FF ニ次小説
 タークスのツォンがわざわざセフィロスの執務室に出向いてきた理由は、カンパニー若社長のルーファウスが女装したクラウドに熱を上げていたからであった。
 ツォンから来訪の理由を聞いたクラウドが叫んでいた。
「い、いやです!!俺、男ですよ?!ばれたらどうするんですか?!」
「それを言われると思いルーファウス様にはサー・セフィロスの恋人だからと断りを入れていたのですが、ならば二人とも呼べばよいと言われまして…」
「あれからセフィロスと連れ立っていないから信じていないんだろ?」
「ええ、どうやらそのようです。」

 ツォンがすまなそうな顔をしている所をみるとかなり庇ってくれていたようだ。
 クラウドが溜め息をつく後ろでザックスが笑い転げている。
 そのザックスに蹴りを浴びせてクラウドがセフィロスの顔を見る。
 セフィロスにも迷惑な事なのかツォンに難癖をつけた。
「フン!貴様ともあろう男があんなガキに丸め込まれたのか?」
「かなり言い訳はしたのですが、なにしろ貴方と言う方はあれからも浮き名を流して見えますから言いくるめられませんでした。」
「ブハハハハハハ!!しゃあないだろ?!この英雄さん言い寄ってくる女なんて掃いて捨てるほどいるんだからな。」
「だからって、何で俺が女装してまでガキに付き合ってやんなきゃいけないんだよ!?」
「ストライフ君。ルーファウス様は君よりは年上だ。」
「あ…すみません。(^^;;」

 ツォンの一言に一瞬でクラウドが黙ってしまった。
 ザックスがいまだに笑い転げている後ろでセフィロスが何かを考えていた。

「ツォン、なぜ女装したクラウドとルーファウスがデートするのに私が付き合わねばならないのだ?」
「サー・セフィロス。貴方は先程私が言ったことを覚えてお見えですか?貴方の恋人と報道された美少女をルーファウス様が一目惚れされたのですよ。当然ストライフ君に迷惑をかけない為にも貴方の恋人だと断ったと申しました。」
「クラウド、お前には迷惑なのか?」
「と、当然です。何故男に惚れられなければいけないんですか?」
「今さら実は男でしたなどと言ってもルーファウス様の性分では聞き入れられないのですよ。」
「ひーーーー!!ひーーー!!腹痛てぇ!!!クラウド、諦めてデートしてやれよ。」

 ザックスが言葉を発した途端クラウドの回し蹴りが綺麗に決まった。
 1stソルジャーであるザックスが蹴飛ばされてうずくまる。

「ふざけるな!!俺は男と付き合う趣味なんて無い!!」

 クラウドが声を荒げてザックス相手に仁王立ちをしている。
 ツォンがその技の切れに思わず口笛を軽く吹き拍手をしていた。

「お見事。さすが訓練生のトップですね。しかし、それをルーファウス様にお見舞いされたくはありませんな。」
「とにかく俺は絶対嫌ですからね。」
 ツォンに断りを入れているクラウドを眺めながらセフィロスがザックスに問いかけた。
「ザックス、クラウドはそれほどの美少女だったのか?」
「は?!あ、ああ。クラウドとわかっていなかったら俺も口説いていると思う。」
「飯を作るのが上手いとも言っていたな。」
「ああ、こいつ母親と二人暮らしだったらしくて、よく母親の帰りを待ちながら飯作っていたらしいぜ。」
「ふむ…ツォン、ルーファウスにはシャイな少女だからもう少し待てとでも言っておけ。」
「サー、何をお考えで?」
「マスコミ避けと追いかけ避けとクラウドの教育の為だ。」
「セ、セフィロス。まさかあんたクラウドをマジで彼女にするつもりか?!」
「貴様は!!!そう言う発想しか出来ないのか?!」

 再びセフィロスの鉄拳がザックスの頭に炸裂した。
 クラウドが思わず顔をしかめていたがどうやら慣れているのかツォンは苦笑している。

「承知致しました、ストライフ君はソルジャー付の秘書官なのですから直接の上司であるサーと行動を共にしても何ら問題はありません。むしろ彼の将来を思えばザックスのそばに居るよりはるかにプラスです。」
「どうする?クラウド。ギブ・アンド・テイクになるが、私と生活を共にして何かを吸収する代わりに貴様は少しの犠牲を払うことになるぞ。」
「ぎ、犠牲ですか?」
 クラウドがとまどうような顔をしているのでツォンが説明をする。
「多大な犠牲です。サーと共に過ごす事になる栄誉の代わりに君はありとあらゆる中傷ややっかみ、そして批難や嫉妬にあう事になる。」
「期間は限定だ。貴様が正式にカンパニーに一般兵として採用されても、私の元に残るかどうかはわからないからな。」
「無論、君がサーのそばで色々と学べばそれだけサーの隊に入れる可能性は広がります。」

 ツォンのこの言葉が引き金になった。
 クラウドは迷いのない視線をまっすぐセフィロスの元に向けて話した。

「自分は正式にカンパニーに採用されたらサーの隊に所属したいです。そのためなら誹謗中傷ぐらい何でもありません!!」
「では、そのように手配いたしましょう。」
「え?!手、手配って…一体何を?」
「君はサーのお住まいを知らないのでしょう?」
「え?あ、いえ。一度業務上の都合で泊まらせていただいた事があります。」
「ならばどんな所かは知っているのですね?君のような格好で入れる所では無い所だと言う事もわかっているね?」

 クラウドは以前、宝条のいたずらで女性化してしまった時に、ザックスと一緒の部屋に戻る訳に行かないのでセフィロスの部屋に泊まった事を思い出していた。

(たしか…暗証コードと指紋と目の虹彩で個人認識していたよなぁ。…って、待てよ。それって凄いセキュリティー高いよなぁ。そんなことができるなんてかなり高級なマンションだって事で…)

「あ、あの。訓練生が制服で出入り出来るような部屋ではないです。」
「そう言う事です。君にはそう言う衣装が有るとも思えないですが?」
「はい、ありません。」
「ならば何枚かの衣装をこちらで揃える必要が有ります。ユニセックスな服か女性物になりますがそれは我慢して下さい。」
「選択の余地は…無いようですね。」
「それも君が我慢する範疇だと思って下さい。」

 クラウドとツォンのやりとりを黙って聞いていたザックスが急に声をあげた。

「って、待てよ。クラウドがしばらくセフィロスと暮らすとなると、俺を起してくれたり飯作ってくれたりする可愛い弟がしばらくいなくなるって事?」
「そう言う事になるな。せいぜい頑張るんだな。」

 セフィロスが冷たく微笑むのをザックスがうらめしそうににらみ返している。ザックスがため息交じりにつぶやいた。

「マジですかーー?!うわぁ、どうするべぇ!!」
「自業自得だ」
「でもまぁ、クラウドの貞操狙っている奴らから逃げる一番いい方法でもあるんだよなー。よかったな、嫁入り先が決まって。」

 その言葉にセフィロスが冷たい瞳でザックスを見て、ツォンが頭を抱えた瞬間に、正拳突きをくらって前かがみになった1stソルジャーの膝をジャンプ台にして飛び上がったクラウドが踵落しを決めた。

「誰が嫁入りだーーー!!!!」
「きゅう……」    ← ザックスが気絶する音
 クラス1stのソルジャーを不意打ちとはいえノックアウトした訓練生を目の前にみてツォンとセフィロスがにやりと笑いながらつぶやいた。
「これはなかなか…将来性がありそうですね。」
「教え甲斐がありそうだな。」

 白目を向いてノックアウトされたザックスを見てもクラウドのコンボ技しか目に入っていないのか、平然として居るあたりはさすがにトップソルジャーとタークスの主任になった男達であった。
 白目を向いて伸びているザックスにクラウドが吐き捨てるように怒鳴った。
「毎朝起こすたびに別の女の名前で呼ばれて抱きつかれる事もなくなってせいせいするね!あーーーもう本当せいせいするよ!!」

 捨てぜりふまではいて息巻いて執務室から出て行ったかと思うと、クラウドは10分もしたら手にリュックをもって戻ってきた。
 それを見たセフィロスがにやりと笑いツォンがクスリと笑う。

「決断が早いのは良いことですね、では失礼いたします。」

 ツォンが一礼すると執務室から出て行った。
 クラウドはセフィロスの方を向き直り深々と一礼して話しはじめた。

「一人前のソルジャーになれるようご指導下さい、よろしくお願いします!」

 一礼から治るとクラウドはさっそく通常業務に戻った、白目を向いて倒れていたザックスが、蹴られた頭を撫でながら苦虫を噛みつぶしたような顔でそれを眺めていた


* * *



 小一時間の後にツォンは紙袋を3つほど持って戻ってきた。
 クラウドが呼ばれて紙袋の中を説明された。
 品の良いドレスシャツが数枚と上着、ゆったり目のツータックパンツ、ワンピースドレスにプリーツスカートと靴、そして化粧品とアクセサリーが数点入っていた。
 その内容にクラウドは顔を青くしていた。
「お、俺。こんなにお金持っていません。」
「経費で落します。君には最終的にルーファウス様と一緒にディナーを食べていただかないといけませんからね。」
「うわっ!!引き受けなければよかった。」
「クラウド、物は考えようだぞ。日ごろ食べた事の無いような高級ホテルで舌が蕩けるようなディナーをただで食べれる。」
「そのまえに、テーブルマナーを思い出さないと…サーにご迷惑をかけたくはありません。」
「良い心がけです、ではセフィロス。準備が出来しだい連絡下さい。」
「ああ、覚えておこう。」

 その日からクラウドはセフィロスの私室で過ごす事になった。
 任務を終えると流石に今日は鍵も開けられないので一緒にかえる事になった。
 ザックスの手元を見ると空き缶と紐を山ほど持っていたので再びクラウドに蹴り倒された。

「何考えているんだよこの馬鹿ソルジャーは!!!」

 鼻息も荒くゲシゲシと蹴りを繰り出しているクラウドに苦笑しながらもセフィロスが止めに入る。

「辞めておけ。これ以上バカになったらソルジャー落第になる。」
「ま、まった!!ソルジャーって一度なったらもうランクダウンしなくても良いはずじゃなかったか?!」
「貴様の場合、知能試験を入れるべきだったと反省している。」
「げっ!!クラウドーーー!!戻ってきてくれーーー!!」
「い・や・で・す!!俺はサーにつく事を選びます!!」
「と、言うことだ。せいぜいクラウドの自由時間に書類の書き方を教えてもらうのだな。」

 そう言うとセフィロスはさっさと愛車の最新式神羅スポーツGTSに乗り込むと、フルスロットルで高速へと駆け抜けて行った。
その排気ガスを浴びながらザックスが泣き叫んでいた。

「クラウドーーーー!!!カムバーーーーック!!」

 ザックスの叫びはむなしくミッドガルの灰色の空に消えた