すでに違約金および制裁金請求の話がカンパニーからゴドーへと正式に通達されているはずであった。
あらかじめ電話で来訪を伝えてあったというのに、入り口に連なる通路にありとあらゆる形の罠が張り巡らされているという事は、目の前に居並ぶ連中がカンパニーのソルジャーたちを歓迎していないことを如実に表していた。
しかし、まだ尊大な態度を取っているところを見ると、入り口までの仕掛けが残っているであろう。そう考えたクラウドは足元にひそかにトルネドの魔法をかけて、小さく立ち上がった空気の渦の上に足を乗せた。
残った片足で地面をけると、空中をまるで滑るように移動する。そんな姿を見てゴドーたちが目を丸くし、慌てて館に逃げ込もうとしたが、いきなり足が動かなくなり、その場に固まるように立ち止まってしまった。
「な!なぜだ!」
「あんたたちが盗んだマテリアの中には時間操作のマテリアがなかったのか?ああ、使う前に売っちまっていたのか。」
凄みを利かせたクラウドの後ろで、必死になってザックスが取りつくろうとする。
「隊長補佐殿。その件はまだ証拠がそろっていないから、今日はこっちの用事ですよ。」
ジョニーの持つ黒いアタッシュケースを指さすと、人のよさそうな雰囲気全開でウータイの幹部連中に近寄って耳打ちする。
「あんたたちも、命が惜しかったらおとなしくしていないと、このお方は昨日見たバハムート種だけでも3体従えてるんだから、マジで村焼かれるよ。」
そういうとクラウドから預かった剣にはめられている赤いマテリアを見せつける。
しかし、昨日の召喚獣はなにも技を繰り出すこともなかったため、ゴドーたちは”大したことはないだろう”と、たかをくくっていた。
「どうせ大したことなかろうに、それに我々が契約違反をしたという証拠もなかろう?あれは皆さんたちの実力を知るための仕掛けじゃて。」
「へぇ…、そう。では遠慮なく、バハムートさんにこの村を焼いてもらうことにするか。」
クラウドがすっと腕を伸ばして手のひらを上に向けると、ザックスが持っていた剣から赤い召喚マテリアがひとつゆらりと飛びあがり、赤黒い光をまといながらぴたりと手のひらの上に留まった。
「召喚、バハムート。」
了解したとばかりに赤い球がくるりと翻り、強い光が放たれると、竜王が嬉々として空に舞い上がった。
「目の前の八角形の建物。中から嫌な波動が来るな…。メガフレアで焼き尽くしてやれ。」
空に舞い上がっていたバハムートが、クラウドを見てうなずいたように見えた途端、激しい光を伴う火球が八角形の建物を覆った。光が収まった後には建物のかけらすら残らずに消え失せていた。
「次は、どこを消そうか。ああ、左の五重の塔なんて秒で消せるな。」
にっこり笑いながらも、底知れず恐ろしいことを口にするクラウドに、剣を持ちながらザックスは青い顔をしてつぶやいた。
「あーあ、うちの隊長補佐殿を怒らせたらマジで怖いんだって言ったじゃないか。俺、もう知らねーからな。」
「すみません、こちらの同意書にサインいただけませんかね?建物を破壊したのは弊社の意思ではなく、依頼者の意思だという書類です。なお、こちらの書類は訴訟を起こさないという確認書類で…。」
ジョニーが慌てて書類を2,3枚取り出すと、ペンとともにゴドーに渡そうとするが、クラウドが腕を横にして制すると、冷たい瞳でポケットから一つのマテリアを取り出した。
そのマテリアが何であるか知っているザックスが、正体を明かす。
「ちょ!まった!隊長補佐殿!それナイツ・オブ・ラウンドじゃないですか!マジで村ごと切り刻むおつもりですか?!」
「当然だろ?私の持つマテリアたちの実力が知りたいのならば、お望み通りフルパワーでアルティメット・エンドを発動させるだけだ。」
にこりと笑っているようにみえるが瞳は全く笑っていない。そんなクラウドの醸し出す雰囲気は、ここにはいないセフィロスをほうふつさせる。
どこかで感じたような冷気にザックスが思わずつぶやいた。
「マジでセフィロスそっくりだぜ…。」
「ストライフ隊長補佐殿。ウータイ中切り刻む前に、せめてダチャオ像下の魔晄泉の封鎖の許可取らせてください。」
ジョニーがうまく本題を引き出すと、クラウドがさもつまらなさそうな顔でゴドーの方を見る。
「会社の方針だから仕方がないな。ゴドー、そういう訳だからダチャオ像の下にある魔晄泉の封鎖を許可しろ。」
許可をもらうというのに一方的な命令を下しているクラウドに、思わず笑いそうになるのを必死で我慢して、戦士の顔を封印したジョニーがもみ手でゴドーに近づいた。
「なにも一方的な条件で締結しろとは言いません。魔晄泉の封鎖の契約をしていただければ、今回の派遣の違約金と制裁金を半減するのと引き換えにしてもいいと、社長がおっしゃっています。ちなみに拒否された場合の違約金は今回の派遣に支払われる契約金の20%、制裁金が80%ですので倍額になり、支払っていただくことができなければ国際法廷に提訴させていただきます。」
確かに契約した時点で、そういう説明は聞いてはいたが、今までずっとうまくごまかして、派遣されたソルジャーたちからマテリアを盗みガラス玉と入れ替えることに成功していたからか、今回もうまくいくことしか考えていなかったゴドーが青い顔をする。
「ちょっとまった!ダチャオ像の下の魔晄泉の封鎖か、違約金だなどと、こちらに不利な条件ばかりじゃないか!」
「は?当たり前だろ?貴様、何を馬鹿なことを言っているんだ。契約に違反した時点で貴様に有利な条件などあるわけない。」
速攻で答えるクラウドの後ろで、ザックスとジョニーがうなずいている。それでも少しでもいい条件を引き出そうと反論を考えようとするゴドーだったが、赤い召喚マテリアをくるくるともてあそぶようにしていたクラウドが先ににやりと笑った。
「そうだ。ナイツの皆さんにダチャオ像を抹消してもらえば仕事は終わるな。」
「だめです!隊長補佐殿!一応この村最大の観光目的なんですから、石粒にしちゃったら、大株主のグランディエ財団に怒られますよ。あの会社のホテル、この村の端っこにも立っているんですから。」
「なんだ、つまらん。石粒どころか砂になると思っていたんだが、見たかったなぁ。では次点、この村まるごと刻むというのはダメか?」
「だめです!こんな、なんもない村切り刻んでも、なんもならないっすよ!召喚獣の皆さんも”つまらぬものを斬った”と、怒っちゃいますよ!」
剣を壁に立てかけて、怒りまくっているクラウドを抑えようとザックスが近寄ったその時、立てかけていた剣にそっと忍び寄る一つの影があった。マテリアを盗むという使命を帯びていたユフィだった。
召喚マテリアからの波動と、隠しきれない気配でそれを察していたが、クラウドは知らない顔で畳みかけるようにゴドーを脅そうとしたその時だった。
「いただきぃ〜!」
風をまとって一人の少女が駆け抜けていった。しかし、クラウドは全く追いかけることをしなかった。
「さて、確実な証拠もできたことだし、召喚獣たちを返してもらうか。」
そういうと片手をすっと前に差し出した。すると走り去っていったはずの少女が見えない何かに引きずられるように後ろ向きに戻ってくる。
「ちょ、ちょ!なに?なんなのよぉ〜!」
何がなんだかよくわかっていない少女が叫ぶ。
「隊長補佐殿の持っている召喚マテリアは持つ人を選ぶ、盗もうと思っても盗めるものじゃない。」
ジョニーの言葉が終わらないうちにユフィの懐から赤い召喚マテリアが飛び出してきて、クラウドの周りをくるくると回った。
「おかえり。」
クラウドの差し出した手に戻ってきたマテリアが収まり、気持ちよさそうに掌の上を転がる。それを隙と見たのか、ユフィが手を伸ばして再びマテリアを手に入れようとするが、召喚獣に思いっきりはじかれて、吹っ飛んだ。
「聞いていなかったのか?私の持っている召喚獣は自ら主を選ぶ。彼らに気に入られなかったら触ることすらできない。さて、どう罰してやろうか。ラウンズに魔力吸われて廃人になるか、それともメガフレアの業火に焼かれるか?どっちがいいかな?」
クラウドの言葉に反応して赤いマテリアがくるくると舞い上がる。弾き飛ばされたはずのユフィがあきらめきれないのか再びマテリアに近寄ろうとするが、マテリアから赤い光がユフィに注がれたとたん、今度は棒立ちしているゴドーたちを巻き込んで建物の壁へと飛んばされた。
「今度姿を現したら即最大火力で技を発動する…だそうだ。相当怒らせたようだな。」
クラウドの手のひらで揺れていたマテリアが、自ら足元に立てかけられているアルテマソードのマテリア穴に入ると、今度は剣自体が浮き上がり、クラウドの背中に張り付いた。
「俺に持たれるのも嫌なのかよ。」
ザックスが思わずつぶやくが、それすらも聞こえていないのか、ゴドーが青い顔でわめきたてた。
「野郎ども!こいつらをやっつけてしまえ!」
すると、五重塔の中から手下と思わしき男たちが飛び出してきた。
「まったく、懲りねぇなぁ。」
ザックスが背中のソードを取って構えようとしたとき、足元に氷の刃が走り、駆け寄ろうとしていた手下どもの足元を凍り付かせた。
「あらん、ブリザガってこんな使い方もできるのねん…。」
あきれるザックスをよそに、足元を凍り付かされた手下たちは、飛び出した勢いを抑えられずに前のめりに倒れこむ。それでもすかさず体勢を立て直して銃を構えだすあたりは、大したものである。
しかし構えた銃にピンポイントでサンダラを当てられて手放した途端、目の前で燃え上がる。
「まだ抵抗するおつもりですか?」
ゆったりと構えているが、全く隙のないクラウドが冷淡な瞳のまま最後通告を突きつけるが、ゴドーはまだあらがおうとする。
「な、何を言う!貴様がこの屋敷に入ったことが命とりなんだ!」
「ああ、まだ抵抗するつもりなのですね。では仕方がありません、まず最初に屋敷を跡形もなく消しますか。」
そう言った途端、背中の剣から赤いマテリアが4つとも飛び出して、くるくると回りながらクラウドの手のひらに乗ろうとしてお互いぶつかり合っている。
「こらこら、喧嘩しないの。バハムートさんはさっき召喚したから、戻ってください。ラウンズさんたちは強すぎるから、また今度で。」
のんきに召喚テリアと会話するクラウドに、ザックスとジョニーが突っ込みを入れた。
「隊長補佐殿!遊ばないでください!」
まるで召喚マテリアでお手玉をしているようなクラウドに、あきれたような顔をして突っ込みを入れるザックスやジョニーたちを屋敷正面の木陰に潜んでいる男たちがずっと眺めていたのをゴドーたちは全く感知することもできずにいた。
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