クラウドがウェンリー達と簡単な昼食を取っていると、他の訓練生達が話しかけてきた。
「なぁ、クラウド。お前っていつの間にマテリアを使えるようになったんだ?」
「うん、実は昨日まで俺も知らなかったんだ。ミッドガルズドオルムからサー・セフィロスとザックスが助けてくれた時にサーに渡されて初めてマテリアを持ったんだよ。」
「うわ!お前サー・ザックスと同室になったってのは聞いたけど、サー・セフィロスに目をかけられているなんて聞いてないぜ。」
「いや、それはないだろう?だってサー・ザックスはサー・セフィロスの副官だろ?」
「いいなぁ、お前。寮の部屋代わってくれ〜〜」
「本当にいいの?ザックスってずぼらで遅刻の常習者だよ。部屋はいつも片づけてくれないし朝はめざまし程度で起きないから、いつも俺が起しているんだけど…あいつ何を勘違いしてるんだか起こすたびに違う女の名前を言って俺に抱きつくんだぜ。それでもいい?」
訓練兵達が凄い顔でクラウドを見る。
「クラウド、ご愁傷さま。」
「でも、どうしてサー・セフロスと知り会ったんだ?」
「ザックスの奴が悪いんだよ。あいつ書類の作成がメッチャ苦手で同室になって2週間もしないうちに俺に『パソコン使えるか?!』って聞いてきたんだよ。」
クラウドはザックスとの会話を思い出していた。
* * *
「頼む〜〜〜!!俺を助けると思ってちょっとついてきてくれ!!」
そう言って両手をあわせて訓練兵のクラウドに頼み事をする1stソルジャーのザックス、その様子をまわりの一般兵やソルジャー、訓練兵達が訝しむように眺めていた。
「わ,わかったってば!!頼むからそんな真似やめてくれよ。ソルジャーのザックスが訓練兵に頭を下げている事自体がおかしいんだって。1stの権限で命令すれば簡単な事じゃない。」
「とにかく頼むからついてきてくれ。」
そういわれて渋々クラウドはザックスの後ろについて行くと、ザックスは本社ビルのエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの浮遊感に苛まれながらクラウドが青い顔をしているうちに60Fへと到着した。
ザックスはそこで他のエレベーターに乗り継いだ。
(本社ビル60F以上って,たしか重役しか使わないんだったけ…)
クラウドがカンパニーに採用された時に一通り説明を受けていたのだが、本社ビル60F以上はパスがないと入れないVIPエリアであった。
エレベーターが67Fで止まった時ザックスが降りたので後ろをついていく。
専用のパスをリーダーにかけてセキュリティーを解除しながらザックスが奥へと進むと、マホガニーの天然木で作られた扉の前に立った。
「おーい、入るぜ〜〜!!」
ノックもせずに扉を開けてザックスが入って行くと、低い声で罵声が飛んできた
「ノックぐらいしろといつも言っておろうが!!」
怒鳴られたザックスは平然としている。
クラウドは声がした方を見るとそこには銀色の長い髪に黒のロングコート、魔晄を帯びたアイスブルーの瞳を持つ余りにも有名な男が黒い革張りの椅子にゆったりと座っていた。
「サ、サーセフィロス…」
セフィロスが名前を呼ばれた方を向くと、チョコボのような髪型の少年兵が立っていた。
訝しむセフロスにザックスが説明した。
「へへ…こいつ、俺と同僚のクラウドって言うんだけど、書類の整理を手伝ってもらおうと思ってつれてきた。」
「………。」
「い、いいじゃねぇかよ!!俺パソコンなんてめんどくさい物、覚える気なんてないし!こいつ出来るって言うからやってもらうんだい!」
「そいつのフルネームは?」
「あ?クラウド・ストライフっていうんだけど。」
セフィロスが手近に有るパソコンでデーターベースを呼び出すとあっという間に目的のものを見付け出した。
「クラウド・ストライフ、まだ訓練兵ではないか。ふん、このデーターなら下手な一般兵よりは上か。まぁ、いいだろう。お前の書類が溜まっていると私まで呼び出される。せいぜい手伝ってもらうんだな。」
ザックスがほっとしてクラウドを机に押しやる。
「ほれ、クラウド。まずこれから頼む。」
「ザ、ザックス。頼むって…これ報告書じゃないですか!?」
「お、流石トップ合格するだけあるね〜じゃぁ頼んだぜ。」
そう言ってザックスはクラウドに山ほどの書類を手渡して、隣に座り込むとコーヒーを持ってきた。
「わかんない時は俺が喋るからそれを要約してくれ。」
「コレを全部ですか?」
「ん、まぁとりあえずそれを今週中。まだまだあるからよろしく。」
クラウドががっくりと頭を垂れると、ザックスがにっこりと笑ってクラウドの背中をポンポンとたたいた。
「いやぁ〜〜、助かったなぁ同室のお前が出来る奴で。」
そう言ってコーヒーを飲むザックスにいつの間にかとなりに来ていたセフィロスが拳骨をお見舞いする。
バコッ!!
(うわぁ…痛そう〜〜)
クラウドが目をまん丸にしてセフィロスを見上げた。
セフィロスは表情一つ変えずにクラウドを見る。
「馬鹿猿と同室になってしまったのが運のツキだったようだな。しかしソルジャー付きの秘書官になることはソルジャーへの近道だお前の教官は誰だ?」
「は、はい。レイナード教官であります。」
立ち上がってびしっと敬礼しながらクラウドが答えるとセフィロスが何処かへ電話を入れていた。
「レイナードか、私だ。訓練兵のクラウド・ストライフという人物だが秘書官として使いたい、許可を願う。」
電話の相手が二つ返事で許可をしたようだった。
その日からクラウドは訓練生として訓練を受けながら、セフィロスの執務室でザックスの溜めた書類を整理していた。
クラウドの仕事はやがてセフィロスの目に止まるようになり、セフィロス自身もたまにクラウドに書類を任せたりミッションの為に必要なデーターの作成などをやってもらっていた。
やがてセフィロスが隊長として参加するミッションの会議室にはクラウドが召集されたソルジャー達にミッションに関するデーターを配る姿がちょくちょく見受けられるようになってきた。
今やクラウドはサー・セフィロスの秘書官としてソルジャー達に認められていた。
* * *
「…と、言う訳。大変なんだから。」
「そう言う理由か、なるほどねぇ」
「ただ働きなの?」
「いや。一応、出来高払いでお金をもらっている。書類の内容や仕事の内容で庶務に査定されている。」
「うわ!!大変そう。」
「やっぱりクラウドって俺達と違うんだな。」
「俺、一応人間なんだけど。」
クラウドの一言にその場に居合わせた訓練兵達が声を立てて笑った。
その日の午後。訓練生がグラスランドエリアでの演習を続けていると、本営に無線が入ってきたので副教官が無線をとる。
「はい、こちらグラスランドエリアの本営。」
「緊急召集です、訓練兵のトップ10人をジュノンに回して下さい。プレジデントの警護です。」
「了解いたしました。」
副教官が教官に連絡を付けた、即座に訓練兵のトップ10人が本営に戻ってくる。
副教官が訓練兵に召集の内容を伝えた。
「貴様達はただいまよりジュノンへ向かってもらう、目的はプレジデントの警護。一旦カンパニーに戻って庶務より式服を受け取り着替えてジュノンに向かってくれ。」
「アイ・サー!!」
副教官が用意したトラックに乗り込み一路ミッドガルへと戻る、その間に訓練兵に指令書が手渡された。
訓練兵達がそれぞれ読む。
「うわ!クラウド。おまえ大変だな。」
「うわ!!プレジデントに随行して歩くだって〜?!」
「俺、トップじゃなくてよかった。」
「あ、でもサー・セフィロスも見えるんだね。羨ましいような、そうでないような…」
「ははは…は…はは。」
仲間の言葉にクラウドは力なく笑った。
シェイカーとも呼ばれる軍用トラックが悪路を走っているので、車内はかなり揺れる。
クラウドの顔が真っ青になっていた。
「うう…」
「やべぇ!!クラウド、乗物酔いするんだった。」
「うぎゃぁ!!こんな所で吐くな!!」
「うわ〜〜〜!!!やな感じ〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
荷台の訓練兵の騒動をよそにトラックは一路ミッドガルへと走り続けていた、やがて神羅カンパニー本社に到着した頃クラウドはよれよれになっていた。
「ううう…」
「クラウド、ほら助かったぞ」 だから助かっていないんだってば!!
訓練兵の目の前に呆れたような顔でザックスが立っていた。
クラウドの肩を担ぐと後ろに居るセフィロスに向かって話しかけた。
「旦那ぁ〜、本当にこいつで大丈夫なのか?」
「仕方がなかろう。上からの指示だ。」
「ほれ、クラウド。さっさと着替えろ、それとも脱がされたい?」
「じょ、冗談じゃない!!」
真っ青な顔でザックスから式服を奪い取ると、クラウドが他の訓練兵と共に更衣室へ駆け込んだ。
「俺達…どうなるんだろう?」
「ジュノンに行くしかないんだろう?」
「サー・セフィロスとサー・ザックスに囲まれているプレジデントを警備する必要って有るの?」
「あるんだから行くんだろう?それにプレジデントはサーに言わせるとソルジャーを飾りとしか思っていないらしい。」
「クラウド…頑張れよ。」
「何をどう頑張ればいいのやら。」
クラウドは深いため息をついた。
訓練兵10人がセフィロスとザックスの前に並ぶとトップのクラウドが号令をかける。
「総員敬礼!!」
号令と共に訓練兵が二人のトップソルジャーに敬礼をする、ザックスとセフィロスが敬礼を返すとクラウドが再び声をかける。
「敬礼、直れ!!」
セフィロスが軽くうなずいて訓練兵の前に立つと隣りのザックスが口を開く。
「ん〜〜、まぁよぉ。ジュノンに行ってプレジデントの爺さんを守るなんて表面上で、お飾りになりに行くようなもんなんだが、ともかく周囲に目を配る事を忘れないように。」
ザックスがそういうと全員がジュノンに向かってトラックに乗り込む。
ふとザックスがクラウドに向かって話しはじめた。
「クラウド〜〜、おまえ大丈夫か?ダメそうなら助手席に載せてもらえ。」
「え?あ、はい」
まだ外を眺めていられる助手席の方が乗り物酔いはマシそうなので言われた通り助手席に載せてもらうとトラックは一路ジュノンに向かって走りはじめた。
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