬鹿にすんなってぇの。」
そういいながら一歩足を踏み入れた途端に、地面から何かが急に飛び出してくる。ザックスが反射的に飛び上がってよけたところに光が走った。
「かけるなら、ファイラじゃなくってサンダラだろ?」
ジョニーのかけたサンダラに反応したトラップが土の下からがガシャガシャと音を立てながら飛び出してくる。
「まったく、かわいらしい歓迎だな。」
クラウドがそういうと、片手を天高くつき上げた。
「シャドウフレア!」
無属性のビームが地面のありとあらゆるところを縫うように走ると、地面の下に隠されていたありとあらゆる罠が音を立てて姿を現した。
「ったく、どんだけー?!」
現れた罠を一瞥し、あきれたような顔でザックスがつぶやいた。
「さて、どうしてやろうか。」
真剣な顔で前をにらむクラウドの視線の先には、ウータイの村長ゴトーとその取り巻きが姿を現していた。
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